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建国記念祭夜⑧



 イルネスさんに連れられて時計塔の屋根の上に辿り着き、ふと音が聞こえて空を見上げると、空には大輪の花が咲いた。

 かなり大きな花火、それだけではなく凄くカラフルだ。この世界には魔法というものが存在するので、俺のいた世界よりファンタジー感のある、色鮮やかで形も様々な花火が多い。


「さすが、建国記念祭の花火ってだけあって凄いですね」

「そうですねぇ。とても~色鮮やかですぅ」


 不思議なもので、イルネスさんの声はそれほど大きいわけではないのだが、花火の音の中でもハッキリと聞こえてきた。

 アイシスさんも似たような魔法を使っていたので、それと同じ魔法を使っているのかもしれない。


 そんなことを考えながら花火を見ていると、イルネスさんがフッと微笑みながら告げる。


「座っても大丈夫ですよぉ。保護魔法を使っているのでぇ、服が汚れたりすることもありませんよぉ」

「なるほど、それなら座って見たほうが見やすそうですね」


 そう告げながら屋根の上に腰を下ろす。この時計塔の屋根は傾斜が少なく座りやすい。座って見ると花火が凄く見やすい感じでいい。

 そう思っていると、不意にイルネスさんが俺の後方に移動するのが見えた。どうしたんだろうと、首を傾げた瞬間、肩に手を置かれて後ろに体を引かれた。


「こちらのほうがぁ、よく見えると思いますよぉ」

「はえ?」


 ストンと体が後ろに倒れると共に、頭の後ろには柔らかな感触、そしてこちらを覗き込んで微笑むイルネスさんの顔と、空に上がる花火が見えた。

 えっと、これアレだろうか? 俺は今イルネスさんに膝枕されており、空を見上げていると……ああ、だから俺の後方に移動して……。

 た、確かに寝ころんで見上げる形の方が花火はよく見えるし、首が痛くなったりする心配もないが……。


 だがこれは、かなり恥ずかしくて……えっと、イルネスさん的には大丈夫なのだろうかとそう思うが、イルネスさんは静かに花火を見上げており、声をかけるのは躊躇われた。

 色とりどりの花火の光が、イルネスさんの表情を照らし同じ顔のはずなのに、いろいろな表情を見ているようなそんな錯覚を覚えた。


 ……って、花火じゃなくてイルネスさんばっかり見てるじゃないか。視線を花火に戻さないと……。










 少し赤くした顔で花火に意識を集中させる快人をチラリと見て、イルネスは思考を巡らせる。


(少し強引過ぎたかもしれませんねぇ。反省しないと~駄目なはずなんですがぁ、困りましたねぇ。楽しいという気持ちがぁ、抑えきれません~)


 思い返してみれば、最初からそうだった。初めは快人の出店に足を運ぶつもりは無かった。練習の際に試作したベビーカステラは分けてもらったし、イルネス自身祭りはそこまで好きというわけでは無い。

 過去に数度祭りを見に行ったことはあった。だがイルネスには周囲の様子が、人々の反応がイマイチ理解できなかった。

 楽しいという感情が、笑い合う姿が、どうあっても己と重なることは無く、己には全く関係ないもので今後も必要ないものだと思っていた。


 だが、今回は……気付けば、仕事が終わったあと祭りの……快人の出店に向けて足を進めていた。一歩近づくごとに心が弾んだ。出店で笑顔を浮かべている快人を見て、満たされるような幸せな気持ちになった。

 そのあとで共に店番をしていた時は、本当に1秒1秒が惜しいほどに幸福なひと時だった。それですら十分すぎるというのに、いまこうして快人と共にふたりで花火を見ている。


(……幸せですねぇ。カイト様もぉ、そう思っていてくれたら嬉しいのですがぁ)


 そうなことを考えつつ、イルネスはフッと小さく笑みを溢した。視線は空に向き、いくつもの花火を目に映している。

 だが、決して花火に集中しているかと言われれば、そうではなかった。


(困りましたねぇ。花火を見ているはずなんですがぁ、ずっとずっと~カイト様のことばかりが頭にあってぇ、そちらにばかり~意識が向いてしまいますねぇ)


 まさか快人も同じようなことを考えているとは思わず、イルネスは軽く微笑み膝枕をしている快人の頭を優しく撫でた。


(下はぁ、向けませんねぇ)


 視線は空に向けたままで……なぜなら、イルネスはいま己が緩んだ顔をしているという自覚があったから、快人と一緒にいる幸せを噛みしめ、蕩けたような表情を浮かべていると自覚していたから。

 なんとなく、その表情を快人に見られるのは……少し……ほんの少しだけ……恥ずかしい気がした。





???「ほぅ、パンデモニウムが照れるとは……変われば変わるもんすね。ところで、シリアス先輩飴はそろそろ飽きて来たんで、チョコレートとか分泌してくだい」

シリアス先輩「……(無茶言うなという文字が浮かび上がる)」

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘
[良い点] これは……シャローヴァナルドヤァじゃないか…… やっぱ先輩、スペックだけは創造神レベルになってない?ギャグキャラ補正で、もはやエピローグも効かないでしょ?
[良い点] 書籍化したら是非絵が欲しくなるよさ [一言] どんな味なのか気になる
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