閑話・黒白のお茶会~白の挑発~
神界の神域、シャローヴァナルの住むその地では、シャローヴァナルとクロムエイナが共にお茶を飲んでいいた。
「そういえば、クロ。快人さんが出店をやるというのはご存知ですか?」
「え? うん。もちろん知ってるけど、それがどうしたの?」
「これを見てください」
首を傾げるクロムエイナの前に、シャローヴァナルはひとつの紙袋を取り出してクロムエイナに見せる。
「これは快人さんが、初めに作った試作品のベビーカステラです。羨ましいですか?」
「え? いや、ボクは祭りの雰囲気と合わせて楽しみたいし、当日に買いに行くのを楽しみにしてるから、特になんとも……」
「アイデンティティたるベビーカステラに関することで、私に後れを取って悔しいですか?」
「……いや、だから、ボクは別に順番を競ってたりは……」
「私が先、クロが後、ですね」
「……なんだろう。さっきから言ってる通り、順番とかは気にしてないんだけど、そのことでシロが凄く得意げなのは……なんかムカつく」
クロムエイナは快人ほどシャローヴァナルの表情の変化が分かるわけではないが、現在のシャローヴァナルがドヤ顔をしていることは理解できた。
いや、表情は相変わらずほぼ変わらないのだが、背後に「ドヤァ」という大きな立体文字が出ているので、シャローヴァナルの心境は文字通り見て分かっていた。
「私の勝ちで、クロの負けですね」
「負けてないんだけど? そもそも勝負してないんだけど……アレかな、シロ? もしかしてボクに喧嘩売ってるのかな? そのために今日、呼び出したの?」
「なるほど、これが負け犬の遠吠えというやつなのですね」
「……は? いや、負けてないけど? というか、今日は妙に挑発してくるよね? ボクを怒らせたところでシロに得なんてないと思うから、もうその話はやめにしない?」
額に青筋を浮かべつつも、クロムエイナは努めて冷静になろうとしていた。シャローヴァナルの思惑は不明だが、コレだけ露骨に挑発してきているということは、クロムエイナを怒らせようとしているのは察することができ、ある程度の冷静さを保てた。
なにより、素直にシャローヴァナルの思惑通りに動くのも癪だった……。
「そうですね」
「うんうん、ボクもいまの話は聞かなかったことにするから、楽しくお茶を……」
「敗者をこれ以上イジメるのも可哀そうですね」
「……よし、その喧嘩買った。ぶっ飛ばしてやる」
「連敗したいとは、物好きですね」
「そもそも、一敗もしてないんだけど!?」
とはいえ、クロムエイナにも我慢の限界というものはある。特にシャローヴァナルとは、互いに遠慮がないためたびたび喧嘩しているので、自制も効きにくい。
怒りと共に黒い煙を立ち昇らせながら立ち上がったクロムエイナに対し、シャローヴァナルは静かに告げる。
「では、これで決着を着けましょう」
「……え? なにこれ?」
「快人さんの誕生日に、贈ったものと同じ異世界のゲームです」
「……はい?」
突如テーブルの上に黒い箱状の物体を取り出して告げるシャローヴァナルの言葉に、クロムエイナは先ほどまでの怒りも忘れてキョトンとした表情を浮かべた。
なにせ完全に予想外の展開である。
「快人さんはゲームが好きです。プレゼントしたこれも、たびたび同郷の者たちと遊んでいるようです」
「……うん。それで?」
「私も快人さんとゲームで遊んで盛り上がりたいと思います。ですが、知識として地球神にある程度は聞きましたが、実際に遊んだことが無いので、練習が必要と判断しました」
「……つまり?」
「しかし、ふたりで対戦したりするようなゲームもあるので、対戦相手が必要です」
「え? コレェ!? この展開に持ってくために、さっきからさんざん挑発しまくってたの!? いや……普通に誘ってくれないかな? 別に拒否したりしないから……」
「ふむ、では次からはそうします」
やけに煽るような言動が多いと思ったら、クロムエイナと対戦ゲームを行うためだったという……なんともシャローヴァナルらしい天然っぷりにクロムエイナも呆れたよう表情を浮かべる。
しかし、ゲームに関しては特に断る理由もないので、シャローヴァナルと並んでコントローラーを持つ。
「……まぁ、クロが連敗する事実は変わりませんが」
「負 け て な い か ら ね ? ……本当に……ぶっ飛ばしてやる」
最後にもうひとつ挑発が加わったことで、クロムエイナも真剣な表情で空中に表示される画面を見た。
そうして、シャローヴァナルとクロムエイナは共にゲームをすることになったのだが……。
「ねぇ、シロ! これ、反応遅くない!? ほらっ、遅すぎるよ!!」
「愚かですね、クロ。コレは人間の能力に合わせて作られているものです。その感覚に適応できなければ負けるだけ……あっ」
「シロも全然適応できてないじゃん!? 滅茶苦茶な動きしてるよ!!」
「……なんと、一万分の一秒にすら反応しないのですか……」
「ボクらにとっては遅くても、普通の人間は反応できないからね!?」
ふたりは、ゲームになかなか苦戦していた。というのも、クロムエイナもシャローヴァナルも能力が高すぎて、ゲームの反応があまりにも遅すぎて苦戦していた。
「うぅ、これ、難しくない? 身体能力とかはともかく、反応速度とかはつい反射的に動いちゃうし、一度ボタン押すと取り返しつかないし……あと、これ一定以上の速度の連打を認識してくれないから、その辺りも調整しないといけない」
「確かに思った以上に厄介ですね」
「というか、こういう激しく動くやつじゃなくて、最初はもっとのんびりした……すごろくみたいなゲームないの? まず、そういうのから慣れていかないと……」
「ふむ、一理あります。では、もう少し動きの少ないものを……」
そもそも、ふたりはゲーム自体素人もいいところなので、苦戦するのは必然といえた。
「……というか、思ったんだけどさ」
「なんですか?」
「むしろ今の慣れてない状態の方が、カイトくんと勝負しても互角……いや、経験の分カイトくんの方が有利だと思うし……ボクたちが慣れて、反応速度のズレに合わせて動かせるようになってからより、いまの状態の方が一緒に遊んでて盛り上がるんじゃない?」
「……たしかに……」
そんな風な会話をしながら、ふたりは異世界のゲームをワイワイと……なんだかんだで仲良く楽しみつつプレイしていた。
シリアス先輩「レースゲームにもあった、基礎能力が高すぎて逆に難しくなってるパターンか……」
???「私は普通にプレイできますけどね」
シリアス先輩「お前はそもそも、元の世界でプレイ経験ありそう」




