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何とかならなかったのかなぁ?

 俺は本当に頑張った……今までの人生で、ここまで頑張った事はそうないんじゃないかと言う程頑張り、何とか人生最大の難関を乗り越えた。

 いまだに手に残った感触がありありと思い浮かぶ……今夜寝れるだろうか?


「……カイト……ご飯……どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 風呂上がりにアイシスさんから夕食を用意していてくれた事を聞き、コレはまた広い食堂でアイシスさんと並んで座る。

 と言うかこれだけ大きなテーブルなのに、隣に座るとは……テーブルの10分の1も使っていないが、まぁ、アイシスさんらしいと言えばらしい。

 

 アイシスさんが用意してくれた料理はどれもシンプルで美味しそうだが、マジックボックスに入れていた訳では無いみたいだけど……冷めてたりはしないんだろうか?

 そんな俺の疑問に答える様に、アイシスさんの手に小さな魔法陣が浮かぶと、突如スープから湯気が立ち上る。


「お、おぉ……急に湯気が」

「……状態保存魔法……かけておいた」


 成程、俺はマジックボックスを使う事で状態保存魔法を疑似的に使用しているが、アイシスさんレベルになるとその程度は簡単に行えるみたいだ。

 そして、俺が料理に視線を動かしていると、アイシスさんは腰の前で手を小さく組んでモジモジと動かしながら、緊張した様子で口を開く。


「……ちゃんと……作れてたら……良いんだけど……」

「え? これ、アイシスさんが作ってくれたんですか?」

「……う、うん……私は普段……ご飯食べないけど……カイトは食べるから……練習……した」

「……アイシスさん」


 アイシスさんや一部の高位魔族にとって、食事や睡眠は必須では無く趣味趣向の範囲らしい。

 アイシスさんは普段茶請けの菓子程度しか食さないらしく、料理は俺の為に練習してくれたみたいだ。


 何と言うか、凄く嬉しくて同時に照れくさく、もう一度アイシスさんにお礼を告げてから料理に手を伸ばす。


「いただきます」

「……うん」


 アイシスさんの作ってくれた料理は、何と言うか拙さの残るものだった。

 洗練されている訳ではなく、不慣れな感じがして……だからこそ、アイシスさんが思考錯誤しながら必死に練習してくれたというのが伝わって来た。

 だから……だろうか? お世辞にも一級品とは言えない味だが、この料理はどうしようもない程美味しく、何より心が温かくなった。


「……とても、美味しいです」

「……本当? ……でも……私……料理全然……」

「えっと、ほら、前にアイシスさんが言っていたのと同じですよ」

「……え?」

「アイシスさんが俺の為に作ってくれて、アイシスさんがいてくれるから……いつもよりずっと美味しいんです」

「……カイ……ト」


 この料理は本当に美味しい、アイシスさんの真心が伝わってくるみたいで、心から感動できる。

 その想いをそのまま伝えると、アイシスさんは感極まった様に目を潤ませる。

 大変可愛らしい姿に、思わずドキッと心臓が跳ね、それを誤魔化す様に慌てて食事を進める。


「……あっ……カイト……待って」

「はい?」


 アイシスさんは何故か途中で俺に食事を止める様に言って、首を傾げる俺の前で……俺が置いたフェークを手に取り、サラダの一部を刺し片手を添えて差し出してくる。


「……はい……あ~ん」

「は? え? ちょ、ちょっと……アイシスさん!? いきなり何を!?」

「……ご飯食べる時……こうしてあげると喜ぶって……言ってた」

「……誰がですか?」

「……シャルティア」


 おい、こら、幻王……ちょっと出て来い。

 何やってんだあのヤロウ! 暗躍してるだけじゃなくて、何変な知識を植え付けてるんだ!?


 い、いや、それよりも、今はこの状況だ。

 アイシスさんは素直な方だから、幻王の言った俺が喜ぶという情報を完全に信じ込んで、100%善意でやって来ている。

 いや、勿論俺だって、こう言う事をされるのが嫌という訳ではないが……滅茶苦茶恥ずかしい。


 弁明するのは簡単だが、それだときっとアイシスさんは悲しい顔をするだろう。

 アイシスさんに悲しい顔なんてさせたくない……そうだ。俺が少し恥ずかしいのを我慢すれば、それですむ話じゃないか!

 よ、よし……


「……い、いただきます」

「……あれ? ……カイトも……あ~んって……」

「……あ~ん……」

「……はい……美味しい?」

「お、美味しいです」

「……良かった」


 繰り返しになるが……どうしてこうなった?

 とりあえず、幻王許さない……絶対今度会った時に文句言ってやる。


 後もう一つ……料理すごく多いんだけど、まさかこれ全部俺が食べるの? 


























