建国記念祭⑤
どんよりとした空気を纏って現れたアメルさん……勘違いないように言っておくと、ちゃんとアメルさんにも店をやることは伝えてあった。
その時のハミングバードでのやり取りでは、「わかった。楽しみにしている」的な返事をくれていたはずなのだが……この雨に濡れた子犬のような有様はなんだろうか?
「……盟友よ。君が偉大な存在だというのはボクも理解している。困難にひとり立ち向かおうとする勇気を持つ真の戦士だとも思っている。だが、時としてその勇ましさが誰かを傷つける結果になってしまうこともあると思うんだ。深淵の宴に挑みし盟友の力になれなかったボクとか……援軍を求める文を待ち続けていたボクとか……心の中で深淵の宴の幻想を思い浮かべ、幻想との戦いで心を磨き備えていたボクとか……」
つまるところ、アメルさんが傷ついたということらしい。そしてその理由は……一緒に出店をやりたかったみたいだ。
いまの話を聞く限り、イメージトレーニングしながら俺から誘われるのをいまかいまかと待ち続けていたようで、結局当日になっても誘いが来ないので、しょんぼりしながらやってきたというわけだ。
「え、え~と……アメルさんに連絡して時点で、もう出店のメンバーは決まってしまってて、あまり規模が大きいものでもないので……」
「……ボクも……盟友と一緒にお店やりたかった」
泣きそうな顔してる。よっぽど一緒にやりたかったみたいだ。ど、どうするか? じゃあ、いまから一緒にということも可能だが……そんな同情じみた感じで誘っていいものだろうか?
かといって、このまま放置することも出来ないし……よしっ!
「じゃ、じゃあ、アメルさん、今度一緒にやりましょう!」
「……え?」
「ほら、お祭りは他にもあるわけですし、次の機会はアメルさんのやりたい出店を一緒にやりましょう?」
「……本当に? ボクと一緒にやってくれるの?」
「もちろんですよ! 俺もアメルさんと、一緒に店をやるのは楽しみですし……また今度、一緒にどんな店をやるか考えましょう」
「盟友っ!」
俺の言葉を聞いた、アメルさんの表情がパァっと明るくなる。それはもう先ほどまでの世界が終わったかのような表情から激変して、いまは喜びの感情が非常に強く出ている。
アメルさんはあまり友達と遊んだ経験が無いみたいなので、友達と一緒に出店とかってのには憧れるのだろう。その気持ちは分かるし、協力したいとも思う。
ただ、今回はもうすでに準備も全部終わってるし、この出店のサイズ的にさらに一人加えるのも厳しめなので、次の機会ということで我慢してもらおう。
「絶対だからね! 約束だからね!!」
「ええ、約束します」
「盟友とのお店、楽しみだなぁ……どんなお店がいいかなぁ――はっ!? こほん……うむ、新たなる契約はここに結ばれた。この契約を持って、今回の件は不問とするよ。今回の深淵の宴は、ボクは演者としてではなく観客として楽しませてもらうことにしよう。というわけで、禁忌の袋を表裏一体で貰うとしよう」
「は~い……普通のとチョコレート入りのひとつずつですね」
どうやらアメルさんの機嫌はすっかり直ったみたいで、ニコニコとした笑顔でベビーカステラを購入してくれた。
そして俺とアメルさんのやり取りを見ていたトーレさんが、なにやら頷きながら口を開く。
「なるほど……ふたりの絆は確かなものなんだね」
「むっ、我らの絆を見破ると? ボクの言の葉を読み取ったのだろうか?」
「……いや、よく分からない! けど、なんかフィーリング的な雰囲気で分かった気がする!」
アメルさんの言い回しを理解できたわけでは無いが、空気は察したということだろうか? なんかやたら自信満々なせいで、実はけっこう分かってるんじゃないかとか感じる。
「つまりアレだね。ふたりは、愛の絆で結ばれてるんだね!!」
「愛っ!?」
前言を撤回しよう。宣言通り、全然わかってなかったわこの人。本当に勘で言ってるだけである。
「ボボボ、ボクと、めめ、めめ、盟友はそういう関係ではなく、古き誓いによって結ばれた神聖な……」
「古き誓い?」
「そ、そう、前世の盟約によって……」
「つまり、前世でカイトと結婚してたってこと?」
「ちがうぅぅぅ! だ、だから、ボクと盟友はそういうのじゃなくて……ぁぅぅぅ……か、風が悪い! ボクはこれで失礼する!! め、盟友、またね!!」
トーレさんの的外れな言葉に対し、結構初心なアメルさんは顔を真っ赤にして、逃げるように去っていった。
う、うん、なんというか……まぁ、いろいろ言いたいことはあるけど……そろそろ普通の客が来てくれないかな?
シリアス先輩「……やめろトーレ……マジでやめろ……変なアシストでフラグ建てるな……」




