教主の誘い④
他愛のない雑談をしながらお茶を続けていると、ふとオリビアさんが思いついたように口を開いた。
「ミヤマカイト様、再び質問をお許しください。ミヤマカイト様は、夕食はどうなさるんですか?」
結婚披露パーティは昼だったので、たしかに夕食はまだ食べていない。とはいえ、長めにパーティが続いていて、軽食等もあったのでそこまで空腹というわけではない。
時間的にもまだ夕食にはやや早い。普通に家に帰って食べようと思っていたが……外で食べて帰るのもありかもしれない。
「家に戻って食べるつもりでしたけど、外で食べて帰るのもいいですね。香織さんの店もあるので、そこで食べるのもいいかなぁと、いまは思ってます」
「でしたら……ミヤマカイト様さえよろしければ、同行をお許しいただけませんか?」
「いいですよ。じゃあ、一緒に行きましょうか? とはいえ、まだそこまでお腹は空いていないので、もう少したってからがいいですが……」
昼間はお洒落なコース料理だったし、定食が恋しくもあるというか、一度考えると香織さんの店に行きたいという気持ちがかなり強くなったので、心の中ではほぼ確定といった状態である。
「はい。かしこまりました。それまでに関しても、なにかご要望があれば……」
「あっ、それならちょっと大聖堂を見てみたいです。前に来たときは、オリビアさんの部屋に直行して、その後は外に出たので、あまり見て回れてないですし……」
「なるほど……それでは、僭越ながら私がご案内いたします」
「ありがとうございます。じゃあ、このお茶を飲み切ったら行きましょう」
大聖堂はかなり大きいし、祈りの間しかないとかそんなこともないだろう。いろんな行事に使用されることもあるみたいで部屋数も多く、香織さんの話だと観光場所としても有名らしいので、なかなかいい考えだと思う。
そういえば余談ではあるが、この世界の宗教はほぼ統一されているというか……実質神教が唯一といっても過言ではない。
まぁ、これに関しては実際に神が存在するわけだから必然ではある。ちなみにこの神教、あまり戒律などは厳しくなく、結構自由な部分が多いらしい。
厳守しなければならないのはひとつだけ、シロさんに対して最大の信仰を捧げることのみであり、シロさんを一番に信仰してさえ居れば、ほかの神族の誰を何人信仰しても問題ない。
信仰する神によって多少派閥みたいなものはあるらしいが、対立していたりするわけでもなく、なんなら複数の派閥に同時に所属している神官も多いとのことだ。
経典なども存在自体はするらしいが、行動を制限する類の者は殆ど存在しない。例と挙げると、フィーア先生が言っていたように、婚姻に関する制限なども存在しない。
食の制限などもないし、俺が想像している宗教とはまた少し毛色が違う感じではある。イメージとしては、神界に仕える下部組織のような存在という感じだ。
「そういえば、オリビアさんの教主としての仕事ってなにをしてるんですか?」
「私の場合は、都市代表としての仕事の割合が多く、教主としての仕事というのは少ないです。年に一度の大集会を取り仕切ったり、新年の折には大聖堂での祈りを取り仕切ることもありますが……ほぼそれぐらいですね。勇者祭のある年なら仕事は多いですが、無い年は手持無沙汰な時間が多いです。以前はそういった時間は祈りに使っていましたが、いまは様々なことを学ぶ時間を取るようになりました」
「なるほど……大集会というのは?」
「年に一度、世界各地の司祭以上の地位を持つ者が大聖堂に集まり、経典等の再確認を行う……一種の会議のようなものです」
下級神は人界各地に神殿を構えており、そこに働く神官などはほぼ神教に属する者だ。そう考えると、やはり流石は統一宗教というべきか、かなりの数の人が所属しているのだろと思う。
司祭以上に限定したとしても、相当の数が集まりそうだ一大イベントという雰囲気を感じる。
「もし、お望みでしたらご招待することも出来ますが……ミヤマカイト様からのお言葉を賜れるなら、皆喜ぶかと思いますが……」
「え? い、いやぁ、流石にそれは……遠慮しておきます」
「そうですか、かしこまりました」
さすがにそれは、いくらキラキラした目で見つめられようと首を縦に振るわけにはいかない。いまでさえ、とんでもない評価を受けてしまってるのに、その上統一宗教の大集会なんて場面でトップに敬われたりしたら、もうたまったものではない。
リリアさんではないが、想像しただけで……胃が痛くなりそうだ。
~おまけ~
※なぜか、最近物語の終わりについて質問されることが度々あるので、おまけとして設定をまとめておきます。
※11/10追記、質問で貰った文をイマイチ分からないまま引用していましたが、一般的には使わない単語とメッセージをいただいたので一部修正。
最後の物語に関しては、あくまで物語の終わりに付随する一要素としています
『物語の終わり』
【使用者】
シャローヴァナル
※厳密にいえば、シャローヴァナルは後発的に偶然芽生えた意思のような存在なので、物語の終わりが本体ともいえる
【範囲】
一切の制限なし、それこそ『全てを終わらせる』ことも出来れば、ごく一部の現象にのみ絞ることも出来る
【発動】
基本的にシャローヴァナルが任意で行っているが、物語の終わり事態にも意思のようなものが存在するためシャローヴァナルになにかあっても自動で発動する
【詳細】
シャローヴァナルが持つ全てを終わらせる力であり、能力を比較するという領域にない完全なる論外。
全知全能の存在を『全知全能の存在として終わらせる』。全知全能を越えた存在を『全知全能を越えた存在として終わらせる』。物語の終わりが効かない相手を『物語の終わりが効かない相手として終わらせる』。物語の終わりに対応できる能力を持った相手を『物語の終わりに対応できる能力を持った相手として終わらせる』。
術者であるシャローヴァナルを殺害したり、封印したりしても意味が無く、それぞれ、シャローヴァナルを殺害した存在、シャローヴァナルを封印した存在として終わりを迎える。
表現するならその力は『必ずあらゆる条件の一番最後に付く後出し』のような力であり、いかな対策も、能力も一切意味をなさない。
どう、抗ったとしても『〇〇として終わりを迎えた』となるため、対抗策は存在しない。
極端な話ではあるが、仮に『想像しうる限り最強』が居たとしても、物語の終わりにとっては『そういう設定が書かれた本ないし紙』でしかなく、なんの意味もない。
シャローヴァナルは個ないし世界という規模に対して行使することが多かったが、物語の終わりに限界というものは存在せず、対象とする規模や範囲、距離にも一切の制限はない。
終わらせる相手を認識している必要もないし、場所や次元も距離も関係なく終わりを与えることができる。
物語の終わりはいわば全ての物語を終わらせるという現象であり、偶発的にその現象に意識が生まれたというのがシャローヴァナル。
物語の終わりは、すべての終端に位置する力であるため、物語の終わり……もといシャローヴァナル自体が『最後の物語』であり、己以外の全ての物語を終わらせた先でしか、シャローヴァナルに終わりは訪れない。
事実上何者も抗えず、何者もシャローヴァナルを滅することはできないといえる。
正直に言ってしまえば、作者も倒し方は思い付かない。というか倒せる存在として考えてないので倒し方が存在しない。なによりも『必ず一番最後に付く後出し』というのが、文字通り能力を比較する領域に無い論外過ぎてどうしようもない。
バトルものであれば許されないレベルの、対応も対策も不可能な能力なのだが……幸い、当作品はバトルものでは無く、この力を持つシャローヴァナルを倒す必要もないし、物語の終わりを防ぐ方法を見つけなければ~みたいなこともこれまでもこの先もない。世界は平和である。




