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ラッキースケベは無いんじゃなかったのか!?

 マグナウェルさんと別れた後、リリウッドさんと共に氷の大地に踏み込んだ。

 シロさんの祝福があるとは分かっていても、それでも一面銀世界後に突入するのは少々緊張したが……特に寒さを感じる事もなく足を進めれた。

 確かによくよく考えてみれば、これだけ一面氷と雪なら、踏み込む前から寒さを感じていてしかるべきだったので、シロさんの祝福はすでに効果を発揮していた訳だ。


 しばらくそのまま氷の大地を進んでいくと、視線の先に大きな城が見えて来た。

 景色に溶け込むかのような美しい居城……雪の様に白く儚い色合いだが、外観は荘厳でどこか神殿の様な神秘的な印象を感じさせる。

 あれが……アイシスさんの住む城……


『見えてきましたね……っと、おやおや、結局待ち切れずに出てきてしまいましたか』

「……あっ」


 リリウッドさんが呆れながらもどこか嬉しそうな声で告げ、俺も視線を動かすと、氷の城の門が開きアイシスさんの姿が見えた。


「アイシスさん!」

「……ッ!? カイト!」


 アイシスさんを目で確認してから、少し大きめの声で呼びかけながら手を振ると、アイシスさんは花が咲く様な笑顔を浮かべて俺の名を呼ぶ。

 そして直ぐにアイシスさんの待つ門の前まで辿り着き、浮いている木の椅子から降りてアイシスさんに近付く。


 アイシスさんはいつもとは少し違う、薄い青色のゴシックドレスに身を包んでおり、光を受けて微かに輝く真珠の様な白い髪と相まって、まるで雪の妖精かと思える程可愛らしい姿をしていた。

 う~ん。やっぱり、アイシスさんって凄く可愛いよなぁ……やばい、ちょっとドキドキしてきた。


「……カイト……いらっしゃい……来てくれて……嬉しい」

「いえ、こちらこそアイシスさんのお宅に遊びに来れて嬉しいですよ。今回は、お世話になります」

「……うん!」


 アイシスさんは本当に嬉しそうで、頬を微かに赤く染めた殺人的に可愛らしい笑顔で何度も頷く。


「そういえば……『部屋まで借りて』しまって、大丈夫ですか?」

「……うん……カイトなら……いつまででも……居て欲しい……カイトが居てくれると……幸せ」

「あ、ありがとうございます。それじゃあ、三日間お世話になります」

「うん!」


 そう、今回俺は日帰りでは無くアイシスさんの居城に二泊する事になっている。

 初めは日帰りでと思っていたのだが、クロに話を聞いてみると転送ゲートからアイシスさんの城までは距離が結構あるみたいで、日帰りではゆっくりできないだろうと言っていた。

 その事をアイシスさんに話してみると、泊まってくれて良いと提案してくれた。


 最初は流石にそこまでお世話になるのは……と言うか、アイシスさんと二人きりで一つ屋根の下と考えると緊張してしまい、遠慮しようと思ったのだが……アイシスさんの住む地の周囲に宿はおろか村すら存在せず、泊まらないとなると本当にトンボ帰りになってしまう。

 なので最終的に俺が折れる形で二泊三日で訪れる事に決定した。

 確かに昼過ぎに魔界へ来た筈だったが、既に夕方と行っていい時間に差し掛かっているので、その選択は正解だったと思う。

 それにまぁ、リリウッドさんも居るので二人きりと言う訳では……


『それでは、カイトさんも送りましたので、私はそろそろ帰りますね』

「……へ?」

「……うん……リリウッド……ありがとう」

『それでは、カイトさん。またお帰りの際に向かえに来ます』

「え? ちょっ!?」


 えぇぇぇ!? ちょっと待って!? 帰るの? リリウッドさん、もう帰っちゃうの!?

 慌ててリリウッドさんを引き止めようと口を開きかけたが、それより早くリリウッドさんは転移魔法で消えてしまった。

 ちょっと待って……こ、この状況は流石に不味い。


 前にアイシスさんがリリアさんの屋敷に来た時とは状況が違う。

 あの時は部屋の中では二人きりだったが、屋敷内には大勢の人がいた訳だが……アイシスさんの城には、アイシスさん以外誰も住んでいない。

 そなると本当に正真正銘の二人きりな訳で……め、滅茶苦茶緊張してきた!


「……カイト?」

「は、はは、はい!?」

「……大丈夫?」

「だだ、大丈夫です! ちょ、ちょっと、長旅で疲れた感じで……」


 童貞の悲しさか……頭の中に大変失礼な妄想が駆け巡り、思考が混乱していると、いつの間にか近くに居たアイシスさんが顔を覗き込んで来ていて……心臓がとび出るかと思った。

 ごめんなさい、アイシスさん。変な想像して……

 

 心の中で謝りつつ、アイシスさんと一緒に大きな門をくぐり城の中へと入った。


















 城の中は正直、圧巻の一頃だった。

 煌く様に美しい床に、形から何から高級感たっぷりのシャンデリア、柱一つをとっても芸術品の様に美しかった。

 前にクリスさんが住む城にも行った事があるが、それよりもずっと広く美しい……流石は六王の住む城と言ったところか……


「凄く広いですね」

「……うん……でも……使って無い部屋も一杯……」


 そう告げるアイシスさんの横顔は少し寂しげだった。

 考えてみれば、当り前だ……この広い城にはアイシスさんだけしか住んでいない。そうなると広く美しい城も、空虚で物寂しく感じてしまう。


 アイシスさんは、なぜこんな大きな城を建てたのだろう?

