結婚式参加⑪
結婚披露パーティが始まったわけだが、当たり前ではあるが大きなトラブルもない。豪華なコース料理が運ばれてきて、それを順に食べつつ主役のふたりや来賓のスピーチを聞いたりする感じだ。
なんとなくイメージしていた通りの結婚披露パーティという印象である。
「そういえば、この世界ではケーキへの入刀とかってあるんですか?」
「形式次第ですが、あります。今回の形式はケーキの入刀もありますね」
「今回はミツナガ様の出身に合わせたのか、ヨハン式ですしね」
「……ヨハン式?」
陽菜ちゃんの質問に、リリアさんとルナさんが答えるが、その際に口にしたヨハン式という聞きなれない言葉に陽菜ちゃんは首を傾げる。
すると、リリアさんたちではなくクリスさんがその疑問に答えてくれた。
「400年ほど前に、当時のアルクレシア帝国の皇帝が勇者役より聞いた異世界の結婚式の分化、特にウェディングケーキに夫婦で入刀することに感銘を受け、自身の式で行ったことで広くその文化が広まることになりました。そして以後、ケーキ入刀を行う形式を当時の皇帝の名からとってヨハン式と呼ぶようになったんですよ」
「なるほど……」
そういうのって、なんか面白いな。実際この世界には1000年という期間で、様々な異世界の分化が伝わり浸透している。
中にはWANAGEのように間違った感じで伝わっているものもあるが……こうして、経緯を聞くと伝わり方にもいろいろあるのだと、そう思える。
そんな感じで雑談を交えつつ楽しく過ごしていると、先ほど話題に上がったケーキへの入刀が行われた。そしてその後は歓談をメインとした時間に切り替わり、席の移動などを自由に行えるようになるとのことだ。
リリアさん、ラグナさん、クリスさん、ライズさんの四人はいろいろ挨拶をしておく相手が居るため、少し席を外した。
ルナさんとジークさんを残してくれたのは、俺たちに配慮してのことだろう。
しかし、歓談の時間とはいえ俺や葵ちゃんや陽菜ちゃんは動きづらい。光永くんのところに声をかけに行こうにも、あちらは主役ということもあって結構な挨拶の列ができているので難しい。
ただ俺たちの席に誰かが挨拶にきたりという状況も無い……おそらくというか、間違いなくエデンさんが原因ではあるが、ありがたい反面どうしたものかという気持ちもある。
そう思っていると、こちらの席に向かって歩いてくる人物が見えた。中世的な顔立ちの方で、パッと見ただけでは男性か女性か分からない。
着ているのは男性用の礼服っぽいので、男性かな? 薄緑色の髪をオールバックにまとめてた整った顔立ちの方で、深い琥珀色の目はどこか知的な雰囲気を醸し出していた。
その人物は、俺の前まで来ると美しさを感じる動作で頭を下げた。
「ご無沙汰しております、ミヤマ様」
「……え? えっと……あっ、もしかして……」
一瞬誰だろうと思ったのだが、直後になんとなくではあるがこの人が知り合いであることが分かった。ただ依然あった時とは姿が変わっており、すぐには気付けなかった。
ただ、反射的に名前を呼び掛けたが、姿を変えていることを考えると呼ばない方がいいのかと思い、どう呼ぶべきか躊躇して言葉が止まる。
すると目の前の人物は俺がなにを考えているのか察したのか、スッと俺の耳元に顔を近づけて小声で告げる。
「この姿の際は、エルシオンと名乗っております。シオンとお呼びいただければ大丈夫です」
「あっ、そうなんですね。わかりました……改めてお久しぶりです。いらしてたんですね」
「ええ、いちおうシンフォニア王国ではそれなりの立場を持っていますので、今回も招待されました。できればもっと早く挨拶に伺うべきとは思っていたのですが、遅くなって申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず……あっ、前に特別依頼の件でお世話になりました」
「お役に立てたようでしたら、幸いです」
やはり思った通りシオンさんは、姿を変えているカタストロさんだった。そういえば、シンフォニア王国の冒険者ギルドのギルドマスターという話だったし、こういった場に招待されていてもおかしくない。
「そういえば、手袋はしてないんですね?」
「いえ、着けていますよ。普通の手に見えるようにしていますが……ものがものだけに、見る者が見れば分かってしまいますからね」
「なるほど……えっと……素敵な服ですね」
あんまりカタストロさんとは会話をしたことが無いので、どういった方かというのは測りかねている。極貧生活を送っているイメージがあったのだが、綺麗で高そうな服を着ていたりするので、やはり手袋を渡した影響で金銭にも余裕が……。
「分かりますか? 特注で作らせたものです。場か場なので、値段は控えめにしていますが……代わりに、こちらのイヤリングは、高価なものを用意しました。おかげで今月は『今日が初めての食事』になりましたが……」
「……」
いや……月の半ばなんだけど……半月も絶食してたのかこの人。魔族の中には食事が必要でなく、嗜好の範囲の方も居るが……以前のやり取りを考えるに、カタストロさんは食事が必要な方のはずだ。
けど、おかしいな? 確か、腐敗に強い手袋を頻繁に買い替える必要があって貧乏だった気がするんだけど……。
「……えっと、手袋代はかからなくなったんですよね?」
「はい。ミヤマ様のおかげです。そのおかげで『アクセサリーや美容』に回せる金額が増えたので、心より感謝しております」
いや、食事代に回せよ!?
「……えと、美容というなら食事に回したほうがいいのでは?」
「ああ、いえ、私は厳密には食事が必須というわけではないのです。身体の維持は魔力があれば問題ないのですが……空腹は感じるのですよ。おそらく元々は食事が必須で、高位魔族になる過程で不要になった影響……名残でしょうね。なので空腹は単に辛いだけなので、問題は有りません」
いや、辛いって言ってるじゃねぇか!? 完全に問題あるよね?
「シオンさん的には、それでいいんですか?」
「私の美貌をより高めるために必須なのであれば考慮しましたが、必須でない以上後回しですね。姿を変えていて、この場ではお見せ出来ないのが残念です。このイヤリングに映えるように化粧も数千種類の最高級品の中から最も相性のいいものを合わせたのですが……本当に、この美貌をお見せ出来ないのが悔やまれます」
「……」
そういえば、なんかアリスが……カタストロさんは、ナルシストだとかそんな感じのことを言ってたような覚えがあるが、どうやら事実みたいだ。
正直、その、なんてリアクションしていいのか……困る。
シリアス先輩「……幻王配下って、こんなんばっか……」
???「くされ変態集団共っすからね」
シリアス先輩「お前の配下だろうか!?」