「ご、ごちそうさまでした」

「……うん……あっ……デザートも……ある」

「……え? あ、はい。い、いただきます」


 想像以上に大量だった料理を、アイシスさんに喜んで貰いたい一心で食べ切り、ようやく終わったと息を吐いたが……まだデザートが有るらしい。

 お、お腹破裂しそう……で、でもアイシスさんが、俺の為に頑張って作ってくれたんだ。ここで食べなきゃ男じゃない!


 アイシスさんは相変わらず嬉しそうな笑顔のままで、アップルパイ……もといリプルのパイを持ってきた。


「リプルパイですか?」

「……うん……カイトが……好きって言ってたから……」

「ありがとうございます」


 確かに俺はアップルパイが好きだ。

 アップルパイは母さんの得意料理の一つだった……いや、俺の母さん料理凄く下手で、ハンバーグとアップルパイしかまともに作れなかったんだけど……

 ともあれアップルパイは、俺にとって母さんの味であり、大好物と言える……自覚ないけど、俺ってマザコンなんだろうか?


「……はい……あ~ん」

「……あ~ん」


 やっぱりデザートでもそれはやるみたいで、差し出されたリプルパイを食べようとしたが、そこでふと先程とは明らかに状況が違う事に気が付いた。

 先程はフォークやスプーンを使って差し出して来ていたが、今アイシスさんはリプルパイを手で掴んで差し出して来ている。

 お、落ち着け、大丈夫だ……ちゃんと食べる位置を計算して口を開く大きさを調整すれば……


 先程以上の緊張と共に、リプルのパイを食べる。

 甘く柔らかいリプルの実に、サクサクとしたパイ生地がマッチしており、口の中で噛むたびに心地良い歯ごたえと共に優しい味が広がる。


 ……思わず、泣きそうになってしまった。

 料理に慣れていないアイシスさんが作ってくれたリプルパイは、料理下手だった母さんのアップルパイにそっくりの味で……胸の奥がジーンと暖かくなる様な美味しさだった。

 俺がその懐かしい味に感動していると、アイシスさんはふと何かに気付いた様子で、俺の方に手を伸ばしてくる。


「……付いてる」

「へ? なっ!?」

「……はむっ」

「~~!?!?」


 アイシスさんは俺の口元に付いていたパイ生地の欠片を指でとり、それをごく自然な動きで自分の口へ運んだ。

 その行動に昔を思い出していた思考も一気に吹っ飛び、顔が凄まじく熱くなるのを感じる。


 しかしアイシスさんは特に気にした様子は無く、再びリプルパイをもって俺の方に差し出して……って、待て待て!? 何かコレ、ヤバくないか!?

 だってさっきアイシスさんは指に付いたパイ生地を口に運んだ……指を一度口の中に入れてる訳だ。

 そして今、その手でリプルパイを持って俺に食べさせようとしている……しかも今度は先程一口食べているので小さく、一口で食べなければ不自然なサイズ……それって、えと、間接キスってやつなんじゃ……


「……あ、あの、アイシスさん。やっぱり自分で……」

「……えっ……」

「あっ、いや、嘘です! 頂きます!」


 やはり自分で食べると言いかけた俺だが、アイシスさんが浮かべた悲しそうな顔の前に即座に轟沈した。

 む、無理だ! あんな顔されたんじゃ、自分で食べますなんて言えない!?


 逃げられない事を悟り、俺は意を決して口を開きリプルのパイを食べる。

 口の中にアイシスさんの柔らかい指か入り、一瞬の事であったが微かに感じる体温に顔が沸騰しそうな思いだった。


 ……しかし、それで終わりではない。何故ならまあリプルパイは7切れ残っているのだ……


 ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべ、新しい切れ端を手に持つアイシスさんを見て、俺はもうこの先の羞恥を受け入れる覚悟をした。


 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんは俺の為に料理を勉強してくれたみたいで、手料理をふるまってくれた。とても美味しく、その気持ちが嬉しかったんだけど、この羞恥プレイだけは――何とかならなかったのかなぁ?




















 


 


ただのバカップルじゃねぇか!? 爆ぜろ!!


ともあれ、何でしょうねこの凄まじいヒロイン力は……


可愛いくて優しくて(快人にだけ)、料理も頑張って覚えたりと尽くしてくれて、滅茶苦茶強いのに守りたくなる感じで、その上一途に愛してくれる……スペックが高すぎる。

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― 新着の感想 ―
てぇてぇ・・・と思う気持ちと爆ぜろという気持ちが、、、私はどうしたらいいでしょう
[一言] この頃から片鱗が見え隠れするシャルティア...
[良い点] これこそ昔ながらの正しきツンデレ
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