結婚式参加⑫
結婚披露パーティも終わり、招待客を見送ったあとで会場の奥に用意されていた部屋。そこには、今日結婚式を挙げた正義とカトレアがおり、パーティの疲れを癒すため一休みしていた。
ソファーに座って見るからに疲労した様子の正義は、吐き出すように口を開く。
「はぁぁ……つ、疲れた。挨拶って、あんなにかかるものなの?」
「いえ、今回は特別ですね。普通はもっと、簡素な祝いの言葉だけで終わるものなのですが……祝いの言葉だけじゃなく雑談を交えて、出来るだけ印象に残ろうとしている貴族が多かったですね。結果としてひとりひとりの時間が伸びて、長くなりましたね」
「どう? 問題なく対応できてた?」
「……疲れを表に出さずに最後まで対応しきったのは評価できますが、会話の柔軟性は足りていませんね。知識はまずまずでしたが、話す相手に合わせて切り替えた上で、会話をコントロールできるようになるべきですね。まぁ、総合して……ギリギリ及第点といったところでしょうか」
「き、厳しい……」
「ふふ、まぁ、貴族になって2年なら上等ですけどね」
カトレアの評価に大袈裟に肩を落とす正義だが、カトレアの表情は柔らかく、ギリギリ及第点と言いつつも満足しているようにも見えた。
少なくとも、最低限カトレアが期待していただけの能力は発揮できたかと思えるその反応を見て、正義は軽く笑みをこぼす。
「……けど、宮間さんはやっぱり凄いというか、全然予想通りにはならなかったね」
「本当にとてつもない方ですね。望んだ展開だったとはいえ、教主様に婚姻を取り仕切ってもらえて、さらには創造神シャローヴァナル様からブーケを下賜されるなど……完全に予想の範疇外です」
「ただ、悪いわけじゃないんだよね?」
「もちろん! むしろ、期待以上と言っていいです。今回の件で当家と結びつきを望む者は非常に多いでしょうし、それだけでなく創造神様が作ったブーケが、時の女神様のお力で保管されている教会という、世界中から結婚式を挙げたいと希望が殺到するであろうものまで……これといった強みが無かったうちの領が、一日で世界中の噂になったわけですからね。経済効果も計り知れないでしょう」
実際既に式を挙げる際に今日の教会を利用したいというような話も複数届いており、今後貴族を中心に話題が広がるにつれ、そういった希望は爆発的に増えるだろう。
良くも悪くも強みの少ない平凡な子爵領が、僅か一日で世界規模の注目を集めるようになったと考えれば、快人の影響力の凄まじさを再確認できる。
「式場とか、パーティ会場とか、多目に予算を割いて回収した方がいいかもしれないね」
「是非するべきでしょうね。今後は、あの教会を押し出していく形でいいと思いますが、観光的な場として開放するか否かは、しっかりと健闘してからにするべきでしょうね」
「なるほど……けど、まぁ、カティにとっては望んだ以上の、一番嬉しい結果なわけだし、もろもろは追々考えるとして、いまは喜んでおくのがいいと思うよ」
「……はぁ」
「え? なんでため息?」
微笑みながら告げた正義の言葉に、カトレアはどこか呆れた様子でため息を吐いた。その理由が分からず戸惑った表情を浮かべる正義の隣に座りながら、カトレアは告げる。
「二番です」
「うん?」
「私にとって今日一番嬉しかったのは、セイギと式を挙げて名実ともに夫婦になれたことです。それに関しては、勘違いしてもらっては困ります」
「……カティ」
たしかに、貴族として元王女として社交的な部分や今後の領の運営なども含め、いろいろなことを考えてはいた。
しかし、ふたりの結婚は政略結婚などではなく、紛うことなき恋愛結婚だ。性格上あまりそれを表に出したりすることはないが、カトレアも愛する相手と結婚式を挙げられたことを心から嬉しく思っているし、幸せに感じていた。
カトレアは優し気な微笑みを浮かべつつ、正義の頬に軽く手を当てながら言葉を続ける。
「出会ったばかりの頃は、頼りないだとか情けないだとか、いろいろなことを言いましたが……いまは、こう見えても頼りにしてるんですよ、セイギ。まぁ、まだまだ、立ち上げたばかりの貴族家なのですし、今回の件で苦労も多いでしょうが、一緒に頑張りましょうね……『旦那様』」
「……うん。カティの期待に応えられるよう、まだまだ頑張るから、これからも指導をよろしくね」
「ふふ、知っての通り私は厳しいですから、覚悟してくださいね」
「ははは、お手柔らかに……」
厳しいという言葉とは裏腹に、カトレアの声は非常に優しく確かな愛情が込められており、それにくすぐったさを感じつつも正義は幸せをかみしめた。
そのまま、ふたりの顔が近づき……照明魔法具に照らされたふたりの影が重なった。
シリアス先輩「な、なにぃぃ、このふたりがいちゃつく展開とは……し、しかし、不遇キャラ筆頭の正義さんとあっては、文句も言えない……」
???「ひと段落したんで、次の出番はまた5年後っすね」
シリアス先輩「やめたげてよぉ!!」




