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建国記念祭夜⑥



 突如イルネスさんとデートと言う名目で花火を見に行くことになり、手を繋いで出店の灯に照らされた夜の道を歩く。

 手から伝わってくる温もりを感じつつ、身長差があるので出来るだけ歩幅を小さくして歩く。


「イルネスさん、歩くスピードは速くないですか?」

「はいぃ。気を使ってくださってぇ、ありがとうございますぅ。大丈夫ですよぉ」


 穏やかに微笑みながら言葉を返すイルネスさんの顔を見て、なんというか変に自分が緊張しているのに気づく。やっぱりイルネスさんと手を繋いで歩いているというシチュエーションが大きいのかもしれない。

 あと、トーレさんが変にデートとか言ったせいで意識しているというのもあるのだろうが……。


「あっ、イルネスさん。あまり時間があるわけでは無いですが、花火が見える場所に向かう途中で、なにか買いますか?」

「そうですねぇ。私は~あまり祭りに来た経験が無いのでぇ、カイト様がぁ、選んでくれますかぁ?」

「あ、はい。任せてください」


 ……困ったぞ。ど、どうする? なんだ? なにを選べばいい? イルネスさんの食べ物の好み……わ、分からない。

 い、いや、待て落ち着け。状況を考えてみよう……俺とイルネスさんは手を繋いでいる状態だ。この状態と、これから人が多い大通りに行くことを考えると、両手で食べるようなものはNGと考えるべきだろう。

 できれば片手で食べられる。例えば串焼きだとかりんご飴のようなものがいいと思う。


 個人的な意見はイルネスさんが串焼きを食べているのはイメージに合わない気がするし、ならば選ぶのはりんご飴の方……この世界だとリプル飴かな?

 ただ、りんご飴って可愛らしい雰囲気とは裏腹に、結構なボリュームだ。イルネスさんは以前の晩酌の際などから考えるに小食……りんご飴は大きすぎるのではないだろうか?


 そう考えつつ道にある出店に視線を動かしていると……フルーツ飴という出店を見つけた。あっ、そうか、リンゴ以外のやつもあるのか……。


「イルネスさん、あそこのフルーツ飴なんていかがですか? いろいろ種類があるので、好きなのを選べると思いますが……」

「はいぃ。では~せっかくですしぃ、買っていきましょうかぁ」

「はい。結構いろいろありますけど、イルネスさんはどれがいいですか?」

「そうですねぇ……いちごの飴ですかねぇ」


 イルネスさんが選んだのはいちごが五個程串に刺さっているフルーツ飴だった。一粒一粒はそれほど大きくないので、確かにこれなら食べやすそうだ。

 そう思っていると、イルネスさんはチラリと俺の方を見て苦笑する。


「ただ~少し多いかもしれませんねぇ。カイト様~もしよろしければぁ、半分程食べていただけませんかぁ?」

「え? あ、はい。分かりました。じゃあいちご飴だけ買って、まずはイルネスさんが好きなだけ食べてください。それで、残ったのを俺が食べますよ」

「はいぃ」


 よかったよかった。無事にイルネスさんに合ったものを選べて……いや、待て? あまりにも自然な会話の流れでサラッと流してしまったが、ひとつの串のフルーツ飴をふたりで食べるというのは、なかなか恥ずかしいような……。

 い、いや、幸いいちごなので一粒ずつ食べる形になるだろうし、間接キスのような形にはならないが……意識するなというのは難しい。


 いや、仮にこれが恋人の誰かとであればそこまで意識するわけでは無いが、イルネスさんは恋人というわけでは無いし、その上なんだろう……えっと、優しくて大人っぽくて、割と憧れに近い感情を抱いている女性なので、妙に意識してしまう部分があるのだ。


 なんとも言えない気恥ずかしさを感じつつ、いちご飴を買ってイルネスさんに手渡す。そして再び歩き出すわけだが、イルネスさんがいちご飴を食べる姿が妙に気になってしまった。

 俺であれば一口で食べれそうな一粒を、小さく何度かに分けて食べている姿は、なんというか上品さを感じる。いや、なんというか、前々から思ってはいたが貴族家に勤めるメイドだけあって、イルネスさんの食べ方は凄く上品で見惚れてしまう感じである。


「カイト様ぁ?」

「え? あ、すみません!? お、美味しそうだなぁって……」

「くひひ、はいぃ。とてもぉ、美味しいですよぉ」

「そ、それならよかったです」


 イルネスさんの方を見ていたことに気付かれ、思わず誤魔化すと、イルネスさんは楽しげに笑ったあとでスッといちご飴の刺さった串を差し出してきた。


「カイト様もぉ、おひとつどうぞぉ」

「はえ? あ、えと、は、はい……いただきます」


 俺が想定していたのは、あくまでイルネスさんが先に満足するまで食べて、残りを俺が食べる形であり……このように一粒一粒交互に食べる形は、まったく想定外である。

 しかも、形的にイルネスさんに食べさせてもらっているような状況……想像していた以上の気恥ずかしさがあったのは、言うまでもない。

 ただ、気のせいか……なんとなくではあるが、イルネスさんが……いつもより楽しそうにしているように思えた。




シリアス先輩「……う、動けん……あまりの糖度に体が、固まって……動けない」

???「なんすか、このツヤツヤ? ……べっこう飴じゃないっすか……え? 飴も分泌するんすか、シリアス先輩……砂糖になったり飴で固まったり……相変わらず、面白い生態しすぎでしょ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 糖
[良い点] シリアス先輩、最終的にどこぞの創造神みたいに、何でもかんでも創造出来るようになるんじゃなかろうか。
[良い点] 最近の作者さんホントにイルネスお気に入りですね~長期連載だと書いてる側も味変したくなりますもんね
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