六つ目の星④
それは穏やかな日の夕方のことだった。ベルの散歩とブラッシングを終え、リンとセラも含めて遊びつつ午後を過ごし、そろそろ夕食時かなぁと思っていたタイミングで、突如アリスが姿を現した。
「カイトさん!」
「うん?」
「奢ってください! ありがとうございます! じゃ、店はこっちで決めといたので行きましょう!」
「え? ちょっ、待っ……早い早い!?」
なんだコイツ、突然現れたかと思ったら超速かつ一方的に展開を進行させたぞ……というか、こっちに対しての確認はゼロである。
奢ってくださいから、ありがとうございますの間までに俺一言も発してないんだけど……。
「い、いや、展開が早すぎて付いていけ――待て、お前、なんで俺を担ぎ上げてる? お前、本当にふざけるなよ……」
「発射!」
「絶対あとで殴るからなぁぁぁぁぁ!!」
そして俺はあっという間に王都の空を舞った。
痛そうに頭を抑えるアリスと並んで夕食時で賑わう通りを歩く。どうもここは王都ではなく、少し離れたところにある街らしい。
さすがにあの手の運搬方法も三度目にもなればある程度余裕はあり、今回は夕日を楽しみながら飛んできた。まぁ、普通に運んでほしいという気持ちはあるが……。
「……めっちゃ痛いんすけど、あのピコハン使うのは酷くないっすか?」
「アレじゃないと、マジのダメージ入らないし……それで、いきなりどうした?」
「いえ、アリスちゃんも最近いろいろ大変でしてね。心の平静のために、カイトさんのお金でやけ食いしたいなぁと思って、こうしてカイトさんを連れてきたわけです」
「……その台詞を一切悪ぶれもせず言えるお前のメンタルを尊敬するよ」
当たり前のように『俺の金で』という言葉を付け加えてやがるし……しかし、アリスのやけ食いか……酷い金額になりそうな気がする。
そんななんとも言えない気持ちと、財布の中にいくら入れてたっけとそんなことを考えつつ、アリスが貸し切りにしているという店に行くことになった。
店に入ってどれほどの時間が経過しただろうか……肉料理中心のこの店の料理は、なるほどかなり美味しくボリュームもたっぷりだった。
超高級って感じではないのだが、そこそこ高級で量も多い……アリスが好きそうな店だ。まぁ、それはいいのだが……。
「……お前、本当にどれだけ食うんだよ。限界無いのか……」
「失礼な! アリスちゃんは花も恥じらう乙女ですよ。当然限界はあるに決まってるじゃないですか……『店の在庫』という限界がちゃんと存在します!」
「……」
店の方に限界を突き付けていくストロングスタイルに絶句するが、アリスなのである意味いまさらと言えるかもしれない。
「……けど、それにしてもやけ食いって、なにがあったんだ?」
「いや、なにがあったというか……ただでさえ、爵位級の見直しで忙しかったのに、そこに十尾のミスティックシルバーにブルークリスタルフラワーの精霊……」
「あ~スピカさんだっけ? 新しく、アイシスさんのところに加わった」
「ええ、それによっていままで精霊が宿らないと思っていた植物にも宿る可能性があるってことで、リリウッドさんが再調査に乗り出すみたいなんですが、協力を要請されまして……その上、十尾かつ理性を保ててるミスティックシルバー……例えば、他のミスティックシルバーも動けなくして魔力構成を組みなおせば、ウルさんみたいになれるのかとか、調査もしたいんすけど……ミスティックシルバーが希少過ぎる上にすぐ死ぬので、試してみるのも難しくて大変なんすよ」
なるほど、アリス……というか、幻王陣営は情報を主に取り扱うし、新情報的な要素が多いと大変なわけか……。
「本当に、アイシスさんが立て続けに『K案件』かましてくれたおかげで、大忙しです」
「……K案件ってなんだ?」
「未知の出来事、未確認の生物などを突然連れてくることを、『我々の業界』では『カイトさん案件』、通称K案件と呼称しています」
「どこの業界だよ。そしてKって俺のこと!? いやいや、それだとなにもかも俺のせいみたいで、風評被害も甚だしいんだけど……」
「リリアさんの前で同じセリフ言えたら、風評被害と認めましょう」
「………………話を戻すけど、アイシスさんところの新入りの件で忙しくてストレスが溜まった結果のやけ食いってことでいいのか?」
生憎と、俺に進んで説教を受けに行く趣味はないので、先ほどの話題は聞かなかったことにする。
「ええ、いろいろあり過ぎて、アリスちゃんはもう胃痛で苦しんだので、その解消のためっすね!」
「……本当に胃痛で苦しんでる人は、空皿のタワーなんて作らねぇよ」
アリスの言葉を聞いて、俺は呆れた表情でアリスが食べた皿の山を見る。しかも、この店の限界はなかなか先にあるみたいで、まだまだここから増えそうである。
「まぁまぁ、いいじゃないっすか。アリスちゃんはストレス解消できてよし! アリスちゃんは美味しいものが食べられてよし! アリスちゃんは奢ってもらえてよし! って感じで、三方よしのお得なトリプルWINシステムですし」
「お前がひとりでハットトリック決めてるだけで、全然三方よしになってないんだけど!?」
「……」
「……」
「てへっ――あいたぁぁぁぁ!?」
再考に腹立つ顔でてへぺろかましてきたので、シロさん特性のピコハンをもう一度叩き込んでおく。痛みにのたうち回っていたアリスは、少しするとガバっと顔を上げて猛抗議してきた。
「なにするんすか!? 胃が痛いアリスちゃんの、頭まで痛くするつもりなんですか! ……あっ、すみませんここからここまで20皿ずつ!」
「……だから、本当に胃が痛い人は、そんな地獄みたいな注文しないんだよ……」
まだまだ食うつもりであるアリス……なんというか、本当に困ったやつである。
ある意味ではいつも通りというか、アリスらしいというか……俺は美味しそうに料理を食べるアリスを、若干呆れつつ苦笑を浮かべて眺めていた。
まぁ……なんだかんだでこうやってワイワイやり取りするのも楽しい。
……なお、支払いで俺の財布から白金貨が3枚消えた……そこそこ高級ながら、手が届きやすい価格のこの店でよくもまぁ3000万円分も食ったと賞賛するべきか、それだけ食材の在庫があった店を称えるべきか……。
シリアス先輩「アリス的には、しょうがないなぁって感じの快人の苦笑顔も見れて4WINか……ゴール叩き込まれてるの快人だけど……」




