結婚式参加⑧
虚空に消えたブーケと、唖然として固まる参列者たちと光永くんにカトレアさん……シロさん、なんてことしてくれたんですか……。
(うん? 現地には行っていません。行くと騒ぎになるということだったので)
たしかに来てないですけど! 嘘はついてないですけども!! ちょっとなんかフォロー入れてくれないと、いまなにが起こったか皆分かってないですからね。
単なる異常事態が発生した感じになっていますから……。
(なるほど、分かりました)
……なにがどう分かったんだろうか? そこはかとなく不安な感じが……。
そう思っていると、戸惑う光永くんとカトレアさんのすぐ前に突如クロノアさんが出現した。
「時の女神様!?」
「皆、そのままの体勢で聞け、シャローヴァナル様のお言葉を伝える」
……ああ、シロさんは現地に来ないって言ったから、クロノアさんを代理で来させたわけか……クロノアさんがなんとも哀れではあるが、本当に即座に現れるのは流石である。
「……ブーケに関しては、シャローヴァナル様が貰うとのことだ」
「シャ、シャローヴァナル様が!? か、かしこまりました」
当たり前ではあるが、文句のつけようのない相手である。シロさんがよく私がルールと言っているのはマジなのだ。
むしろ、クロノアさんが出てきてること自体が異常……それに関しては俺がお願いしたからだろうけど、まぁ、とりあえずはシロさんが受け取ったんなら話は終わり……。
「そして、代わりのブーケを用意したので、改めてこちらを投げればいいとのことだ」
「……え? いえ、あの、投げれません……」
なんで、余計なフォロー入れちゃうかなぁ……クロノアさんが差し出してきたのは、シロさんが作ったブーケである。
神域の花とかは使われておらず、先ほどカトレアさんが投げたものと見た目も含めまったく一緒ではある。
しかし、そこに『シロさんが作った』という文字が加わってしまうと、それはとてつもない品に変貌してしまう。具体的に言えば、あんなもの投げたらマジで殺し合いになるんじゃないかというほど、周囲の雰囲気がやばい感じである。
「……で、あろうな」
まぁ、ソレに関してはクロノアさんも分かっているみたいで、若干気の毒そうな表情を浮かべたあとで静かに告げる。
「そこで提案だが、そのブーケは本日の記念ということで、この教会に保管するというのはどうだ? 我が時の権能によって状態保存をかける」
「な、なるほど、しかし、よろしいのでしょうか? シャローヴァナル様のご意向に反する行動を……」
「……それに関しては、俺から話しときますので大丈夫です」
さすがに、この状況で口を挟まないわけにもいかないので、俺はカトレアさんをフォローするための言葉を発した。
というわけなので、シロさん。あのブーケはこの教会に保管するってことでいいですね?
(あげたものなので、好きにすればいいのでは?)
シロさん的にはそうでも、カトレアさん的にはシロさんから貰ったものを雑には扱えないんですよ。
変な流れにはなったが、とりあえずブーケは教会に飾られることとなり、後々まで語られるであろう大きな事件となったのは間違いなかった。
やはり、シロさんの破壊力は凄まじい……ちょっと迂闊に行動すると歴史的な事件になってしまうのだから、本当に恐ろしい話だ。
「……クロノアさん、お疲れ様です」
「ああ、ミヤマもな」
帰り際のクロノアさんに声をかけると、クロノアさんはどことなく疲れたような……こちらの事情も察したような感じの表情で言葉を返してくれた。
中々の事件はあったものの、とりあえずは気を取り直して式の後は結婚披露パーティである。教会に隣接する大き目の会場で行われるみたいで、そちらに移動することになった。
リリアさんたちには先に言ってもらって、俺は進行役を終えたオリビアさんと合流して一緒に会場に向かうことにした。
「……オリビアさん、お疲れ様でした」
「もったいないお言葉です。実際に体験できたのは勉強になりました」
オリビアさんは以前と俺とのやり取りで、いろいろなことを知って学んでいこうと考えるようになった。そして、元々の真面目な性格も相まってその勉強熱はかなりのものだ。
香織さんに聞いた話では、もう箸も容易く使いこなして、味噌汁の細かな味の違いにも気付くレベルだという。
「次は披露パーティですから、式よりは少し気楽な感じですね」
「ご迷惑でなければ、お傍に控えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「いや、控えるとかじゃなくて、せっかくのパーティですし一緒に楽しみましょうよ。俺も少し式で疲れたので、気を休めたいですし」
「……えっと……ミヤマカイト様、発言を聞き返す無礼をお許しください。いまの発言ですと、私といる際には気が休まると読み取ることも出来るのですか?」
「え? ええ、そりゃ、オリビアさんは知り合いですし、一緒にいると気楽ですね」
なにせ今回は、初対面だけど向こうはこちらのことを知っているという状況の人が多いので、個人的には結構気を使う感じだ。
対して、オリビアさんは知り合いで友人と言っていい関係だし、変に気を張らなくていい。
「……そ、そう……ですか……し、失礼、少々雑念が……数秒お待ちを」
オリビアさんは戸惑ったような表情を浮かべており、俺は理由がよく分からず首を傾げた。
シリアス先輩「あ~なるほど、快人にしてみれば『初対面の人が多いパーティで知り合い相手だと気を遣わずに気楽だ』って意味で発言したけど……オリビアの方からすると『君と一緒だと心休まる』って言われたようなものってことか……くそがっ!」
???「甘い雰囲気を感じで悪態をついてる……いつも通りっすねぇ」




