建国記念祭昼①
活動報告にコミカライズ7巻の記事を追加しました。
シンフォニア王国建国記念祭は、さすが一国の建国記念の祭りというだけあって、普段では見ないほど王都の道は混雑していた。
この感じだと移動にはかなり時間がかかりそうだし、転移魔法具に出店の場所を登録したのは正解だった。
シンフォニア焼きの出店に辿り着くまでもそれなりの時間はかかったが、なんだか賑やかな雰囲気の中でのんびり歩くというも、そんなに悪くなかったのであまり長かったという感じはしない。
道中の店なども眺めつつ辿り着いたシンフォニア焼きの屋台で人数分購入して、少し道を離れて人が少ない場所で食べることにした。
「……なんか、イメージと違う形をしてました」
「うん? カイトはどんな形のイメージだったの?」
「もっとこう、クレープっぽい感じの……」
シンフォニア焼きは、なんというか……オムレツみたいな形状だった。いや、周囲を囲っている卵の生地は薄いし、フルーツはたっぷり入っていて食べると非常に美味しかった。
生クリームなどのような甘いクリームは無く、フルーツの自然の甘みを思いっきり楽しむことができる感じで、かなり美味しい料理だ。
「カイト、カイト、あ~ん」
「うん? ……いや、同じやつですよ?」
「あ~~~~~~~ん」
「……はいはい」
「うん! 美味しい!」
口を大きく開けて食べさせろアピールしてきたトーレさんに苦笑しつつ、最終的に押し切られる形でシンフォニア焼きを食べさせる。
トーレさんは非常に満足そうな表情で頷いていた。これで、イベントが進んだなとかそんなこと考えてそうな気がする。
「そういえば、この後はどうしますか? せっかくですし、中央のセレモニー会場を目指して移動します?」
「うん、それでいいと思うよ。途中によさそうな店があったら寄りつつ行こうよ」
チェントさんとシエンさんもそれでいいとのことだったので、目的地をセレモニー会場に決めて移動を開始する。
当たり前ではあるが、メインとなるセレモニー会場に近づけば近づくほど、人は多くにぎやかになっておりなかなか移動が大変である。
「混んでますね」
「う~ん……ちょっと疲れたし、適当になにか買って少し道外れて休憩しようよ」
「そうしますか……」
トーレさんの提案に賛成して、飲み物などを買って少し休憩のために移動する。
大通りから外れれば人はまばらになる……かと思ったのだが、なぜか移動した先にもたくさんの人が、というか、何か人だかりができていた。
「なんでしょう? 混雑してるというより、人が集まってる感じですね」
「イベント、でしょうか?」
チェントさんとシエンさんも不思議そうに呟いている。ここからでは人だかりが邪魔で、なにをしているのかがよく分からないというのも原因のひとつだ。
「……なんかちょっと音楽が聞こえる? 演奏とかかな? う~ん……よしっ、チェント、シエン! 私とカイトを抱えて、飛んで、空中から見よう」
「目立ちませんか?」
「皆向こうに注目してるし、大丈夫だと思うよ」
突拍子もない提案ではあったが、俺もなにをやっているのかは気になっており、最終的にトーレさんの提案に同意する形で頷いた。
そして、チェントさんがトーレさんを、シエンさんが俺を抱える形で飛ぶことになった。
「すみません、シエンさん」
「いえ、魔法で保護してはいますが、念のために掴まっておいてください」
チェントさんもシエンさんも、かなり小柄なこともあり、いくら実際の能力的に俺より遥かに上といっても申し訳なさは感じてしまう。
そんな俺の言葉に軽く微笑みを浮かべたあとで、シエンさんは俺は抱えて跳躍する。アリスよりかなり丁重で、風圧などもほぼ感じなかった。
……まぁ、抱えられている構図は若干恥ずかしいが、その辺はチェントさんとシエンさんが認識阻害で見えなくしてくれるらしい。
空中にから見て見ると、人だかりの先には少し開けたスペースがあるみたいで、そこには……。
「……あれって……エリアルさんと、ティルさん?」
「あっ、本当だ。エリアルとティルだ。あ~だから、あんなに人だかりができてたんだ」
なんとそこに居たのはエリアルさんとティルさんであり、エリアルさんが踊り、ティルさんが笛のような楽器を演奏していた。
エリアルさんの踊りは人を惹きつける魅力に溢れているし、ティルさんの演奏も祭りの雰囲気に合った楽しげな曲調で素晴らしい。
トーレさんのいうとおり、これは人だかりができるのも納得……と、そう思った瞬間、不意にふたりがチラリとこちらを見た気がした。
「……私やチェントより、おふたりの方が格上なので……まぁ、気付かれますね」
「……なるほど」
これは、どうするべきだ? 挨拶した方がいいのか……あの人混みをかき分けて?




