出店の準備①
この世界には、当たり前だがネット通販なんてものはない。なので必然的に買い物を行う際は、直接店に赴いて買い物を行う。
まぁ、貴族とかだと商人を呼びつけたりとかもあるみたいだが……ともかく、俺も日頃からよく買い物に行くし、家から近い通りに関してはかなり詳しくなったつもりではある。
しかし、今日はなんとなく雰囲気が違っているような気がした。表現するのは難しいが、いつもより浮足立っているというか、賑やかなのはいつもだが今日は少し違った賑やかさのような気がした。
不思議に感じつつ、そういえば近場にエリーゼさんの店があったことを思い出したので、せっかくだし寄ってみようと思い至った。
この通りに店を構えるエリーゼさんなら、この少し違う感じにも心当たりがあるかもしれない。
考えをまとめてエリーゼさんの店の前に着くと、丁度そのタイミングで扉が開きエリーゼさんが姿を現し……露骨に嫌そうな顔をした。
「……げぇっ、人間さん……なんてタイミングで来るですか」
「う、うん? えっと、こんにちは」
「はいはい、こんにちは……ちょっとそこどくです」
「あ、はい」
相変わらずの塩対応で俺を横にどかしたあと、エリーゼさんは店の扉に札をかける。その札には『本日臨時休業』と書かれていた。
「あっ、もしかしてどこかに出かけるところでした? だとしたら、申し訳ない」
「そういうわけじゃないですけど……まぁ、いいです。さっさと店内に入るです」
「え? 入ってもいいんですか?」
「そこに突っ立たれても邪魔です」
タイミングが悪い的なことを言っていたので、帰ろうかとも思ったのだが……店内には入れてくれるらしい。とりあえず、エリーゼさんの言葉に頷いて店内に入る。
「コーヒー用意してくるので、適当に座ってるです」
「あ、ありがとうございます」
う、う~ん、やっぱりなんだかんだで口調とかは塩対応っぽい感じだけど、実際は結構普通に対応してくれるんだよなぁ。
感応魔法で伝わってくる感情でも、やはり嫌われていたりするような感じではない。
「それで、今日はなんの用ですか?」
「ああ、いえ、近くまで来たので寄っていこうかと……エリーゼさんは、えっと臨時休業にするぐらいですから、なにか用事があるんですよね?」
「まぁ、用事といえば用事ですかね。今日の午後は、出店の準備をしようと思ってたですから、半日ほど臨時休業にしたです。別に、忙しかったりするほど作業があるわけでもないですけどね」
エリーゼさんは、俺の前にコーヒーを置きながら説明してくれた。出店? そういえば、白神祭とかでも出店をやってたし、そもそもの出会いは六王祭なので、結構そういう出店をやっているのかもしれない。
「へぇ、出店ってことは……またどっかでお祭りがあるんですか?」
「……なに言ってるですか、人間さん……つまらないギャグ……では無くて、マジ発言ですか?」
「え? えっと……」
なんか滅茶苦茶呆れたような顔されたんだけど!? え? なんでだろう?
俺が戸惑っていると、エリーゼさんは軽くため息を吐いて口を開く。
「どこかもなにも、もうすぐあるのは『シンフォニア王国建国記念祭』ですよ? ここ、この王都であるです」
「そ、そうなんですか!?」
「……本当に知らないんですね? ああ、そういえば人間さんは2年ほど異世界に戻ってたですね。勇者祭のある年は建国記念祭は行われないですし、人間さんにとっては初めての建国記念祭というわけですか」
「ええ、そっか……通りの雰囲気がいつもと少し違うとは思ってたんですが、建国記念祭の準備をしていたんですね」
「月末に開催ですからね。まだ日数はあるとはいえ、そろそろ皆準備を始めてるです」
そうか、建国記念祭だったのか……話だけなら聞いたことがあったが、もうすぐだとは知らなかった。まぁ、月末といえばまだ20日以上あるので、リリアさんたちももっと近づいてから教えてくれるつもりだったのかもしれない。
ただ、出店側のエリーゼさんとかはそろそろ準備をしておく必要があるというわけか……。
「……なんなら、人間さんも出店でもやったらどうです? 一般人でも申請すれば出店出せるです……まぁ、人間さんを一般人にカウントするのは、大きな間違いのような気もするですが……」
「出店ですか……なるほど、それも楽しそうですね」
「……余計なこと言ったかもしれないです。もしそうなったら、私の店の近くには出店しないで欲しいです。余計な騒ぎは御免です」
エリーゼさんの辛辣な言葉はともかくとして、出店というのは面白そうかもしれない。焼きそばとかなら俺でも作れるかもしれないし、知り合いに手伝ってもらって一緒に出すのもいいかもしれない。
なんか文化祭みたいで楽しそうというか、学生時代はロクに参加してなかったし、そういうのにちょっと憧れがある。
う~ん、ちょっと真剣に考えてみようかな……。
魔界「ッ!?」
神界「ッ!?」
人界「ッ!?」
シンフォニア王国首都「……もう駄目だ……おしまいだ……」
シンフォニア国王「……なんだ? いま、胃に寒気が……」




