教主の誘い③
ほうじ茶を一口飲んでクッキーを食べる。紅茶も好きだが、日本茶もいい……やはりなんか、日本人としてはホッと落ち着くような感じがある。
オリビアさんのお茶を淹れる腕がいいのもあるのだろうが、ほうじ茶の味わいが舌に心地いい。
「……そういえば、オリビアさん。実際に、結婚式の進行をやってみて、どうでした?」
「そうですね、やはり知識として知っていることと実際に行うことでは差がありました。手順は頭に入っていましたが、タイミングなどは場の空気もあり書物の知識だけでは推し量れませんでした」
「あ~たしかに、特に場の空気とかって実際に行ってみないと分からない部分がありますよね」
「ええ、しかし、大司祭の指導が的確だったおかげで問題なく進行することができました」
そこで一度言葉を区切り、オリビアさんはほうじ茶を飲んで一息つく。そして、少し考えるような表情を浮かべたあとで口を開いた。
「……やはり、ミヤマカイト様の言う通り実際に体験してみるというのは、大きいと感じました。経験を積めたというべきでしょうか、小さくとも確実に成長できた実感があります」
「それはすごくいいことだと思いますけど、オリビアさんはなんというか、頑張り過ぎてしまわないか心配になる部分がありますね……いまみたいに、ホッと一息つくような時間も必要だと思います」
「なるほど、勉強になります」
「俺も話し相手ぐらいにはなれるでしょうし、声をかけてくれたらいつでも付き合いますよ?」
「ッ!?」
俺の言葉を聞いたオリビアさんは、急にガタッと勢いよく立ち上がった。表情は驚いたような、戸惑ったような、そんな感情が混ざった表情だ。
あ~オリビアさんは、俺に対してかなり畏まってるし、逆に恐縮してしまうとかだろうか?
「俺相手だと変に恐縮して気が休まらないかも……」
「そ、そのようなことはありません!!」
「うぉっ!?」
「あっ、し、失礼しました」
今日一……いや、過去一の大声だった。オリビアさんがあんな大きな声を出すのは予想外で、かなり驚いた。
「ミヤマカイト様とお話させていただく時間は、私にとって何物にも代えがたいものです。た、ただ、不思議と時折思考に雑念が混じってしまうのですが、決して不快というわけではなくむしろ幸せといいますか……と、ともかく、今後もこうしてミヤマカイト様とお話させていただくような機会をいただけるのであれば、この身に余る光栄です」
「そ、そうですか……そこまで言ってもらえると、こちらとしても嬉しいですね。じゃあ、ぜひまたお茶しましょうね」
「はい!」
何気にオリビアさんがコレだけ自己主張できるのも、以前と比べたら大きな成長かもしれない。少なくとも俺と一緒にいる時間を楽しく感じてはくれているみたいなので、そこは本当によかった。
オリビアさん相手だと、強引に行かざるを得ない場面もあるので委縮させてないか少し心配だった。
そんなことを考えていると、オリビアさんは少し迷うような表情を浮かべチラチラと俺に視線を動かす。なんとなくではあるが、なにか言いたいことがあるが遠慮してしまっているような気がした。
「オリビアさん? なにかあるなら、遠慮せずに行ってください」
「……で、では、大変無礼かもしれませんが、質問をお許しください」
「質問? ええ、俺に答えられるものならば……」
「ミヤマカイト様の好みを教えていただきたいのです」
「好み?」
……なんの好み? オリビアさんのことだから、女性のタイプとかそんな話じゃないのは間違いない。
「……えっと、好みと言ってもいろいろあると思うんですが、なんの好みを?」
「失礼しました。茶菓子の好みを伺いたいのです。今日のような機会の折に、お出しできたらと……」
「なるほど……」
あれ? これ、いい流れなんじゃない? この流れなら、オリビアさんを傷つけたりすることなく自然と和菓子を紹介できる。
「今回はクッキーが食べたかったんですが、日本茶だと和菓子も凄く合うので好きですね」
「和菓子……聞いたことはあります。茶について書かれた書物に記載がありましたが、そちらの学習まではまだ手が回っていませんでした」
「えっと、こんな感じのやつです」
マジックボックスから何種類かの和菓子を取り出してテーブルの上に置く。ちなみに、この和菓子類はノインさんに教えてもらった店で買ったものだ。
過去の勇者役が開いて、その後代々受け継がれている和菓子屋ということで、かなり本格的な和菓子が多く置いてある。
「華やかな菓子ですね……香りは、あまり強くないですね」
「よかったら食べてみてください」
「では、失礼して……上品な味わいですね。饅頭などの餡……いえ、少々舌ざわりなどが違いますね。微量な果実……香りづけでしょうか、一部色が違いますが、味に違いはない……なるほど……」
なんか、すごく食通みたいな感じで吟味していらっしゃる。そういえば、香織さんが、オリビアさんは味噌汁の微妙な味の違いにもすぐ気付くと言っていたので、味覚はかなり鋭敏なのかもしれない。
真剣な表情で本当に少しずつ和菓子を食べながら呟くオリビアさんは、すごく真面目な姿がなんともらしいかんじで、少し微笑ましく感じた。
シリアス先輩「白餡は初めて食べたとか、そんな感じっぽいな……和風の食生活にどんどん順応していく見た目聖女……ある意味ギャップなのか?」




