建国記念祭昼②
こちらに気付いた様子だったエリアルさんとティルさんだったが、特になにかの行動を起こすわけでもなく踊りと演奏を続けていた。
エリアルさんが踊るたび周囲にはハミングバードに似た魔力の鳥が現れ、その数がどんどん増えていく。そして、いよいよ増えた鳥によってエリアルさんが見えなくなる直前、エリアルさんの決めポーズに合わせて鳥たちは一斉に四方に羽ばたき飛んでいった。
しかし、そのうちの一羽が俺たちの下に飛んできて……。
「……これは、世界座標ですね」
「ここで、落ち合おうということでしょうか?」
鳥が姿を変えて表示された世界座標を見てチェントさんとシエンさんが呟く。どうやらここで声をかけても騒ぎになるので、場所を変えて話をしようということみたいだ。
これは正直助かる。見かけた以上無視するのは気が引けたし、挨拶はしたいと思っていたが……あの人だかりを割って挨拶に行くのは難しい。
「踊りも終わったみたいですし……じゃあ、その座標に行きましょうか? おふたりに、お願いしても大丈夫ですか?」
「ええ、お任せを」
俺の言葉にシエンさんが力強く頷き、直後に魔法陣が足元に浮かび景色が切り替わった。そこは少し開けた路地裏のような場所で、俺たち以外の人影はない。
「人払いの結界が貼ってありますね」
「ああ、なるほど、それで人がいないんですね」
フィーア先生とかが使っていた。特定範囲に入れなくする結界だろう。広場とか公園は流石に他の人の迷惑になるので、この路地裏っぽい場所を選んだのかな?
そう思っていると、俺たちの前が少し光を放ち、ティルさんとエリアルさんが現れた。
「カイトクンさん~こんにちはですよ!」
「こんにちは、ティルさん。エリアルさんも、偶然ですね」
「挨拶……つまりは、こんにちは。偶然だが必然……あそこで会ったのは偶然だけど、出店に行く予定だったからいずれは会ってた」
俺に挨拶を返したあと、トーレさんたちにも一通り挨拶をするふたり。しかし、気になる発言をしていた。
「出店に行く予定ってことは、俺たちの店に来るつもりだったんですか?」
「そうなんですよ。カイトクンさんに教えてもらって、ベビーカステラを買いに行く途中だったです」
「……それがなぜ、あそこで踊ることに?」
「不可避な出来事……つまりは、どうしても避けられない事情があった。時間内の到着が困難……つまりは、その結果としてカイトの休憩時間までに間に合いそうになかった。予定を変更……つまりは、予定を変えて夕方に行くことにした」
「どうしても避けられない事情?」
なんだろう? ふたりは、有名人だし、人に気付かれて頼まれて断り切れなくなった感じかな?
どうやら深い事情がありそうで、エリアルさんの言葉にティルさんも神妙な表情で何度も頷いていた。
「はいです。どうしようもなかったです。ティルたちがカイトクンさんの出店に向かっている途中で……ティルたちのパッションがどか~んってなったですよ!!」
「う、ううん?」
あれ? なんか予想外のこと言い始めたぞ?
「情熱の爆発……つまりは、ティルの言う通り私たちの情熱が高まり過ぎて爆発した。雰囲気の魔法……つまりは、祭りの雰囲気が私たちに踊れと囁いていた。選択肢はなし……つまりは、私たちに踊らないという選択肢はなかった」
「ですです! お祭りが賑やかで、ティルたちも参加したくなったです。それで、あそこの小さい広場で、自由に踊ったり演奏したりしてたですから、ティルたちも参加したです。そしたら思ったより人がどば~って来たんですよ」
「な、なるほど……」
全然深い事情なかった!? 単純に祭りの空気に当てられて踊りたくなったから踊ってたというだけみたいだ。
「でもでも、それでカイトクンさんがお店に居る時間に間に合わなかったのは残念です」
「あ~……でしたら、作り置きの分でよければマジックボックスに入ってるので、ここで売りましょうか?」
「いいですか? それは凄く嬉しいです!」
「感謝……つまりは、ありがとう。大きな期待……つまりは、私もティルも食べるのを楽しみにしてたから嬉しい」
「普通のとチョコレートのがありますが、いくつ買いますか?」
「ティルはあまり食べれないですから、エリアルと分けて食べるです。なので、一袋ずつで大丈夫ですよ~」
「了解です」
マジックボックスから普通のとチョコレート入りの袋を取り出して、代金を受け取ってからふたりに渡す。
「カイトクンさん、ありがとうですよ! 食べるのがと~っても楽しみです」
「重ねて感謝……つまりは、気を利かせてくれて本当にありがとう」
笑顔でお礼を言った少し後、ティルさんがなにやら体を小さくしてプルプル震えるような動きをする。何事かと首を傾げると、そのままティルさんは飛びあがるように大きく体を広げる。
「……うぉぉぉ! ティルたちのパッションは、まだまだこれからですよ!」
「同感……つまりは、ティルに同意。止められぬ情熱……つまりは、パッションが爆発してる。情熱の躍動……つまりは、今日は踊り明かそう」
「はいです!! カイトクンさん、ティルたちは北区画の広場に行ってまた踊ってくるです!」
「そ、そうですか、頑張ってください」
「はいです! ベビーカステラは、またエリアルと一緒に食べるです。ではでは~行くですよ、エリアル!」
「承知……つまりは、心得た」
そうして、ふたりは元気よく転移していった。話から察するにまた演奏と踊りをしに行ったのだろう。ま、まぁ、情熱が爆発してたなら仕方ない……のか?
シリアス先輩「たまに暴走することもあるのか……まぁ、それでも幻王配下に比べれば可愛いもんだが」
???「底辺と比べたら、そりゃそうでしょ」
シリアス先輩「いや、お前のところの配下!?」




