建国記念祭⑦
アグニさんが戻ってしばらくは、のんびりと接客をしていた。祭りの雰囲気もあって、お客さんも大らかな感じで、本当にのんびりと楽しむことが出来ていた。
「キュッ!」
「うん? あっちか~ウルはよう分かるねぇ」
聞き覚えのある鳴き声と、初めて聞くのんびりした声が聞こえて振り向くと、そこにはウルを胸に抱っこした状態でこちらに歩いてくる青味がかった白髪の女性が見えた。
身長は160cm前後ぐらいだろうか、癖のないロングヘアに貴族が来ていてもおかしくない上品なドレス。髪にはブルークリスタルフラワーの髪飾り……清楚な令嬢といった雰囲気の女性……この方が、スピカさんかな?
「キュキュッ! キュッ!」
「いらっしゃい、ウル……えっと、初めまして、スピカさんですよね?」
「はいな~アイシス様のところに新しゅう入りました。今後ともどうかよろしく~」
「宮間快人です。こちらこそ、よろしくお願いします」
のんびりした口調で、関西弁? いや、京都弁? その中間っぽいような変わった口調で話すスピカさんと挨拶を交わす。
優しそうな雰囲気の方で、なんというか空気がフワッとしているというか、勝手な思い込みかもしれないがのんびり屋という感じの雰囲気がある。
「え~と、普通のとチョコレートのを7袋ずつくださいな」
「はい七つずつですね」
「え~と、お金が……う~ん、ちょお、待ってください。ウチあんまりお金使ったことのうて、どれを渡せばええんやろ?」
「キュッ! キュゥ……キュッ!」
「おっ、これとこれやね。ウルは賢いな~一緒に来てくれて助かったわ」
アイシスさんの話では、スピカさんはいままでずっと精霊の体で表に出たことは無かったらしいので、当然買い物の経験だって無かったはずだ。
なので、お金に関しても硬貨の種類がいまいち分かってない感じだったが、そこをウルが尻尾で指すことでフォローしていた。
「……というかウルはもう金額の計算もできるんだね。やっぱり賢いね」
「キュゥッ!」
手を伸ばして撫でてやると、嬉しそうに顔を擦り付けてくる……う~ん、凄く可愛い。
「そういえば~当選な質問やけど、カイトさんはブルークリスタルフラワーは好きですか?」
「え? ええ、俺にとっても思い出の強い花ですし、この世界の花としては一番印象に残ってますし、綺麗なので好きですね」
「なるほど~ふふ、どうもウチは、おうた人にこの質問するんが癖になってしもうたかもしれんな~ブルークリスタルフラワーが好きな人が多くて、嬉しいわ~」
実際にブルークリスタルフラワーはアイシスさんとの思い出が強い花で、俺としても凄く印象に残っている。最初に会った時に貰ったブルークリスタルフラワーの花は、もちろん今も大切に保管している。
いっそガラスのケースのようなものを買って、その中に入れて飾ってみるのもいいかもしれない。
「そういえば……スピカさんは、特徴的な口調……というか、俺の居た世界のある地域の口調によく似た感じなんですけど、なにか原因があったりするんですか?」
「いや~特になんにも。なんや、昔からこんな話方……いや、誰とも話したことはあらへんかったけど、こんな感じでしたね~まぁ、これに慣れてしもうてるし、細かいことは気にせんでもええかぁ~って」
「なるほど」
まぁ、確かに、別になにか問題があるというわけでもない。単純に茜さん以外でそういった口調を聞いたのが初めてだったので、気になっただけだ。
しかし、スピカさんみたいな方が居るということは、他にも関西弁っぽい話し方をしたりする人が居るのかもしれない。
「……ほなら、あんまり長居しても悪いですし、ウチたちはそろそろ~」
「あ、はい。ありがとうございました。アイシスさんにもよろしくお伝えください」
「はいな~」
「ウルもまたね」
「キュッ!」
俺の言葉にスピカさんは小さく手を振り、ウルも尻尾を手のように振って去っていった。う~ん、なんとも和むコンビだった。
「……見て見てカイト、なんか変わった服装の人がこっちに来るよ? アレじゃない、キモノってやつじゃない?」
「……あ~」
こちらに向かって歩いてくるのは、天照さんと真名さん……もう少し平和な時間を味わいたかったなぁ。
うん? あれ? なんで、天照さんと真名さんが着たら平和じゃないとか思ったんだ? 別にエデンさんが来たわけでもないのに……ううん?
シリアス先輩「記憶は無いはずなのに、そこはかとなくヤバいという印象だけは残ってるマキナ……」




