建国記念祭昼⑧
出店から出てチェントさんとシエンさんと合流する。俺たちが辿り着いた扉の先には、なにやら木造りのお面が置いてあり、それが景品だったみたいだ。
なんか造りはしっかりしてそうだし、それなりの値段はしそうな感じではあるが……どこかの民族のお面だろうか? 少し不気味な見た目ではあった。トーレさんはノリノリで装着していたけど……。
チェントさんとシエンさんの方はお菓子の詰め合わせが入った袋が置いてあったらしい。価値的にはおそらくこちらが上だろうが、俺個人としてはお菓子の詰め合わせの方がよかった気も……まぁ、お面はトーレさんが喜んでるからトーレさんにあげればいいか。
「まだある程度余裕はありますけど、どうします? 戻りながら出店を見るか、戻るのは転移魔法を使うと割り切って別のところに行くか……」
「う~ん、ここまで私の好きなところに行ってもらうことが多かったし、次はカイトかチェントかシエンが行きたいところに行くのがいいと思うな」
「俺は特に希望は無いですが、チェントさんとシエンさんはどうです?」
というかここまでは俺かトーレさんが決めてチェントさんとシエンさんが付いてくるような形だったので、出来ればチェントさんとシエンさんに希望を出してもらいところではある。
まぁ、無理にというわけでもないので、案が無ければ適当に回ることにするが……。
「……シエンに希望が無いのであれば、私としては東の通りに行きたいのですが……」
「東……あっ、なるほど。私の方は希望は特にないので、可能であれば東の通りに……」
チェントさんがやや遠慮気味に東の通りに行きたいといい、その発言でシエンさんはなにかに気付いた様子でチェントさんの希望通りにしてほしいと告げてきた。
「分かりました。それじゃあ、東の通りに行きましょうか……トーレさんもそれでいいですか?」
「うん。けど、東区画ってなにがあったっけ?」
俺もチェントさんが東の通りと口にした理由は気になっていたが、それはトーレさんも同様の様子で不思議そうに首を傾げていた。
その疑問にはチェントさんではなくシエンさんが答えてくれた。
「東には工芸品を取り扱う店が多いからだと思います」
「あ~そっか! 陶磁器だね! チェント、陶磁器好きだもんね」
「はい……こういうイベントの際なんかは、珍しいものが見つかったりするので……」
シエンさんの言葉を聞いて納得したように頷くトーレさんと、少し恥ずかし気に頷くチェントさん。なるほど、焼き物か……個人的にはサッパリなジャンルだったので、思いつかなかった。
「へ~チェントさんは焼き物が好きなんですね」
「うん。結構いろいろ集めてるよ。私はあんまり詳しくないんだけど……シンフォニアにも有名なのがあるんだっけ?」
「シンフォニア王国は五色焼きが有名ですね。緑、黄、赤、紫、青の五色を用いた焼き物で、陶器と磁器の両方があります。鮮やかで大胆な色遣いで存在感があるので、使うだけでなく飾るのにも向いていますね」
そんなのがあるのか、全然知らなかった。というか、東区画ってあんまり行った覚えがないな。店の多い南区画とか演劇場とかの多い北区画にはたびたび行くけど、東西の区画はあまり行ったことが無いかもしれない。
五色焼きというのも初めて聞いた。リリアさんの家にある食器は基本的に白色だし、たぶんリリアさんはあまり陶磁器には興味がない感じなんだと思う。
他に知り合いで陶磁器に詳しそうな人もいな……待てよ?
「……うん? カイト、考え込んでどうしたの?」
「ああ、いえ、陶磁器という話を聞いて、ネピュラが焼き物用の窯を買うって話してたのを思い出しました」
「窯をですか? それはまた本格的ですね。私も工房にお邪魔して作ったことは何度かありますが……」
「結構場所とか細かく見てましたね。特殊な魔力窯を買うとか言ってました」
俺自身がそこまで焼き物に興味がないのもあって、聞き流し気味だったが……ネピュラとイルネスさんが説明してくれてた覚えがある。
発注から完成まで時間がかかるみたいで、まだ設置はされていないが……そう遠くないうちに、裏庭に窯が登場するだろう。
「なんか、七段階に調整できる窯がどうとかって」
「もしかして、七点特殊魔力式練成窯ですか!?」
「えっと、たぶんそれです……高価なものなんですか?」
「もちろん値段は張りますが、それ以上にかなり扱いが難しいことで有名な窯です。使いこなせれば、本当に微妙な焼き加減の調整まで出来るのですが、相当の腕が無いと使いこなせないので陶磁器の工房でも設置しているところは少ないですね」
焼き物好きのチェントさんが驚くぐらいだから、本当にレベルの高い窯なんだろう。普通に考えると、そんなの使っても絶対使いこなせないと思うところだけど……イルネスさんとネピュラが使うなら何とかなりそうな気がする。
「……品が完成したら、私も見てみたいです」
「ええ、ふたりには話しておくのでまたよければ見にきてください」
ティーカップとかを作るって言ってたっけ? 本当に、ふたりなら凄いのを作りそうな気がする。身内の贔屓目もあるかもしれないけど、たまに作ってる木のコップとかも相当レベルが高いし、期待できるんじゃないかな?
シリアス先輩「なお、その木のコップは貴族であるリリア曰く、王立美術館に展示されていてもおかしくないレベル……」




