建国記念祭昼④
エリーゼさんの店を偶然発見するという出来事はあったものの、それ以外では特になにかがあったわけでもなく、王城前広場のセレモニー会場に辿り着いた。
王城前広場は非常に広く、相応にかなりの人が集まっていた。なにやら出し物のようなものをやっているみたいで、ここからではよく見えないが、魔法の光が煌めいているのが見えた。
「アレはなにをやってるんでしょうね?」
「建国からいままでの歴史をミュージカルで演じてるんだと思うよ。定番の出し物だけど、名物って言っていい人気の行事だしね」
「へぇ、トーレさん詳しいんですね」
「ふっ、任せてよ。勉強してきたからね……雑誌で!」
だいぶ浅そうな知識であるが、それでも俺より詳しいのは間違いないだろう。
「白神祭でも創生物語をやってましたし、そういう演劇的なのはポピュラーなんですかね?」
「その国ならではの催しとしては、分かりやすく、自国のことなので資料も多くてやりやすいんだと思いますよ」
「魔界にはあまりそういうのが無いので、少し新鮮ですね」
チェントさんとシエンさんの言葉を聞いてなるほどと思う。魔界には国という区分はないので、そういう国の成り立ちみたいな物語は新鮮なのだろう。
リリウッドさんのユグフレシスとかはほぼ国と言っていいサイズだとは思うが、その辺は魔界の風土というかスタンスのようなものなのだろう。
「さすがに貴賓席は見えませんね」
「う~ん、そこまで見えるとなると相当前に行かないといけないだろうし、さすがにここで浮遊すると目立っちゃうから、難しいね」
「まぁ、ミュージカルにこだわらなくても、広場の出店とかを見て回れば十分楽しめます……し――え?」
その直後周囲から音が消えた。トーレさんやチェントさん、シエンさんもなにやら固まっているような……まるで時間でも止まった感じが……。
「すまん、ミヤマ」
「え? クロノアさん?」
「確認するべきことがあって、お前以外の時間を止めた」
「あ、ああ、なるほど……だからこんな光景に」
なるほど、時間が止まってるから急に音が消えたみたいに静かになって、トーレさんたちも硬直してたのか……それは分かったけど、なぜいきなり時を? 確認するべきこと?
「……えっと、クロノアさん、確認するべきことって?」
「いや、ミヤマはセレモニーの催しを近くで見たいか? もしそうであれば、最前列近くまで我が連れて行くぞ?」
「ああ、いえ、大丈夫です。実際そこまで興味があるわけでもないですし、最前列に行くと他の出店とかを見て回ったりするのが難しいですしね」
「ふむ、なるほど……ならば問題ないな」
「気を使ってくださってありがとうございます」
「いや、我が居ながらミヤマが不利益を被ってはシャローヴァナル様に合わせる顔もないからな……問題ないのであればよかった。では、急に悪かったな」
クロノアさんがそう告げると共に、クロノアさんの姿は消え周囲に音が戻って動き出す。
「……うん? カイト、どうしたの?」
「ああ、いえ、周辺の出店でも見て回りましょうか」
「そうだね。それがよさそうだね。ただ、人が多いと思うんだ」
「多いですね。もっと他の通りに行きます?」
別に出店を見るなら広場にこだわる必要はない。確かにトーレさんの言う通り人が多いし、もう少し空いている場所の方がいいかもしれない。
そう思って聞き返したのだが、トーレさんは首を横に振る。
「違うなぁ、そうじゃないんだよね。私たちが、万が一にもはぐれちゃいけないと思うんだ……ほら、私迷子の名人だから」
「……トーレ姉様が言うと説得力が違いますね」
「……自覚しているならむしろもう少し控えて欲しいのですが……」
トーレさんの宣言に、普段からしょっちゅうはぐれるという事態を経験しているチェントさんとシエンさんが、しみじみとした表情で呟く。
しかしまぁ、そこはポジティブお化けのトーレさんであり、気にした様子もなく笑顔で告げる。
「つまり、はぐれない対策が必要だと思うんだよ!」
「……ふむ。まぁ、一理あるとは思いますが、具体的にどうするんですか?」
「というわけで手を繋ごう! さすがに四人繋いで横一列は他の人の邪魔になるから、私とカイトが手を繋いで、チェントとシエンが手を繋ぐって感じで!」
「……えっと……チェントさんとシエンさんはどう思いますか?」
トーレさんの主張は分かった。この人のことだから、とりあえずノリと勢いで言ってることも分かっている。ただ、ここで断るとマジでトーレさんがはぐれる可能性があるというのが問題である。
そう思いつつ、チェントさんとシエンさんにも意見を求めると……。
「できれば、トーレ姉様の提案を受け入れてくださると……」
「実は、休憩に入ってからずっとトーレ姉様がはぐれないように気を使ってたので……」
「……分かりました」
やはりというべきか、ふたりも普段の経験からトーレさんがはぐれる可能性を心配していたみたいだ。実際白神祭でははぐれていたし……。
となると手を繋いでおけば、最悪トーレさんがはぐれたとしても俺も一緒に居るので、ふたりに連絡するのは容易い。
「……そうですね。じゃ、トーレさん。手を繋いでいきましょうか」
「おかしいな、恋愛的な甘い雰囲気じゃなくて、小さい子が迷子にならないように手を繋ごう的に聞こえる」
「その通りなので……」
「あれぇ? 思ってたのと違うなぁ……まぁ、いっか! よし、じゃあ手を繋いで出発だ~!」
事実としてトーレさんを迷子にしないための対策ではあるのだが、そこは安定のトーレさん、深くは考えずニコニコと明るい笑顔で俺の手を取って歩き出した。
物凄く年上だし身長も高いのに、本当に子供みたいな方である……まぁ、そこがトーレさんの魅力でもあるのだが……。
シリアス先輩「結構ガンガンアプローチするタイプだけど、甘い雰囲気になり辛いのは……やっぱ無邪気な子供っぽい性格が原因かな?」
???「まぁ、シリアス先輩がそう言ってるってことは、今後多少甘い展開に期待できる感じですかね」
シリアス先輩「ふぁっ!?」




