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六つ目の星①



 アイシスと配下、そして快人を加えて夕食を楽しんだあと、アイシスはふと居城の中でよく景色の見える部屋にやってきた。

 ブルークリスタルフラワーの鉢植えが置いてある窓から、ぼんやりと景色を眺める。いまは夜と言っていい時間ではあるが、居城の明かりと魔力で強化された視力であれば問題なく景色を見ることができた。


 アイシスは、ここから見える景色が――嫌いだった。


 生物が住まない死の大地、雪と氷に閉ざされた地で自分ひとりしか住んでいない城から見る景色は、彼女にとって孤独を募らせる要因でしかなかった。

 冷え切った己の心のような死の大地の景色が、どうしようもなく嫌いだった。


 だが、いつからかその思いは変化していた。彼女が運命に……最愛の存在に巡り合った日には、いつもより窓から見える景色が輝いていたように感じられた。

 なにか根拠や理由があったわけではない。ただあの時、快人がアイシスの手を取ったあの瞬間、凍りついていたなにかが動いた気がした。

 これからなにかが変わっていくような、そんな直感を抱いた。そして、その直感は正しく、快人との出会いが彼女のすべてを好転させた。


 たったひとつだけを残して諦めたはずの夢が、もう叶うことはあり得ないと切り捨てていた思いが……たったひとつ、絶望と孤独の中でもどうしても諦めることができなかった願いが叶うと、それに連動して動き出した。

 長らく忘れていたはずの笑顔が自然と零れるようになった。ひとりぼっちだったはずの居城に、ひとつ、またひとつと住人が現れ始めた。


 気づけば、死の大地に立つこの居城は、彼女にとって――孤独ではなく温もりを感じる場所へと変化していた。


 そして、かつては嫌いだったはずのこの居城からの景色も、いつの間にか……。


「……いつのまにか……ここから見える景色が……好きになった」


 それはポツリと零れた本心からの言葉であり、なによりアイシス自身の変化を示すような言葉だった。だからこそ、だろう……大きく成長し変化した彼女の言葉は『六つ目の星を呼び起こした』。


「……ウチも、ここから見える景色が好きですわ」

「ッ!?」


 突如聞こえてきた声にアイシスが驚きながら視線を向けると、いつの間にか部屋にあるもうひとつの窓の前に立ち、アイシスに微笑みかけている女性の姿があった。

 少し青味の入った長い銀髪、チェニック風の上品なドレス、ブルークリスタルフラワーの髪飾りといった姿からの印象。


 そして、アイシスでさえいままで存在を感じ取れなかったという点。転移で現れたなら確実に気付く、そうでないということは元々部屋の中に居たということを考えれば、女性が何者なのか予想することができた。


「……貴女は……もしかして……ブルークリスタルフラワーの……精霊?」

「はいな~。初めまして、アイシスさん。ウチの名前はスピカ……お察しの通り精霊です。いや、アイシスさんに連れてきてもらった時からおったんやけど、なんやえろう挨拶が遅くなってしもうて、申し訳ないです」


 十中八九精霊であると思いつつも、問いかけは半信半疑であったし、スピカの返答を聞いて率直に言ってアイシスは驚愕した。

 アイシスは精霊たちの王と言っていい存在であるリリウッドとは非常に仲が良く、精霊に関する話をすることも多いので、精霊に関わる知識は深い。


 だからこそ、驚いた。ブルークリスタルフラワーは精霊が宿らない花だと思っていたし、数多の精霊を見てきたリリウッドもそう言っていた。

 だが現にいま、彼女の目の前にはブルークリスタルフラワーの精霊が存在しており、纏う魔力から相当古くから存在する精霊であることが理解できた。


 しかし、それだけ古い精霊にも関わらず、いままでブルークリスタルフラワーの精霊の話を聞かず、リリウッドもそれを知らなかったということを考えると……目の前の精霊は、スピカは……いままで一度も精霊としての姿で活動したことはなかったのではないかと推測できた。

 そして、それは推定で数万年という年月……それほどの年月表に出てこなかった精霊が、なぜいま己の目の前に姿を現したのか、アイシスにはソレがよく分からなかった。


 そんなアイシスの疑問を知ってか知らずか、スピカはすっと視線を窓の外に向けながら噛みしめるように呟いた。


「……なんや……いままで、一度もそんなこと思うたことなかったんですけど……不思議なもんですわ。どうしてか、ウチ自身にも分からへんのですけど……貴女と話してみたいって、そう思ったんですよ」

「……私と?」

「はいな。なので、ちょおいきなりで申し訳ないとは思うんですが、少しお話させてもろうてもよろしいでしょうか?」


 そう言って穏やかに微笑むスピカを見て……アイシスも、表情を緩めて微笑みを浮かべながら頷いた。





シリアス先輩「おっ、スピカがついに出てきた。しかし、これってアリスは頭抱えそうだよな。前例のない十尾のミスティックシルバーが現れたかと思ったら、次は誰も知らなかった伯爵級最上位レベルの精霊がいきなり現れるとか……あれ? アリスも胃痛キャラに?」

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― 新着の感想 ―
[一言] リリウッドさんがアリスに親近感抱きそう
[一言] シリアス先輩がシリアスっぽい場面で起きてる!よかった!
[良い点] まさか、ここでスピカ登場とは・・・ウルペクラの続きと思ってたから不意打ちくらったけど純粋に嬉しい! [一言] アリスちゃん「とんでもない狐が現れて頭痛くなっていたところに、存在の確認されて…
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