出店の準備③
突如現れたトーレさんの相変わらずの様子に若干呆れつつ、俺はふとあることを思い付いて尋ねた。
「……そういえば、チェントさんとシエンさんは?」
「居るよ? ふたりとも~もう出てきてもいいよ」
トーレさんがそう告げると、景色が歪みチェントさんとシエンさんが姿を現した。どうやら魔力を抑えて姿を消していたみたいだが、さすがは伯爵級でも上の方の実力者というべきか全然気づかなかった。
「こんにちは、ミヤマさん」
「……トーレ姉様が、本当にいつもすみません」
「いえ、こんにちは、チェントさん、シエンさん。おふたりは、なんで姿を消してたんですか?」
申し訳なさそうに告げるふたりに苦笑しつつ挨拶を返し、どうして姿を消していたかを聞いてみる。
「先ほどたまたまミヤマさんを見かけて、声をかけようということになったのですが……トーレ姉様が、こういう台詞はひとりの方が雰囲気が出るからと……」
「私たちは合図があるまで隠れておくようにって……」
「……おふたりも、いつも大変ですね」
例によってトーレさんの思い付きによるものだったみたいだ。
「そういえば、カイト? 結局なにを考え込んでたの?」
「え? ああ、実は……」
トーレさんによって話は本題に戻り、俺は先ほどのエリーゼさんとのやり取り、建国記念祭で出店をやりたいと考えていることを説明した。
「ほほぅ、それは面白そうだね! 任せて、私が力になってあげようじゃないか!」
「……トーレさんって、料理とか得意だったりします?」
「ふふふ、見くびってもらっちゃ困るね。私はこうみえて、料理経験もあるし料理にもかなり自信があるよ」
「……そ、そうですか」
……う~ん、たぶんこれ、違うな。だって、俺よりもっと遥かにトーレさんのことを知っているであろうチェントさんとシエンさんが『え? なにそれ初耳?』みたいな顔してる。
正直トーレさんに聞いてもらちが明かないと考えた俺は、チェントさんとシエンさんの方を向く。
「チェントさん、シエンさん、トーレさんはああ言ってますが……」
「えっと、ラズさんの畑で採れた野菜などを使って、皆でサンドイッチを作ったりしたことは……何度かあったような?」
「……そういう意味であれば、料理経験がないわけでもないと……言えなくもないような?」
トーレさんは、少なくともフィーア先生よりは年上と考えると余裕で1万歳は超えている。以前チラッと聞いたのだが、チェントさんとシエンさんがクロの元に来たのはラズさんとほぼ同時期という話だ。
なのでふたりは、ラズさんより古株の相手は姉様、兄様と、ラズさんより後の人相手はさん付けで呼ぶ。
まぁ、ともかくラズさんと同時期ということは、本当に数千年かそれこそ1万年を越えるほど長く、ふたりはトーレさんの護衛を務め、他の誰よりもトーレさんのことを知っているはずだ。
そのふたりが、必死に絞り出して出てくるトーレさんの料理経験が、皆で作ったサンドイッチである。つまり、トーレさんはほぼ料理経験は無しと考えていいと思う。
「……トーレさん?」
「ふっ、私の料理経験はふたりが語った通りだよ。ドーンと頼ってくれていいからね!」
……なん……だと……嘘だろ? この人、いままでの会話の流れと俺たち3人の反応を見た上で、それでもなお料理に自信があるというスタンスを、ここまで堂々と維持できるのか……アイアンハート過ぎるだろ、この人。
「毎度のことながら、トーレ姉様がすみません……えっと、ご迷惑をおかけするとは思いますが、私たちも出来る限り協力させていただきます」
「私たちは、トーレ姉様の食事を作ったりすることも多くて、料理はある程度はできますので……」
「それは心強いです。頼りにさせてもらいますね」
「……なんか、私の時とチェントとシエンの時で、反応が違わないかな?」
そりゃ、どう考えても頼りになるのはチェントさんとシエンさんの方だろう。ふたりの『ある程度』は、トーレさんの根拠のない自信とはまるで違う。
たぶんこのふたりの場合は、ある程度と言いつつも俺の想定を超える腕前だと思う。仮にトーレさんが同じセリフを言ったとしたら、確実にこちらの予想を下回ってくるだろうけど……。
「能力による期待値の差、ですかね? 言っときますけど、トーレさんは俺と同じ側ですからね」
「おかしいな? 私、そこそこ家庭的なお姉ちゃんのはずなんだけどなぁ」
「普段、チェントさんとシエンさんが料理してくれる時になにしてるんですか?」
「皿を並べてる! ほら、家庭的でしょ?」
「自己評価たっか……」
ま、まぁ、ともかくこれで3人のメンバーが加わったわけだ。トーレさんはたぶん、俺とどっこいどっこいぐらいだろうが、チェントさんとシエンさんはかなり頼りになりそうだ。
『トーレお姉ちゃんズ』
つよつよメンタルと無駄な自信に定評のあるお姉ちゃんと、マジで有能な双子の妹の3人セット。
いつもトーレはふたりの目を掻い潜って抜け出しているように見えるが、実際は『5回に1回』ぐらいの頻度であり、一緒に居ることの方が遥かに多い。
5回に1回を意外と少ないと見るべきか、20%の確率で伯爵級でも上位のふたりの目を掻い潜れるステルス能力に呆れるべきかは悩みどころである。
ちなみにお姉ちゃんの数少ない料理経験であるサンドイッチも、だいたい好奇心のままにアレコレ大量に挟みまくるせいで滅茶苦茶になるので、綺麗に作れた経験はほぼ無いが、それでもつよつよメンタルなトーレは、自信満々である。
【快人】料理:D 包装:C 計算:D 接客:A
【トーレ】料理:F 包装:C 計算:F 接客:S
【チェント】料理:A 包装:A 計算:B 接客:B
【シエン】料理:A 包装:B 計算:A 接客:B
【マスコットの猫】料理:SSS 包装:SSS 計算:SSS 接客:G(着ぐるみのせい)




