建国記念祭夜③
香織さんと茜さんが若干呆れながら去っていったあとも、出店はほどほどに客が訪れていた。来ると言っていたカミリアさんも来てくれて他愛のない雑談をしたりして、なんだかんだでとても楽しく出店を行えていた。
「……そろそろ花火の時間ですかね?」
「あっ、そうだね。けど、この出店の位置からじゃ見えないよね?」
「あ~そうですね。建物の影になっているので、少し行って大通りに出たら見えると思いますけど……」
空が暗くなり、まもなく花火が始まるであろう時間になった。かなり豪勢にやるみたいなので、見たいという思いもあるが店を放っておくわけにはいかない。
そう考えていると、チェントさんとシエンさんが口を開く。
「せっかくですし、トーレ姉様とミヤマさんとシエンで見に行くのはどうですか?」
「客足も落ち着いてきたので、店は私ひとりで大丈夫ですし、トーレ姉様とミヤマさんとチェントで花火を見てきたらいいのでは?」
「「……」」
ほとんど同時に、チェントさんもシエンさんも、自分がひとりで店番をするから花火を見てくるといいと提案して、互いの言葉に顔を見合わせた。
「……いや、シエンが行くべきです。私は昼に要望を聞いていただきましたから」
「……アレは全員で了承したことなので考慮に値しません。チェントが行くべきです」
どちらも人がいいので、自分が残って相手に楽しんできてもらおうと考えてしまうみたいだ。トーレさんの護衛もあるので、さすがに両方残るというわけにはいかないみたいだが……。
その様子を見つつ、ある考えが浮かんだ俺はふたりに声をかける。
「待ってください、ふたりとも……ここは俺が残りますので、三人で見てきてください」
「ミヤマさんが!? い、いけません」
「そうです、残るなら私が……」
「よしっ! じゃあ、店番はカイトに任せて、私たちは花火だ~」
「「トーレ姉様!!」」
店番に残ると告げる俺に対し、ふたりは慌てた様子で止めようとするが……そこにトーレさんが気楽な感じで了承の言葉を返す。
やっぱりトーレさんはなんだかんだでよく分かっているというか、ここぞというところで空気を読んでくれる。
「まぁ、ふたりが遠慮する気持ちも分かるけど、ひとり残るって組み合わせでチェントとシエンを分けると、カイトとしてはモヤモヤが残るんだよ。それなら、いっそ三姉妹セットで行ってきてもらったほうがいい……ってまぁ、そんな感じだよね?」
「ええ、それに今回は俺の提案に付き合ってもらったということもあるので、お礼も兼ねてということで……」
「うっ、そう言われてしまうと……断り辛いですが」
「ミヤマさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、皆花火を見に行って客も少ないですし、いざ忙しくなったらそこの着ぐるみを店に立たせればいいので……」
そう、俺が残っていざ忙しくなっても、アリスに手伝ってもらえば問題なく回る。まぁ、周囲の人の数を見る限り、その必要はなさそうだが……。
なんだかんだでチェントさんとシエンさんも花火は見たかったのか、トーレさんと俺の説得に応じてトーレさんと三人で花火を見に行くことに決まった。
ふたりが了承した際にトーレさんがウィンクをしてきたので、俺も軽くサムズアップをしておいた。なんだかんだで、チェントさんとシエンさんは俺やトーレさんのサポートに回りがちだったので、どこかでふたりに楽しんでもらえる機会を作りたいと思っていたので丁度よかった。
トーレさんが居れば、ふたりも問題なく楽しめるだろう。トーレさんも必要な時にはちゃんと空気を読む人だし、このタイミングで迷子になったりすることは無いはずだ。
三人を送り出したあと、俺はベビーカステラを焼きつつ、呟く。
「……まぁ、全部ひとりでは大変そうではあるけど……」
「ではぁ、三人が戻られるまでの間~私がお手伝いするのはいかがでしょうかぁ?」
「え?」
突然聞こえてきた声で、鉄板に向けていた視線を上げると、店の前に見覚えのある方……私服姿のイルネスさんが居た。
「イルネスさん!?」
「はいぃ。カイト様の店ということで来たのですがぁ……どうやら~とてもいいタイミングだったみたいですぅ。カイト様さえよろしければぁ、少し~私にお手伝いさせてくれませんかぁ?」
「え、えっと、それはもちろんありがたいですが……いいんですか?」
「はいぃ。見ての通り~仕事中ではありませんのでぇ」
「……ありがとうございます」
その溢れんばかりの包容力のせいか、どうにもイルネスさんの厚意には甘えてしまいがちになる。穏やかに微笑みを浮かべるイルネスさんを見て、申し訳なさももちろんあるのだが……それ以上に、嬉しいという気持ちがあった。
シリアス先輩「な、なにぃぃ!? こ、ここでイルネス……だと……」




