建国記念祭昼⑦
チェントさんとトーレさんの話、もといトーレさんへの説教も終わり再び広場の出店を回っていると、妙な出店を見かけた。
なんか赤と青の扉がある出店であり、なんの店かさっぱり分からなかった。
「トーレさん、アレって何ですかね?」
「ああ、迷路の出店だよ。あの扉を開けてはいると時空間魔法で作った空間になってて同じように何個かの扉があって、順々にくぐっていく感じだね。くぐり方によって最後の部屋に置いてある賞品が違うんだよ」
「へぇ、そんな出店もあるんですね」
「せっかくだしやってみる? ペアでもやれたはずだし、私とカイト、チェントとシエンで!」
「そうですね。せっかくですし……」
時空間魔法が存在するからこその出店……扉を選んで空けるだけというシンプルな作りという話だが、遊園地のアトラクションとかでもおかしくない内容である。
せっかくなので一度やってみようという話になり、プレイ料金を払って挑戦することにした。
「……じゃ、順番に選ぼうよ。最初はカイトからね」
「う~ん、じゃあ赤い扉で」
「よし、しゅっぱ~つ」
中に入ると、正方形の部屋で正面と左右に三つのドアが付いており、それを選んで進む形みたいだ。なんとなく迷路っぽい造りではあるが、迷路ではなく特定の回数進めば必ずゴールにたどり着くようになっている。
「これって、だいたい何個ぐらいの扉をくぐるんですか?」
「う~ん、だいたい5個ぐらいだね」
「なるほど……」
トーレさんがどの扉にしようか真剣に選んでいるのを見つつ、ふとあることを思った。せっかくトーレさんとふたりきりの状況なので、ちょっと聞いてみたいことがあった。
「トーレさん」
「うん?」
「変なことを聞きますけど、トーレさんって運命だとか付き合おうとかってよく俺に言ってきますよね」
「そうだね? 結婚する気になった?」
「なってないです」
「おかしいな? いまのは完全に流れが来てるはずだったのになぁ……」
トーレさんの反応は相変わらずではあったが、とりあえずそのことに関して聞いてみることにしよう。
「トーレさんって俺のどこがよくてそう言ってくるんですか?」
「え? さぁ? わかんない」
「えぇぇぇ……」
「要するにアレだよね? 私がカイトのどこが好きかって話だよね。うん、分からない!」
自信を持って言い切るようなことなのだろうかとそんな風に呆れた表情を浮かべていると、トーレさんはちょっと真剣な表情に変わって言葉を続ける。
「いや、だってさ、なんだかんだ言ってもまだ私とカイトの付き合いって短いよ。私はまだまだカイトのことで知らないことがいっぱいある。そんな状態で、分かったような顔で私はカイトのここが好きなんて言いたくないしね」
「……ふむ」
「そもそも最初もビビッと来たのが始まりだしね。なんかカイトと一緒だと楽しく過ごせそうな気がしたんだよ。実際、その予感は正解で一緒に居て楽しいね。けどまぁ、具体的にどこをどう好きか~って聞かれると、やっぱ分かんないや」
そういってどこか楽し気に笑いながらトーレさんはひとつの扉を選んで開く。手を繋いで次の部屋に入りつつ、同じように三つある扉を見ていると、トーレさんはさらに言葉を続ける。
「感情って難しいよ。好きってことは分かっててもさ、具体的に説明するのは難しくない?」
「確かに言われてみれば、好きの理由を細かく説明するのは難しいかもしれませんね」
「うんうん。だからさ、私は『なんか好き』って、そういうのでいいんじゃないかって思うな……少なくとも今は……」
穏やかに話すトーレさんに頷きつつ、俺も扉を選んで開ける。好きという感情の説明……確かに難しいかもしれない。
こういうところが好きだっていうのは言えると思うけど、それを細かく具体的に説明するのは難しい。
「話してて気が合うから、なんか好き。一緒に居て楽しいから、なんか好き。同じぐらいのレベルで張り合えるから、なんか好き……いまはさ、そういう小さな好きを少しずつ積み上げていけばいいかな~って思うね。それで、そういうのがいっぱい積み重なってカイトのことをたくさん知ったって思えた時に、私はカイトのここが好きだよって言えたら十分かな」
「……なるほど」
どうも思った以上にトーレさんは真剣に俺のことを考えているみたいで、結婚しようだとか付き合おうだとかも悪ふざけというわけでは無いような感じで、なんというか少しくすぐったくて、嬉しかった。
「ふっ、まぁ、カイトは焦る必要ないよ。焦らなくてもすぐに私の溢れ出る大人の色気でメロメロにしてあげるからね!」
「う~ん、仮に将来的に俺がトーレさんにメロメロになる時が来たとしても、その要因は大人の色気ではないと思いますね」
「え~!? だって私お姉ちゃんだよ? 姉力100000はくだらないスーパーお姉ちゃんだよ?」
「なんですか、姉力って?」
「なんかほら、アイ姉がよくメイド力とか言ってたから、姉力とかお姉ちゃんオーラとかもあってもいいんじゃないかって思うんだよ!」
その物言いに思わず笑ってしまう。なんというか、本当に愉快な方というか……トーレさんの言う通り、一緒に居て楽しい。
「別の路線で攻めることをお勧めします。トーレさん、あんまり年上感ないですし……」
「な、なんだとぉ……そんなこと言ってると、いつか私の姉力が覚醒して後悔することになるよ!」
「覚醒するとどうなるんですか?」
「それは、分からない!」
「本人が分からないようなら駄目そうですね」
「駄目か~残念」
「あはは」
姉力の覚醒だとか大人の色気だとかは望み薄ではあるが……これから先、いま以上にトーレさんを好きになれそうだと、そう感じるくらいには、トーレさんは魅力的な女性だと、そう思った。
シリアス先輩「ぐはっ、不意打ちだと……普段お気楽なキャラが、真剣に好意を伝えてきたりする場面は、破壊力がなかなかキツイ……」




