結婚式参加③
さすがにノインの正体に関しては伝えられないが、リリアはカトレアに大物が来る可能性もあると伝えた。カトレアとしては本来喜ぶべきではあるが、リリアの青ざめた表情から……来る可能性がある大物が、相当ヤバい存在であるということが伝わったようで、神妙な表情を浮かべていた。
そうして緊張が高まる室内に、突如ノックの音が響き全員が一斉に振り返った。
「……来ましたか」
「どうぞ、入室して構いませんよ」
いよいよ快人が同行者を連れてやってきたとリリアがまるで決戦に挑むような表情で呟き、カトレアが入室の許可を出す。
室内の緊張が最高潮に高まる中、扉がゆっくりと開き……。
「カティ、式の前に悪いんだけど披露パーティの進行の最終確認を――」
「紛らわしいですわ!!」
「――あいたっ!? え? な、なに!?」
カトレアは入ってきた正義に駆け寄り、思わずといった感じで額に手加減したチョップを行った。しかし、事情を知らない正義はもちろん訳が分からず混乱した表情を浮かべていた。
「……はぁ、いえ、失礼しました。少し取り乱しました。進行確認ですね?」
「う、うん。いったいなにが……って、葵先輩に陽菜、それにリリアさんたちも! 来てくれてたんですね」
首を傾げつつ、進行表をカトレアに手渡したあとで、正義は室内に居たリリアたちに気付いて明るい表情を浮かべる。
召喚時にはすぐに王城の方に移動した正義だが、快人の誕生日パーティ等でリリアたちとも面識がある。
「えぇ、正義……めっちゃ、背伸びてない?」
「そりゃ、一度成長とかを戻して、向こうの世界に帰ったふたりと違って、通算で3年こっちに居たわけだし、背も伸びるさ……というか、無効とのズレもあるから正確じゃないけど、年齢で言えばもう19だしね」
「いつの間にか私より年上になってるのよね? なんか変な気分ね」
「たしかに、葵先輩より年上って考えると、ちょっと変な感じですね」
成長期を経て正義はかなり成長しており、かつてとは大きく印象が変わっていた。子爵かつ領主という責任ある立場として経験を積んだこともあり、青年はしっかりと大人へと成長していた。
「……あれ? 宮間さんは?」
「ええ、実はいま丁度そのことを話していたところなんですよ……ああ、進行表は問題ありません」
周囲を見渡して快人が居ないことに気付いた正義の言葉に、カトレアが進行表を返しつつ答える。そのあとで軽く事情の説明があって、正義も皆がなぜ緊迫したような空気を出していたか知ることになった。
「セイギさんは、同行者が誰か聞いていませんか?」
「いえ、申し訳ないですが、僕も知らないんです。元々、宮間さんに手紙を貰ったのが結構ギリギリのタイミングだったので、あんまりやり取りする時間的余裕もなかったですし……ただ、カティと話し合った感じだと、大物が来る可能性は低いって結論でしたが……この感じだと、大物の可能性もあるんですね」
リリアの問いかけに、正義は申し訳なさそうに自分も同行者については知らないと返す。
「リリアさんたちの予想だと、エデン様の可能性もあるんじゃないかって」
「エデン様? いや、エデン様は絶対ないよ」
「え? なんで?」
陽菜が告げたエデンという名前に対し、正義はすぐに首を横に振って否定した。
「エデン様は、昨日来たからね。突然現れて式に参加するつもりはないけど、お祝いだけは言いにきたって……あと、ささやかなお祝いって……僕の視力を回復してくれたね」
「あっ、だから今日眼鏡かけてないんだ」
「うん。だから、エデン様は無いと思う」
「……じゃあ、本当に快人先輩、誰連れてくるんだろう?」
我が子に対しては非常にマメであるエデンは、すでに先立って正義には祝いの言葉を伝えていた。そして本人が式に参加する気はないと明言した以上、同行者の候補からは外れる。
となればやはりノインかと、そんな考えを頭に浮かべつつ、リリアは再び緊張した面持ちで扉に視線を向ける。
……その扉から、快人が同行者を連れて現れるのは、ほんの数分後のことだった。
同行者を連れて教会の前に戻ってきた快人は、係の者に案内されながら同行者と会話をしていた。
「けど、手紙が来たときは驚きました……光永くんかカトレアさんと知り合いなんですか?」
「――――」
「……え? 顔は見たことあるけど、話したこともない? じゃあ、なんでまた……」
「――――」
「ああ、なるほど、単純に結婚式の方に興味があったんですね。まぁ、たしかに、意外と見る機会はなさそうですね」
同行者は特に正義やカトレアと知り合いというわけではなく、単純に結婚式そのものに興味があって快人に同行を願い出たみたいだった。
そのまま、親し気に同行者と会話する快人を……案内している係の者は、戦慄した表情を浮かべていた。
シリアス先輩「エデンが候補から外れたか……次回、いよいよ同行者が判明しそうな感じだな」
???「じゃあ、せっかくなのでここまでの情報をまとめてみましょう」
~情報~
1、同行者は手紙で快人に連絡してきた
2、同行者が希望したのは結婚披露パーティではなく、式の方への参加である
3、快人にとって意外な提案で、手紙を受け取った時は驚いた
4、同行者は正義やカトレアの知り合いではなく、単純に結婚式に興味があっただけ
5、エデンではない
6、リリアのフラグ及び案内の反応から、大物であるのは確定
7、案内は同行者を話す快人をみて戦慄していた
???「こんなところですかね」
シリアス先輩「というかこれ、別に普通に六王や最高神って可能性もあるよね? 露骨に、六王や最高神は無いみたいなやりとりしてるのも不自然だし……」
???「そうですね。ここまでの情報を踏まえて、候補はこの四人に絞られたと言っていいでしょう!」
~候補~
候補者1
『敏腕支配人』チャペル
候補者2
『可能性の騎士団長』バルド
候補者3
『エルフ族の超新星』レオノーラ
候補者4
『全てが不明』幻の4人目
シリアス先輩「くそっ……可能性のかの字もねぇ連中ばかりで、ツッコミが追い付かない!? というか、4人中2人は快人と話したこともないし、1人に至っては名前すらないどころか、コミカライズ版では存在消されてるじゃねぇか!!」
???「シリアス先輩、聞いてください」
シリアス先輩「うん? なに?」
???「一体いつから――――『同行者はひとり』だと錯覚していた?」
シリアス先輩「……なん……だと……ま、まさか、そうなのか、複数いるのか!?」
???「いや、適当に言ってみただけです。ていうか、手紙で同行者をひとり連れて行きたいって書かれてましたし、まぁ、ひとりでしょうね」
シリアス先輩「てめぇ……」




