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六つ目の星②



 ブルークリスタルフラワーの精霊であるスピカの希望で、アイシスは部屋の中にあったテーブルと椅子を使って雑談をすることになった。

 話の内容はやはり主にスピカについての話題が多くなったが、互いの性格もあって話は穏やかに進む。


「……そっか……スピカは……あちこち旅してるんだね」

「ですねぇ。フラフラと~気ままに旅しとりましたよ。アイシスさんに見つけてもらったんも、久しぶりに雪景色が見たいなぁて思うて移動した直後でした」


 スピカの話を聞いて、アイシスはおおむね己の想定が正しいことを悟った。つまり、スピカは過去に一度も精霊として顕現したことは無く、ずっと花に宿ったままだった。

 そのため魔力が微弱であり、そもそもブルークリスタルフラワー自体が魔力を持つ花であることも相まってスピカの存在は誰にも気づかれないままだった。

 しかし、そうなると本当になぜ今回は表に出てきたのかという疑問もあった。話がしたくなったという理由ではあったが、推定で数万年間一度もそういった思考にならなかったスピカが、なぜ今回はアイシスと話したいという考えに至ったのか……。


 そんな風に考えていたアイシスに対し、スピカは微笑みながら告げた。


「アイシスさん、ちょお聞いてもええですか?」

「……うん……なにかな?」

「アイシスさんは、ブルークリスタルフラワーは好きですかね?」


 そう問いかけるスピカの言葉を聞いて、なんとなくの直感ではあるが、アイシスはコレがとても重要な質問であると察した。

 それこそ、アイシスとスピカ……ふたりの今後に大きく関わるほど……だが、明確な正解は分からない。だからこそアイシスは、思うまま己の素直な気持ちを伝えることにした。


「……前は特に特別な思いは無かった……けど……私にとって凄く大切で……幸せな思い出にブルークリスタルフラワーが関わってて……それから……一番好きな花になった」

「そうですか……ふふ、なんや変な気分やなぁ、ブルークリスタルフラワーを好きって言ってもらえるんは、なんか凄く嬉しいですわ」


 アイシスの返答を聞いて、本当に心から嬉しそうに笑ったあとで、スピカはふっと凄く優しい目でアイシスを見つめる。

 そのまま、数秒の沈黙が流れ……スピカは、ポツリと呟くように口を開く。


「……やっぱり、そうやったんやなぁ」

「……うん?」

「ウチはいままで、いろんなところを旅して、いろんな景色を見てきました。気に入らんとすぐ移動した場所もあった、気に入ってなごう留まった場所もあった。けど、なんや……ここは、ちょお、違うんですよ」

「……違う?」

「なんやろ? 説明するんは難しいですけど、いままでの旅で気に入った場所とも違う……なんや、温かくて、『ああ、ここが好きやなぁ』って、そう思える場所なんですよ。そんで、いままでそう感じてはいても、なんでそう感じるんかが分からんかったんです……けど、いま、分かりましたわ」


 そう言ったあとで、スピカは椅子から立ち上がり己の本体であるブルークリスタルフラワーの植えられた鉢植えの前まで移動して、いろんな思いが籠った声で続ける。


「……ほんまは、もっと前から気付いてはいたんやと思います。けど、体や心ではそう思ってても、それを言葉にできんで頭ではまだ分かってへんかったんかもしれません。けど、いまアイシスさんと話して、ようやく確信出来ました」

「……」

「ウチはきっと……ずっと……『この場所に辿り着くために旅を続けていた』んやって……そう、確信できたんですわ」


 スピカはブルークリスタルフラワーの花をそっと撫でながら、ひとりごとのように呟く。


「ああ、そっか……やっとウチは、『根を下ろせる場所』を見つけることができたんやなぁ……」


 その言葉と共にスピカは目を閉じた。長い旅路を思い返しているようなその姿と雰囲気に、アイシスはなにも言わずに静かにスピカの言葉を待ち続ける。

 しばらく目を閉じていたスピカだったが、目を開けると……今度は明るい笑顔を浮かべながらアイシスの方を振り返った。


「……そんなわけで……『アイシス様』……精霊の配下とか、受け入れてもらえたりしますかね?」


 少しおどけるように告げたスピカを見て、アイシスも釣られるように笑顔を零しながら言葉を返す。


「……うん……大歓迎……よろしくね……スピカ」

「はいな~」


 こうして、通称トラベルフラワーとも呼ばれ、世界中を旅していた神秘的な青い花の精霊は、アイシスの元を己が根を下ろす場所と決め……後に死王配下幹部・六連星と呼ばれるようになる存在たちが、アイシスの元に集うこととなった。


 なお、余談ではあるが……前例のない十尾のミスティックシルバーに加え、未確認の伯爵級最上位かつリリウッドに力を分け与えられることなく自力発生した稀有な精霊であり、いまのいままで己もリリウッドも知らなかった存在の発覚を受け、アリスが頭を抱えることになった。


 そうして、やけ食いに付き合わされた快人の財布から白金貨が数枚消えることになるのだった。





シリアス先輩「そっか……アリスが胃痛被害を受けると、アリスの胃じゃなくて、快人の財布にダメージが移し替えられるシステムなのか……」

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ半分カイトのせいだし多少はね?
[一言] カイトの支出、エンゲル係数高そう
[良い点] ?「何!白金貨数枚程度ではダメージにならないですと!……ならばもっと……いやこれ以上迷惑かけて嫌われたら元も子もないし…」
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