建国記念祭昼⑥
幸いすぐにハミングバードで連絡したのでチェントさんとシエンさんとはすぐに合流できた。そしてトーレさんは現在チェントさんに叱られていた。
「……トーレ姉様、いつも言ってますけど、なぜ魔力を消していなくなるんですか? 私とシエンの両方の魔力探知をすり抜けるなんて、相当の隠蔽技術ですよ」
「いや、消してるつもりないんだけどなぁ……私細かな魔力のコントロールとか苦手だし」
呆れた様子のチェントさんと、不思議そうに首を傾げるトーレさんを見つつ隣のシエンさんに話しかける。
「……魔力消して居なくなるんですか?」
「ええ、なぜか毎回。しかも、私もチェントも護衛なのでトーレ姉様から目を離すことは無いんです。高位魔族には常時行っている者も多いですが、私もチェントも魔法で視野を360度に広げているので背を向けていたとしてもトーレ姉様の動きは見えている……筈なんです」
「えっと……」
「今回もそうですが、なぜか狙いすましたかのように通行人が横切ったり、ほんの僅かに視線が切れた瞬間に消えるので……しかも消えたあとのステルス性が凄いんです。私もチェントもこの広場位のサイズなら、小さな虫の場所だって分かるくらいの探知能力はありますし、過去のこともあるので本当にあらゆる探知を行っているんですが、なぜか全部すり抜けるんですよ……」
「それもうワザとやってるのでは?」
「そう疑いたくなりますが、本人が意識してやってるわけでは無いみたいです」
確かにチェントさんもシエンさんも伯爵級上位の実力者であり、普通であれば一般人と変わらない能力のトーレさんを見失うことなんてないし、見失ってもすぐに発見できるはずだ。
でも、たびたびはぐれているということは、360度の視野に虫一匹見逃さない筈の魔力なども含めたあらゆる探知をすり抜けて居なくなっているわけだ……天性のスパイかなにかかな?
「いっそ、そっちの方向で才能を伸ばしたほうがいい気もしますね」
「意識してやろうとするとできないみたいです」
「う~ん、厄介なだけで役に立たない……なんともまぁ……」
周囲の人にしてみれば突然消えるので困るが、意識してできるわけでもないので有効活用も難しいと……迷子になることに特化しているような能力じゃないか。
チェントさんとシエンさんにしても、トーレさんが悪意を持ってやってるわけでは無いのは分かっているし、本人が無意識でやってるので対策も難しい。
そんなことを考えていると、不意にアリスが姿を現して呆れた表情で告げる。
「……アリスちゃんの見立てでは、トーレさんには認識阻害魔法の才能がありますね。それこそ、『磨ければ』私レベルになるぐらい」
「え? そうなの?」
「ええ、カイトさんの感応魔法と同じで、本人が意識せずとも勝手に発動してるんですよ。最初に視線が切れたのは偶然でしょうが、すぐ近くの露店に居たはずのカイトさんたちをふたりが発見できなかったのは、認識阻害が発動していたからですね」
「……それ、使いこなせたら凄いんじゃ……磨ければ?」
「トーレさんって、意識すると普通の認識阻害すらサッパリ使えません。クロさんでも覚えさせるのを諦めたレベルなので、マジで無意識下のみでしか使えないんですよ、あの人……」
アリス並みの認識阻害魔法……つまり、六王すらも欺けるほどの認識阻害が使えるが、任意で発動できず無意識下のみでしか使えない……厄介すぎる。
マジで迷子のプロみたいな人じゃないか……。
「だからクロさんは、トーレさんの動向を把握できるように特殊なアクセサリーを渡してるわけです。カイトさんが貰ったネックレスも同型です……だから、あの人やたらカイトさんの動向を把握してるんですよ」
「なるほど……」
このネックレスも元は対トーレさん用として作られたものだったのか……。
「……そのアクセサリーを使ってチェントさんとシエンさんが、トーレさんを見つけることはできないの?」
「無理ですね。あらゆる阻害を跳ね除けて把握できる代わりに、クロさんレベルの魔法技術が無いと把握できないって造りなので、他の人も察知できるように性能を落としたら、トーレさんは捕捉できません」
迷子になることに関してだけ、強キャラ感が凄いなトーレさん。もういっそ、物理的に紐かなんかくくっといた方がいいんじゃないかと思うレベルだが、そうしてもなんだかんだで抜け出してしまいそうだから恐ろしい。
「突発的に私レベルの認識阻害が発動するので、いくらチェントさんとシエンさんが実力者といっても、見失わない方が無理って話です……トーレさんは迷子の天才ですよ」
「……嫌な天才だ」
「……本当に、トーレ姉様に悪気が無いので、叱り辛くもありますしね」
アリスの呟きに、俺とシエンさんも同意して、チェントさんに説教されているトーレさんを呆れた目で見続けていた。
シリアス先輩「よく考えてみれば、そういうアクセサリーをワザワザ作って持たせている以上……クロですら油断すると見失う可能性があるってことだよな。迷子のギフテッド過ぎる」
???「マジで消えるように居なくなるので、チェントさんとシエンさんのふたりもかなり苦労してますよ」




