結婚式参加⑩
さて、この結婚披露パーティは流石貴族の結婚とあって会場も広くテーブルも大きい。俺の名前が書かれた札が置いてあるのも十人掛けの大きな円形のテーブルだ。
俺、葵ちゃん、陽菜ちゃん、リリアさん、ジークさん、ルナさん、オリビアさんで7人……となると、3席余るのだが、席数には余裕があるのか空いてる席に札は無かった。
……無かった……のだが、現在その空席のはずの場所に三人の人物が座っており、俺はそちらに視線を向けつつ口を開いた。
「……なんで、皆さんが揃って座ってるんですか?」
「うん? ああ、対外的な問題もあるのじゃ」
「こうして我々が同じテーブルに固まっていることで、三国間が友好であることを示しているというわけですね」
「実際魔界や神界も関わる行事だと、人界三国で一括りにされる機会も多いしね」
俺の言葉に、ラグナさん、クリスさん、ライズさんが回答するが……そう言うことではない。
「いや、一緒に座っている理由じゃなくて、このテーブルに居る理由を聞きたかったんですが……」
「それに関してはアレじゃ。さっきのブーケの件もあるし、正直カイトが目の届く場所に居ないのが恐ろしいという意味合いが強いのぅ。いや、近くに居ったとて阻止できるものではないが、それでも前兆が感じ取れるだけまだ心臓に優しいというわけじゃ」
「……分かります」
苦笑しながら『お前を放置しておくとなにしでかすか分からない』という意味合いの言葉を告げるラグナさんに対し、リリアさんが深く頷く。
これまでの経験に裏打ちされたその頷きには、言いようのない重みがあったので……正直それ以上文句も言えずに、俺は大人しく席に座った。
するとそれを待っていたかのように、ラグナさんが俺に話しかけてくる。
「して、カイトよ。聞きたいことがあるんじゃが……ハーモニックシンフォニーの打ち上げの茶会で、ジュティア様がお主に土下座していたという噂があるのじゃが、なんぞ揉めることでもあったのか?」
「え? ああ、いえ、違いますよ! 揉めたとかじゃなくて、紅茶の茶葉が欲しいって頼み込まれてただけです」
ラグナさんの言葉を聞いて思い浮かぶのはお茶会でジュティアさんがネピュラの紅茶欲しがった際のやり取り……確かに、傍目に見ればなにかトラブルがあってジュティアさんが謝罪しているようにも見えるかもしれない。
ここはジュティアさんの名誉のためにも、揉めたわけではないと強く否定しておく。
「ふむ、なるほど……謝罪ではなく、懇願とういわけか。ふむ、紅茶の茶葉……ライズ坊、たしかジュティア様は紅茶好きで有名じゃったな?」
「ええ、魔界産の有名な茶葉の多くに携わっていますし、大規模な畑も有している大の紅茶好きと聞きますね」
「そのジュティア様が、土下座してまで求める茶葉?」
ジュティアさんが紅茶好きというのは知っていたが、いろんな茶葉に関わったり紅茶畑を持っていたりする程とは思わなかった。
紅茶界……という言い方は変かもしれないが、その界隈ではかなりの権威を持つ存在なのかもしれない。
そしてネピュラの紅茶に関しては、基本身内やアインさんたちのような仲のいい紅茶好きに披露したぐらいなので、ラグナさんが知らないのは無理もない。
「その茶葉というのは、オーキッドが話していた茶葉のことかな? オーキッドが大絶賛していたのが、記憶に新しいが……」
「ええ、その茶葉です」
「ああ、あの茶葉であればジュティア様が求めるのも頷けますね」
「ぬっ、ワシだけ知らんのか?」
以前オーキッドとお茶をした時に出したので、ライズさんはオーキッド経由で知っており、クリスさんとは普段から手紙のやりとりをしており、その際に教えたので知っている。
ふたりが知っていて自分だけ知らないというのが少し悔しかったのか、ラグナさんは少し微妙な表情を浮かべていた。
「ミヤマ様の家にある世界樹の精霊が作った茶葉で、とても素晴らしい品ですよ。私も多くの紅茶を飲みましたが、過去最高と言っていい味でした」
「うん? クリス嬢は、その紅茶を飲んだことがあるのか?」
「ええ、私は普段からミヤマ様と定期的に手紙のやりとりをしていまして、紹介と共にありがたくもいくらか分けていただきました。扱いが非常に難しい茶葉で、メイド長しか扱うことはできませんでしたが、非常に素晴らしい味わいでしたよ」
「ほほぅ……興味はあるな……」
「よかったら、ラグナさんもいります?」
「う~ん、じゃが、ワシはあんまり紅茶を飲まんのじゃよ……変に他に知られても騒ぎになりそうじゃし……また、カイトの家に行く機会があった時にでも飲ませてくれ」
「分かりました」
そういえば、ラグナさんは緑茶とかの日本茶を好んでいた気がする。煎餅が好きとも言っていたし……ノインさんの影響が大きそうな感じだ。
実際、ハイドラ王国では日本茶の茶葉も栽培していたりするらしいし、機会があれば飲んでみたいものだ。
「しかし、クリス嬢はカイトと手紙のやりとりをしておるのか……」
「ええ、日々楽しく交流を持たせてもらっております? ラグナ陛下もやってみてはいかがでしょうか?」
「ぐぬっ……分かって言っておろう。手紙は苦手なんじゃ……というか、そもそもマーメイド族は海中で過ごすことが多い種族じゃし、紙を扱うのは苦手じゃから、仕方ないのぅ」
「いや、マーメイド族が紙を扱うのが苦手なんて初めて聞きましたが? というか、ラグナ陛下は王宮住まいなので、陸上で生活してるじゃないですか……」
「……黙れ、ライズ坊」
どうも、マーメイド族が……ではなく、単にラグナさんが手紙を書くのが苦手なだけっぽい。
シリアス先輩「快人を放置すると、またなんかやらかすであろうという各国の王からの厚い信頼」




