建国記念祭昼⑤
トーレさんと手を繋いで広場の出店に向かう。ニコニコと楽し気に歩くトーレさんを隣で見ていると、なんだかこちらも楽しい気分になってくるので不思議だ。
食べ物に関しては、先ほどシンフォニア焼きを食べたし、出店の最中にもちょくちょくトーレさんが買ってきた屋台グルメを食べていたので、遊べる出店を中心に回ってみたいところだ。
「あっ、カイトあれやろうよ!」
「射的……ああ、そういえばトーレさん射的上手かったですよね」
「ふふふ、任せてよ」
白神祭でトーレさんは中々の射的の腕前を披露していた。ただまぁ、あの時思いっきり初めてやった的なこと言ってたのに、いかにも得意ですみたいな雰囲気を出すのはトーレさんらしい。
そして、一緒に射的の店に行ってみると、なんとなくトーレさんが射的が上手い理由が分かった。
……リーチが違うのだ。トーレさんは高身長で手足も長いので、銃を構える位置が明らかに俺より景品に近い。まぁ、もちろんセンス的な部分もあるのだろうが、このリーチは強力な武器だと思う。
実際トーレさんは白神祭の時と同じようにバシバシと景品に弾を当てていた。100発100中とまではいかないが、それでも9割方上手いところに当たっていた。
「ふふん。見たかね、カイト? 凄いでしょ」
「やっぱり射的上手いですね」
「えっへん!」
ドヤ顔で胸を張りつつ、受け取った景品をマジックボックスにしまうトーレさん。こういう時にマジックボックスがあると、荷物が増えないので本当に便利である。
そのあとでチェントさんとシエンさんと交代して、ふたりが射的をするのを眺めていると、不意に手を引かれる。
「見て見て、カイト。アレって異世界の出店じゃないかな?」
「……射的も異世界の出店のような……って、へぇ、スーパーボールすくいじゃないですか、懐かしいですね」
「おっ、やったことあるの?」
「昔……十数年前ですけどね」
「最近では?」
「……そうかもしれませんね」
そういえば、こう見えてトーレさんって1万歳余裕で越えてるんだった。そりゃ、そのトーレさんの感覚で言えば10年ほど前はごく最近と言えるかもしれない。
まぁ、ともあれスーパーボールすくいである。しかもポイですくうタイプか……俺が小学生の時にやったのは、なんか最中の皮みたいなやつですくってたような覚えがあるが、この店は普通のポイである。
「ねね、やってみようよ」
「そうですね。じゃあ、一回」
「よ~し、じゃあ、私から……」
「トーレさん、それはちょっと大きすぎないですか? さすがに破れそうな……」
「大丈夫、大丈夫――あっ」
「ほらっ!」
トーレさんはポイを受け取ってすぐに、一番大きくて明らかに見せる用というか、どう見ても取れそうにない大きなスーパーボールをすくおうとして、即ポイを破っていた。
「……行けると思ったんだけどなぁ、なんかこう、不思議なパワーで」
「不思議なパワー頼りな時点で駄目だと思います」
「駄目か~じゃあ、カイトもやって反省会しよう」
「俺も取れない前提なのは止めてください」
さすがにひとつぐらいすくえるだろ、すくえるよね? よし、小さ目のやつを狙うとしよう。慎重に、慎重に……あれ? なんかおかしいなこのスーパーボール、手に伝わる感触からして見た目より重い感じだ。
密度が高いのか、中に何か入っているタイプなのか……どちらにせよこれ破れそう――あっ。
「……」
「……カイト、気を落とさなくていいよ。誰だって上手くいかない時はあるさ、敗北を気にしちゃいけないよ」
「なんで、トーレさんが勝ったみたいな流れになってるんですか!?」
結局俺もトーレさんも0個であり、出店の人が残念賞と言ってひとつずつスーパーボールをくれた。う~ん、やっぱりトーレさんとは能力がどっこいどっこいということもあって、結構ヒートアップしちゃうというか対抗心を燃やしちゃうな。
「ねぇねぇ、カイト?」
「うん? またなにか店を見つけたんですか?」
「チェントとシエンが居ない」
「……え?」
トーレさんの言葉に慌てて振り返ると、居ない……少し前まで後ろに居たはずのふたりが……どうして? あっ、待てよ、そうだ! ふたりが射的をしているタイミングでトーレさんに手を引かれて、スーパーボールすくいの出店に移動した。
店と店の距離は目視できるぐらいの位置なのだが、人も多いせいで、ふたりは俺たちを見失ってしまい、探すために移動したのだろう。ここから射的の出店を見てもふたりの姿は見えない。
こういう人が多いところだと魔力探知は難しいらしいし、そもそも俺の魔力はシロさんの祝福の影響で探知できない。
「まぁ、はぐれちゃったものはしょうがないね! そのうち合流できるだろうし次の店に」
「ちょ、ちょっと待ってください。ふたりに連絡しますから……合流してから次に行きましょう」
幸いだったのは、トーレさんだけではなく俺もいたことだ。トーレさんだけだと、お気楽さを発揮して次の店に向かってしまっただろうが、俺が居るのでハミングバードで連絡して合流という手段が使える。
本当によかった。しかし、なんとも恐ろしい。注意していたはずなのに、スッと思考の隙間に入り込むかのように、本当にごくごく自然にはぐれてしまった。
あの実力者であるふたりがしょっちゅう見失ってるわけだ。トーレさんのこの意識の隙間を突くようなはぐれ方は、ある意味才能かもしれない。
シリアス先輩「確かに隠密とかの才能が……ないか、騒がしいし」




