建国記念祭昼⑩
コミカライズ第七巻の発売日は明日10月25日です。公式サイトなどは活動報告にてご確認ください。
東の通りに入り、少し歩くと食べ物が多かった中央付近とは違い、店の雰囲気も工芸品などが並ぶものが多くなってきた。
焼き物とか木工品とか、そういった品々が並ぶ独特な雰囲気のエリアだった。チェントさんの話ではシンフォニアの五色焼きはそれなりに有名みたいで、やはり焼き物が多いような印象を受けた。
「あの辺りとかが五色焼きなんですか?」
「そうですね。五色焼きが多いですが、あの店などはハイドラ王国の焼き物ですね。五色焼きのように伝統の深い焼き物もあれば、ハイドラ王国のクラスブルーと呼ばれる焼き物を中心に、新鋭のものもあります」
「なるほど……チェントさん的には、何か目を引く店はありますか?」
「さすが建国祭だけあっていいものが多いですね。小皿が欲しいので……あの店などよさそうですね」
チェントさんが示した店には大小さまざまな皿が置いてあり、どれも色鮮やかで美しい印象だった。チェントさんが興味を惹かれたのであれば、そこに行くことに異論はない。
出店の前に辿り着き、チェントさんが真剣な表情で皿を見るのを、他の客の邪魔にならないように少し離れて眺める。
「……ちなみに、トーレさんとシエンさんは分かりますか?」
「私はサッパリ、綺麗だなぁ~ぐらいの感想だね」
「私は多少程度であれば……チェントが言うには、五色焼きは特に色の鮮やかさとバランスに注目するみたいです。単に綺麗に色が出ているかだけでなく、他の色合いとのバランスも重要だとか……」
なるほど、色合いか……俺は、トーレさんと同じ感じかなぁ。綺麗だとは思うけど、具体的にどれがどういいとかはよく分からない。
そんなことを考えつつぼんやりと皿を選ぶチェントさんを見ていたのだが、不意に視界の端に知り合いの姿が見えた。
「あっ、トーレさん、シエンさん、すみません。ちょっと知り合いがいたので、挨拶してきます」
「うん? 了解。じゃ、私たちはこの店の前に居るね」
「分かりました」
チェントさんもまだ選ぶのには少し時間がかかりそうだったので、知り合いに挨拶をすることにして、トーレさんたちに断りを入れてから移動する。
しかし、割と意外な方が居たもの……いや、焼き物は少しイメージと違うが木工品とかだと、逆にイメージ通りかもしれない。
「……こんにちは、カミリアさん。こんなところで奇遇ですね」
「おや? カイトさん? こんにちは……本当に、よく気付きますね。こういった場所で知り合いに見つけられることはあまりないのですが……」
そう、見かけたのはカミリアさんであり、木造りのコップなどが並ぶ出店を見ていた。カミリアさんは振り返って軽く苦笑したあとで、優し気に笑った。
「ですが、こうして会えて嬉しいです。ハーモニックシンフォニーとお茶会の席ではお世話になりました」
「いえ、こちらこそ」
「……っと、店の前で話し込むのもいけませんね。少しだけお待ちを」
カミリアさんはそう告げたあとで、見ていた木のコップを二つほど購入し、それを時空間魔法で収納したあとで、店から少し離れた場所に俺と共に移動する。
「カイトさんの店には、あとで立ち寄るつもりでしたが、ここで会うのは意外でしたね。工芸品を買いにいらしたんですか?」
「ああ、俺がというわけでは無く一緒に回っていたチェントさんが、陶磁器が好きということでこちらにきました」
「なるほど……そういえば、トーレさんたちと店をやっていましたね」
「あっ、そっか、当たり前ですけど、トーレさんたちのことも知ってますよね。連れてくればよかったですね」
カミリアさんも六王幹部であり、相当長く生きている方なので、トーレさんたちとも交流があるのだろう。特にトーレさんは、ティルさんとかとも仲がいい感じだったので、界王配下との交流も多いのかもしれない。
「私はそれほどトーレさんたちと交流が深いわけではありませんが、たびたび会う機会はありますね。うちでトーレさんたちと交流が深いのは、ティルさんやジュティアさんですね」
「あ~なんとなく、そのふたりはトーレさんと相性がよさそうなイメージですね」
明るく社交的なティルさんとジュティアさんは、確かにトーレさんと気が合いそうな感じで、三人でワイワイと楽しげに話している姿がイメージできた。
「……そういえば、話は変わりますが、エリィがカイトさんを万花の園に招待したいと言っていまして、また都合のいい日を教えてあげてください」
「分かりました。ロズミエルさんに伝えれば大丈夫ですかね?」
「ええ、かなり前から言ってたんですが……どうもエリィに任せておくと、いつまでたっても言い出しそうにない雰囲気だったので……」
「あはは、ロズミエルさんらしいですね」
ロズミエルさんは引っ込み思案なところがあるので、なかなか自分からは誘い辛いというのはイメージ通りである。
俺はそのまましばし、カミリアさんと楽しく雑談をしてからトーレさんたちの下に戻った。
???「そういえば、シリアス先輩。コミカライズの七巻のカバー裏でシャローヴァナル様に処刑されてましたね」
シリアス先輩「……アイツ、嫌い」




