建国記念祭昼⑨
チェントさんの希望の東の通りに向かいつつ、ふと気になったので後方を歩くチェントさんとシエンさんの方を向く、ふたりも俺とトーレさんと同じように律儀に手を繋いでおり、なんというか微笑ましい。
「そういえば、チェントさんは陶磁器が好きで、シエンさんはなにか好きなものとかあるんですか?」
「はい。実はチェントと少し似ていまして、私も工芸品を収集しています」
「シエンは、ガラス製品が好きなんだよ」
「なるほど」
チェントさんは陶磁器が好きで、シエンさんはガラス製品が好き。話を聞く限りふたりとも収集しているみたいなので、工芸品の収集が趣味という点では同じである。
「私の場合は食器類とかよりも、飾れるようなガラス細工を好んで収集しています。いちおうチェントと同じように素人ながら、なんどかガラス細工を作ったこともあります」
「シエンは手先が器用なので、ガラス細工も見事なものですよ。ミヤマさんも機会があれば、シエンの作品を見てあげてください」
「それは楽しみですね。機会があればぜひ……ガラス製品とかは、東の通りには無いんですか?」
時間的にはまだ余裕があるので、シエンさんの好きなガラス製品も見れたらと思ったのだが、シエンさんの表情を見る限りあまり乗り気ではない感じだ。
東の通りにはあまりガラス製品はないのかな? と、そう思っているとシエンさんが説明してくれる。
「……シンフォニア王国は、陶磁器は有名なものがあるのですが、ガラス製品は他国に比べてやや質が落ちるんですよ」
「あ~なるほど、国によって特色があるんですね」
「ええ、ガラス製品はやはりアルクレシア帝国が強いですね。あの国は元々鍛冶などが盛んで、合わせてガラスに関しても発展してきていますので歴史がかなり深いです。ハイドラ王国は前衛的で煌びやかな作品が多く、こちらもかなり素晴らしいです。シンフォニアのガラス製品はあまりそういった特色のようなものが無くて……もちろんいいものもあるのですが……」
アルクレシア帝国は鉱山も多い土地柄だし、そういうガラス製品とかに強いイメージがある。ハイドラ王国はいろんな分野で流行の最先端を走る国なので、ガラス製品に関しても目新しいものが多いのだろう。
「シンフォニア王国は緑豊かな土地柄もあって、木工が強いですね。焼き物もチェントが言ってたような五色焼きに使うものなど、よい土が採れるので有名です」
「まぁ、アレだよカイト。あくまで詳しいシエンから見たらって話で、私たちレベルで見たらシンフォニア王国のガラス製品も十分すごいよ」
「確かに、工芸品の良し悪しを見極めるのは難しいですよね。俺の居た世界には鑑定士みたいな人もいましたけど、この世界にも居るんですか?」
「うん。居るけど……鑑定機構って言って、幻王配下の管轄でいろんな品の品質を鑑定してくれる大きな組織があるから、基本はそっちを利用するね」
へぇ、そういえばそういう組織があるって話は聞いたことがあるような……やっぱり普段知る機会が少ない分野の話は、いろいろ新鮮で面白いな。
「トーレさんはなんか、そういう収集みたいなことはしてないんですか?」
「私がそんなことして、ちゃんと管理できると思う?」
「思いません」
「じゃあ、そういうことだよ」
「……なるほど」
まぁ、簡単に収集といっても管理も知識が無いと大変だし、難しいよな。俺もやれる気はしない……リリアさんもドラゴンの模型を集めてたりするし、そういう好きなものを収集するってのも面白そうではあるが……。
けど、そこまで情熱を注げるほど「コレが好き」ってのも無いんだよなぁ……まぁ、無理にやるものでもないか。
「逆にカイトは趣味とかないの?」
「う~ん。強いていうなら読書、あとはベルとかリンの世話ですかね」
「あ~結構こだわってる感じだよね」
「……分かります?」
「うんうん。ベルちゃんの毛とかふっさふさだし、リンちゃんの鱗もピッカピカだしね」
「そうなんですよ。ベルに関しては最近ブラシを新しく何種類か買ったんですが、天候によって変えたほうがいいみたいなんです。やっぱり湿気とか関係してみるみたいで……」
さすがトーレさんは、いいものを見る目を持っているようだ。そうベルの毛は最近ますますふわふわ感を増してきたと思っている。
自画自賛になるが、俺のブラッシングの技術も上がったのではないかと感じている。前までは三種類だったが、いまは七種類のブラシを使い分けてるし、あの手触りは俺の自慢である。
リンにも、最近鱗を細かく磨くための専用ブラシを買った。コレがまた竜種によって結構違うみたいで、鱗に傷が付いたりしないように、しかし汚れをちゃんと取れるように適切な硬さのブラシを選ばなければならないので難しい。
「ふふ、ミヤマさんがここまで饒舌なのも珍しいですね」
「本当に好きなんでしょうね」
トーレさんに対してベルとリンのことを話す俺を見て、チェントさんとシエンさんが少し前の俺のように微笑ましげな表情を浮かべていた。
シリアス先輩「実際、確かに快人の趣味って言えば、ペットの世話な気がする」
???「餌とかもかなり拘ってますし、溺愛っぷりが伝わりますね」
シリアス先輩「ペットの話振られた時の食い付き方が違うからな……」