 それはもしかしたら、かつて彼女が抱いた夢の欠片なのかもしれない……他の六王達と同じ様に、自分も配下を沢山得て、賑やかな城で暮らすという光景を期待して、大きな城を作ったのかもしれない。


 広い城の中を眺めながら、そんな考えに至った俺は……隣を歩くアイシスさんに笑顔を浮かべながら話しかける。


「俺、こう言う城ってあまり見た事が無いんですよ。良かったら、後で色々案内してくれませんか?」

「……カイト……うん……一杯……案内する」


 俺の告げた言葉。それに込められた意思を感じ取ったのか、アイシスさんは微かに目に涙を浮かべた後、心から嬉しそうに笑う。

 やっぱり、この方には笑顔が一番似合うと思う……少なくとも、俺と一緒に居る時は、寂しさを感じないようにしてあげたいな……


「……そうだ……カイト……さっき……疲れてるって……言ってた」

「え? あ、はい。少しだけ」

「……じゃあ……お風呂……入る?」

「お風呂、ですか?」


 アイシスさんがふと思いついた様子で告げてきた言葉を聞き、俺は首を傾げながら聞き返す。


「……うん……疲れてる時は……お風呂が……一番」

「そ、そうですね……う~ん。では、お言葉に甘えても良いですか?」

「……うん……案内する」

「はい」


 どうやらアイシスさんは長旅で疲れたと告げた俺を心配してくれている様で、風呂に入って疲れを癒してくれと提案してくれた。

 正直先程は慌てていてつい言ってしまっただけだが、気遣いが嬉しかったし、折角の提案なので甘えさせてもらう事にした。

























「ふぅ~」


 しっかりと体を洗ってから湯船に浸かり、大きく息を吐く。


「……まさか、露天風呂とは……びっくりした」


 思わず独り言が零れてしまう程、目の前に広がる光景は衝撃だった。

 大広間位は余裕でありそうな巨大な浴槽は、大きいベランダの様に城から突き出た部分にあり、視線を動かせば銀色の世界と振り落ちてくる雪が見える。

 

 まさか異世界に来て露天風呂に入れるとは思っていなかった……まぁ、アイシスさんに尋ねたら「露天風呂?」と首を傾げていたので、異世界から伝わったのではなく、ただ単純に屋外へ浴槽を作っただけみたいだった。

 まぁ、別に露天風呂という呼び名が有るか否か等は些細な問題であり、今はこの絶景を眺めながら贅沢なひと時を味あわせてもらうとしよう。


 これも魔法を用いているからなのか、周囲の気温は間違いなく氷点下の筈だが、凍える様な風は感じず、むしろ涼しく気持ち良い温度の風が頬を撫でる。

 ちょっとじじ臭くはあるが、極楽だ……


 そんな風に考えながら、ゆっくり体を湯船の中で伸ばしていると……扉が開く音が聞こえた……え?


「……カイト……お湯……熱くない?」

「……は?」


 待て待て待て!? なんで、アイシスさんの声が聞こえてくるんだ!?

 可笑しい可笑しい!? だって、それじゃあ、まるで……


 そ、そうか……『幻聴』か!

 いや~駄目だな、俺って……いくらモテ無いからって、妄想だけじゃなく幻聴まで聞こえ始めたら末期だぞ!

 ひょっとしたら、知らず知らずの内に疲れが溜まっていたせいなのかもしれない……よっし、気のせいだ! 間違いなく気のせいだ! 振り返っても誰も居ない! 誰も……


「……私も……一緒に……入る」

「ッ!?!?!?」


 振り返った俺の視線の先には……先程とは別の意味での極楽が広がっていた。


 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんの家に遊びに来て、早々にお風呂を頂く事になったよ。アイシスさんの家の風呂は露天風呂で、とても素晴らしかったんだけど……この状況は、一体どういう事だろうか? だって、ほら――ラッキースケベは無いんじゃなかったのか!?




















 


快人はドがつく鈍感ですが、流石にアイシスほどアプローチしてくれば気付いており……アイシス相手だと、結構緊張していたりします。


お泊りデートに混浴……だと……


爆ぜろ! 異世充!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ノクターンだったらやばかったぜ…
[一言] ド鈍感…語呂悪っ
[一言] そうだ!他では謎(作者)の力で絶対に主人公が気づくことは無いけど この小説は違うんだ!(๑•̀ㅂ•́)و✧ て事でありがとう(-人-)
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