建国記念祭⑩
昼を過ぎて少し経った頃、予定通りルナさん、ジークさん、葵ちゃん、陽菜ちゃんの四人が到着して、雑談をしながら交代の引継ぎを行う。
念のため戻って来る時用に転移魔法具に座標を登録しておくことも忘れない。
「やっぱり立地的に結構のんびりできましたよ……セレモニーの方はどうでしたか?」
「壮観でしたよ。六王様が全員参加ということもあって、今年は相当の予算をかけたみたいで、例年より派手でしたね」
「私たちは観客席からチラッと見ただけですが、貴賓席は凄い面々でしたね……リリは、死んだ魚のような目をしていましたが」
会場へリリアさんを送ったルナさんとジークさんの言葉では、なにやら大変そうな感じになっているみたいだった。
う、う~ん、今回の件に関して、俺の影響ってどのぐらいだろうか? リリアさんが死んだ魚のような目をしていた原因は俺、と言えるレベルなのだろうか? ……例によって、言えそうではある。
「リリアさん、六王様方の近くにいませんでした?」
「というか、人族側の代表みたいな位置に居ましたね」
「え? そうなの?」
陽菜ちゃんと葵ちゃんの言葉に微かに首を傾げるが、すぐにその理由には思い至った。リリアさんは、六王全員と交流があり、時空神の本祝福も受けており、現在はラグナさんと並ぶ人界最強のひとりで、シンフォニア王家に連なる血筋……うん。どう考えても、人族側の代表的なポジションである。
「……ルナさん、今回ってどのぐらい俺のせいだと思います?」
「そうですね。今回ミヤマ様は普通に出店を出そうとしただけで、事前にお嬢様にも話を通しましたし、大々的に告知していたりというわけでもない……総合して『9割5分』ぐらいでは?」
「つまり、めっちゃ俺のせいですね。迎えに行くときに、ベビーカステラ持って行ってあげてください」
そうだよなぁ。そうなるよなぁ……どう考えても六王皆の参加を決定付けたのは、俺なんだよなぁ。
まぁ、元々配下とかに代理で参加させるつもりではあったからこそ、やっぱり本人が~と気楽に変更した感じなのではあるだろうが、その切っ掛けになったのは俺である。
どうか、会場のリリアさんの胃が無事であることを祈ると共に……他人事のようになってしまうが、クロノアさんがいい感じにフォローしてくれていることを期待しよう。
「……と、とりあえず、それでは俺たちは祭りを見に行ってきますね」
「ええ、こちらは任せて楽しんできてください。もし時間に余裕があるなら、セレモニーを見に行くのもいいかもしれませんよ。最初の式典のような形式は終わって、いまは歌や踊りといった娯楽が中心に行われていますからね」
「なるほど、それは楽しそうですね。余裕があれば行ってみます」
穏やかに微笑みながら告げるジークさんに、お礼の言葉を返してから、引継ぎを完了したトーレさんたちと一緒に店から離れて建国祭を楽しむために移動する。
「最初はどうします?」
「う~ん、やっぱお昼時だしなんか食べようよ。ちょくちょくつまみ食いとかしてたから、ガッツリじゃなくて軽くでいいと思うけどね」
「せっかくですから、建国祭ならではって感じのものが食べたいですけど……なにかありますかね?」
「分からない!!」
なんて力強い否定の言葉だ。あまりにも自信満々過ぎて、逆に感心すらしてしまう。
胸を張って告げるトーレさんの言葉に苦笑を浮かべていると、チェントさんが少し考えたあとで口を開いた。
「……『シンフォニア焼き』はいかがでしょう?」
「え? それはまたなんともらしい感じですけど、どんな食べ物なんですか?」
「たしか、たくさんの野菜やフルーツを焼いて、卵の生地で包んだクレープに近い料理だったと思います。建国祭限定というわけでは無く、西の交易都市の名物として有名ですね。王都では普段あまり見かけないので、いいかと思います」
フルーツクレープとかに近い感じかな? それは美味しそうだし、是非食べてみたいが……果たして、この混雑した祭りの会場で都合よく発見できるのだろうか?
「凄くよさそうですし、食べてみたいですが……都合よく店を見つけられますかね?」
「それでしたら、私にお任せを……」
「シエンさん?」
「私は広域探知が得意なので、すぐに店を発見できるかと思います」
なんと、これはまた頼もしい。シンフォニア焼きだけではなく、他の出店とかもシエンさんに頼めば見つけれるわけだ。
……エリーゼさんの出店も見つかられるのだろうか? いろいろお世話になったので、是非行ってみたいところではあるが……う~ん、どれだけ考えても露骨に嫌そうに迎えられる未来しか見えない。
しかも、結局最後までどこで店出すか教えてくれなかったし……止めておくのが吉かな。
シリアス先輩「清々しいほどの『偶然見つけるフラグ』……これが特級フラグ建築士の力か……」




