建国記念祭夜②
茜さんと香織さんにとって着ぐるみの中身がアリス……幻王というのはかなり驚きだったみたいで、唖然とした表情を浮かべていた。
そういえば、リリアさんたち含めた周りの人には割と周知の事実ではあるが、知らない人には幻王がなぜ着ぐるみを着て客引きを……って思うのだろう。
とりあえず、茜さんが青ざめた表情でガタガタを震えてるので、そちらのフォローを入れておく。
「茜さん、大丈夫です。俺も大体同意見で、キモカワというよりはキモイ寄りだと思ってます」
「酷くないっすか、カイトさん!? 可愛い恋人ですよ、そこはいい感じにフォローを付け足すところでしょ?」
「……まぁ、俺の場合は中身込みで評価してる部分がありますが」
「なんでさらに酷いの付け足すんすか!?」
アリスが抗議の声を入れてくるが、その辺りはスルーする。
「なので、茜さんもまったく気にする必要は無いですよ」
「え、えと……大丈夫やろうか? ウチ、殺されたりせえへん?」
「……アリス、お前って割と世間からの評価酷いよな?」
「不思議っすね。平和を愛する慈愛に溢れた存在だと自負してるんですけど、やたら恐れられてる感じがしますね」
だいたい世間の評価としては、幻王は冷徹で不要と判断した相手は即始末。戦王や死王とは別のベクトルでヤバい、冷徹な秩序の番人みたいなイメージを持たれている。
実際俺から見ると割と馬鹿という感じではあるが。実際に持ちうる力とか考えると、そういう評価も仕方ないかもしれない。
「……ちゅうか、快人。お前、幻王様になんて事させてんねん! 心臓に悪いなんてレベルやないぞ!?」
「着ぐるみの中が幻王様? あ、あはは、写真撮っちゃったよ、私って凄いなぁ……はは……お腹いたい」
「ほら! 香織も腹押さえて蹲ってもうたやんか!?」
「いや、信じられないかもしれないですけど、俺がやらせてるんじゃなくて勝手にやってるんです。普段から着ぐるみ着てるんですコイツ……」
その誤解だけはなんとしても解いておかなければならない。俺が無理に着ぐるみ着させているわけではなく、アリスが勝手に着ているだけだ。
しかし、果たしてその言葉が信じてもらえるかというと……アリスを知らない相手と考えると、微妙である。
「そ、そんな、酷いカイトさん……私に無理やり――いだぁぁぁぁぁぁ!?」
「お前マジで黙ってろ」
馬鹿が状況をややこしくしかけたので、躊躇なくシロさん特製のピコハンでぶん殴る。これ、着ぐるみの上から殴っても効果あるのか……。
「……快人が嘘言ってるとも思えんし、ホンマにそうなんか……なんや、熱出そうやわ。しかも、幻王様相手にその扱いって、お前ホンマにとんでもないな……」
「う~ん、本当に胃に悪い後輩だよ……ところで、快人くん。先に聞いておきたいんだけど、そっちの店にいる人たちも、もの凄い方たちじゃないの?」
とりあえずは納得してくれたみたいで一安心だが、続けて香織さんが不安げな表情でトーレさんたちの方を見ながら尋ねてきた。
「……えっと、こちらのふたりはチェントさんとシエンさんと言いまして、どちらも伯爵級高位魔族ですね」
「……香織、コイツものすっごい普通な感じで伯爵級とか言ったぞ?」
「普通伯爵級って時点で、とんでもないんだけどなぁ……快人くんだしなぁ……」
たしかに、言われてみればチェントさんもシエンさんも伯爵級高位魔族であり、世間的に見れば滅茶苦茶凄い方たちである。
いかんな、どうも基準が六王だとか世界的に有名なビックネームとかになってた。爵位級って時点で、一般的に考えると凄い存在だって、感覚を修正しておかないと……。
「それでこっちの背の高い方がトーレさんと言って……えっと……」
「ささ、カイト。どーんと、私を持ち上げて紹介していいよ?」
「……トーレさんって、世間的に言うとどういう立ち位置の方なんですか? 大物感はサッパリですけど……」
トーレさんは爵位級とかってわけでもなく、六王幹部とかでもない。特殊な魔法が使えて凄いことはできるのだが、それを言うわけにもいかない。
となると、世間的な役職ではなんだ? セーディッチ魔法具商会に勤めている魔族?
「え? 私? う~ん。役職としては、セーディッチ魔法具商会『魔水晶部門の特別顧問』だよ」
「……ごっつい大物やんか!?」
「えっへん!」
トーレさんってそんな役職持ってたの? 俺も完全に初耳である。そう思いつつ、チェントさんとシエンさんに小声で話しかける。
「……トーレさんって、かなり偉いんですか?」
「いちおう、トップは全商会の統括であるクロム様ですが、その次に各部門の特別顧問が居て、その次が会長になるので……ゼクス兄様たちと同じ役職です」
「特別顧問は少し特殊な役職で、細かく説明すると長くなるので省きますが、簡単に言えば会長であるセイ・リベルスターより立場が上です」
……衝撃の事実である。なんなら、今日一番驚いたかもしれない。た、確かにクロの家族としては、フィーア先生やフュンフさんの姉に当たるわけだし、高い立場に居てもおかしくないのだが……本人のキャラのせいか、いまのいままでまったくそんなに高い立場にいるとは思っていなかった。
シリアス先輩「確かに能力の希少性とか、有用性を考えると高い立場に居て当然なんだけど……快人の言う通り、マジでそんなイメージ無いから驚く」
???「まぁ、トーレさんは実際に商会の運営とかには関わってませんし、役職は能力によるものが大きいですけどね。そういえば、話は変わりますけど、意外と私の着ぐるみが黒猫って知らない人がいるんですね……ちなみに、シリアス先輩が初めて出た番外編で黒色であることが書かれてたりします。コミカライズでは通常版ですがね」




