建国記念祭⑨
天照さんと真名さんが帰った後も、順調に出店は続く。最初に比べれば、昼近くなって人が増えてきており、客足も多めになってきたが、それでもまだ余裕はあるし、客のいない空き時間もそこそこある。
「見て見て、カイト。串ベビーカステラ!」
「前にバーベキューの時に、クロが似たようなことしてましたね」
「な、なんだって……さすがクロム様……」
どこから出したのか竹串のようなものにベビーカステラを刺していたトーレさんに苦笑する。ちなみにトーレさんが刺しているベビーカステラは、袋に詰める際半端に残っていたものや、焼くときに少し形が悪くなったものなので、俺たちで食べてしまうと横に避けていたものだ。
「カイト、カイト、こっち向いて口空けて」
「口? こうですか?」
「ていっ」
「むぐっ……いきなりなにするんですか」
なんとなく予想はしていたが、案の定口を開けたらベビーカステラを放り込まれた。うん、味は美味しいがなんというか、相変わらず突発的な行動である。
「私とカイトの仲だからね。本で読んだよ。コレがあ~んってやつなんだよね。ということはもうほぼ恋人では?」
「違います」
「違うのか~え? それどっちが?」
楽し気に笑いながら首を傾げるという器用なことをやるトーレさんを見て苦笑する。なんというか、相変わらず楽しい方というか、ノリがいいので話していると会話が弾む。
それに、こうして出店をやっているとトーレさんのコミュ力の高さがよく分かるというか、かなり接客に向いている感じだ。
「はいはい。普通の一袋ね! じゃあ、これだ! なんかちょっと多く入ってるかもしれない袋だよ。はい、金額もピッタリ、ありがと~」
ニコニコと笑顔で接客するので、見ているこっちも楽しくなるというか、雰囲気が凄くいいんだよなぁ。こういうところがトーレさんの魅力というか、凄さだと改めて実感する。
そんなことを考えながら俺も接客をしていると、渋いスーツを着こなした老紳士……マグナウェルさんが、フレアさんと共にやってきた。
「やっておるようじゃな、ミヤマカイト」
「いらっしゃい、マグナウェルさん、フレアさんも」
「邪魔をするぞ、戦友よ」
高身長で落ち着いた老紳士の雰囲気のマグナウェルさんと、小柄で若々しいフレアさんが並ぶとなんかおじいちゃんと孫が一緒に買いにきたみたいで、妙に和む光景である。
「しかし、白神祭の時も思ったが、たいした人の多さじゃな。この高さで見る機会がいままで少なかったせいか、実際はこんなにも多かったのかと驚くのぅ」
「あ~普段のマグナウェルさんの大きさで見下ろしているのと、実際に人間サイズになってみるのじゃ、やっぱり見え方が全然違いますよね」
「うむ。新鮮でなかなかに面白い……おっと、話し込み過ぎてもいかんな。ワシとニーズベルトにそれぞれの種類を一袋ずつ、計四つくれ」
「はい。通常のとチョコレートの二個ずつですね。少々お待ちを……」
マグナウェルさんは、いままであの巨体なので当然祭にも参加したことがなく、以前の白神祭が初めて人と同じ目線での参加だった。
ただ、白神祭では来賓でもあったため中層を少し見て回るに留めていたみたいなので、人数制限のあった中層と、込み合う建国祭ではまた雰囲気が違うのか、非常に楽しそうではある。
「こうして、近しいものを協力し合ってなにかを成すというのは良いものだな。我も手が空いていれば参加したかったところだが、どうしてもこの手の祭りだと来賓側に回ることが多くて難しいな」
「あ~リリアさんも似たようなことを言ってました。やっぱり立場の高い人だと、その辺りがネックですよね」
「そうだな……しかし戦友の店を見ていて、そういう機会があればという気持ちも強くなった。いかがでしょう、マグナウェル様? 我らの陣営でもハーモニックシンフォニーのような催しを考えてみるというのは?」
「なるほど、それは面白そうじゃな。実際、竜種などは内輪で固まることも多いしのぅ。他種族と触れ合える機会というのを作るのもよいかもしれん。また皆の意見を聞いて検討してみよう」
こうして、祭に直接参加できるようになったことで、マグナウェルさんも……なんというか、自分の陣営で祭りを行うというのに興味を持っているみたいで、フレアさんの提案にも乗り気な様子だった。
竜種や魔物が中心となって行うお祭りか……実現したらリリアさんあたりが凄く喜びそうだ。
そんな風に考えつつ、次のお客さんが来るまでの間マグナウェルさんたちとの雑談を楽しんだ。
シリアス先輩「不思議だ。竜王陣営の祭り=リリアとのデートみたいなイメージが消えない……」




