出店の準備⑦
現在シンフォニア王国の王城の一室、会議を行う広い部屋はかなりの騒ぎになっていた。建国記念祭に六王全員が代理ではなく本人参加という過去に類を見ない事態に、当初は経験のために王太子アマリエが取り仕切る予定だったところを急遽ライズが仕切ることとなり、側近たちを集めて会議を行っていた。
……だが、その会議が難航していた。
というのも、理由が分からないのだ。いや、正しくは理由に心当たりはある……国王であるライズも、国の運営に携わる側近たちも、原因となる存在が誰であるかは分かっているのだが、今回の件に関してはその人物がどうしても結びつかなかった。
「……なぜだ? なぜ六王様たちは、セレモニーに出席を……オーキッド、ミヤマくんがセレモニーに参加するような話は?」
「いえ、聞いていません。それに、カイトの性格上、セレモニーや記念パーティには参加したがらないと思うのですが……」
「ああ、たしかに余も同じ認識だ。ほかになにかミヤマくんに関する情報を得ているものは……いないか……六王様方の目的はなんなんだ?」
そう、六王が集結する原因が快人であることは、考えるまでもなく察することはできた。しかし、今回は六王集結となる要因が、いまだに不明なままだった。
これはある意味必然といえる。なにせ、快人はたしかに出店を決めはしたが、まだ申請も行っておらず、少数の知り合いに話した程度だ。
そして仮に既に申請が出ていたとしても、建国記念祭の出店数は膨大だ。その上、統括所の職員は王城に勤める者たちと違って、貴族と接する機会などほぼ無く、快人に関しても知らないものが多い。
となると、情報が上がってくる可能性も低く、統括所側から上がってこなければ、膨大な出店申請の中から快人の名前を偶然発見するのは、奇跡でもなければ不可能だろう。
「……とりあえず、ミヤマくんにハミングバードで尋ねてみることにしよう」
最終的に直接聞くしかないという結論に達したのだが……残念ながら、ここでライズは聞き方を間違えてしまった。
六王たちが集結するのがセレモニーだったため、ライズは快人に「セレモニーやパーティに参加する気はあるか?」という旨の質問を送ってしまった。
ここでもし、「六王が集結するらしいが心当たりはないか?」という質問をしていれば、望む回答を得られただろう。
だが、セレモニーやパーティへの参加の意思があるかという質問であれば、快人の返答は当然「参加する気は無い」というものであり、ライズたちは、六王集結の原因が分からず頭を抱えることになった。
最終的にその状況を哀れんだアリスから詳細の書かれた手紙が届くのは、数日経ってからだった。
さて、そもそもである。クロムエイナやシャローヴァナルはともかくとして、他の六王たちがなぜ快人の出店の情報を知ったのかといえば……時間は少し遡り、快人が出店の打ち合わせを行った直後の話となる。
魔界の一角にある巨大都市にて、仕事をしていた戦王配下筆頭であるアグニの元に来客があったのが始まりだった。
「アグニ、久しぶり~今日も元気に振られてる?」
「いきなり辛辣だな、トーレ殿……残念ながら、今日もオズマ様には受け入れていただけなかった。また明日、再挑戦することにするさ」
「うんうん、諦めずに頑張るのは大事だよね。確か異世界にもそんな感じのことわざがあったよね……確か『継続はパワーだぜ』だったかな?」
「……微妙に違う気がするが、言わんとすることは分かる」
トーレとアグニは長い付き合いの友人である。というか、そもそも社交的なトーレには他陣営の友人は多い。
アグニも明るくポジティブなトーレのことは気に入っており、会話をする表情も穏やかだった。トーレの戦闘力が皆無ということもあり、戦闘狂のアグニにとっては、「模擬戦をしよう」という発想にならない相手なので、ある意味で落ち着いて会話できるともいえる。
「それで、急に来るのはいつものことだが、今回はどうしたのだトーレ殿?」
「あっ、そうそう。聞いて聞いて、私ね、今度のシンフォニア王国の建国記念祭でカイトと一緒に出店をやることになったんだよ~」
「ミヤマ様と? ほぅ、それは驚いた」
「そういうわけだから、アグニも買いに来てよ。ほんのりサービスするかもしれないから!」
「ふふ、そうだな、では予定を空けて多少なりとも売り上げに貢献させていただくことにしよう」
「うんうん。あっ、認識阻害魔法は忘れちゃ駄目だぞ~騒ぎになっちゃうからね」
「心得ているさ、ミヤマ様に迷惑かかけぬようにする」
トーレから出店の話を聞き、店に足を運ぶことを約束したアグニは、そのまま少しの間トーレと雑談を行った。
「……それじゃ、私はそろそろ帰るね。また、店の場所が決まったら教えるよ~」
「心得た。菓子を土産に包ませてあるから、帰り際に入り口の配下から受け取るといい」
「ありがと~それじゃ、またね~」
ニコニコと笑顔で大きく手を振り去っていったトーレを見送り、アグニは苦笑する。
「相変わらず、嵐のようだな……しかし、ミヤマ様が出店か……ふむ、いちおうメギド様のお耳にも入れておくか……」
そう考えたアグニは、部屋を出てメギドの元にトーレから得た情報を報告に向かった。同様に他の陣営においても、トーレと交流の多いエインガナ、ラズリア経由でよく会っているティルタニア、フュンフと仲が良くトーレも会う機会の多いグラトニーなどにも話は伝わり、六王たちは快人の出店の情報を知ることになった。
シリアス先輩「ああ、そうか、国にしてみれば『快人いないけど、なんで集まってくるの!?』状態なわけか……しかも、出店までの猶予はそこそこあっても、国にしてみれば急すぎる。まさに青天の霹靂みたいな事態なんだよなぁ」
???「そして、アレですね。まだほかにも集まりそうなのが居るんすよね……アメルさんとか」
シリアス先輩「そいつはたしかに話聞いたら文字通り飛んできそう」




