結婚式参加①
光永くんとカトレアさんの結婚式の当日、俺たちは朝早くに家を出発していた。今回の結婚式は、王都ではなく光永くんが領主を務めている地域のファーレンという街で行われるため、そこへの移動の時間があるからだ。
まぁ、とはいえ、そこまで王都から離れているわけではないので前日入りしたりする必要はなく、当日の朝に飛竜便で移動すれば問題ない。
結婚披露パーティからの参加ならもっと余裕もあるが、俺たちは式から参加するのでそれなりに早い時間の出発となった。
前にリグフォレシアに行った時と同じようにリリアさんがオーナーでもあるメアリさんの飛竜便での移動……ファーレンに前日入りしなかったのは、リリアさんが飛竜便に乗りたいからという理由もあるのかもしれない。
しばし、空からの景色を楽しんでいると交易都市といった雰囲気のある街が見えてきた。
「……あれが、ファーレンですか」
「ええ、そこまで大きな街というわけではありませんが、東西の交易の拠点となる都市なので栄えています。やはりカトレア王女との婚約ということで、よい土地が与えられたんでしょうね」
「なるほど……ところで、メイド服じゃないルナさんは結構新鮮ですね」
「騎士団に居た時にお嬢様繋がりで交流があったので、私も正式に招待されてますからね。メイド服というわけにはいかないでしょう」
俺に軽く説明してくれたルナさんは、今日はいつものメイド服ではなくドレスを少しカジュアルにした感じの……なんとなく、女性が友人の結婚式に着ていく服っぽい感じの格好だ。
ドレスではなくこういった感じの服でもOKとのことで、ジークさんもルナさんと同じような服を着ていた。なんでも、ふたりは公的な場ではやはりアルベルト公爵家に所属する……いわゆるリリアさんの従者として認識されるみたいなので、あえてリリアさんの服装より何段階かランクを落とした服にしているとのことだ。
貴族としてはそういう部分にも配慮が必要みたいで、なかなか面倒な感じである。俺と葵ちゃんと陽菜ちゃんはそれぞれ個人での参加なので、特にややこしいことが無いのは幸いだった。
そうこうしている内に結婚式の会場となる大き目の教会の前に辿り着く。教会というよりは、聖堂だとか神殿だとかと呼称した方がいいサイズで、ここで行うとしたらやはりそれなりの規模の式になりそうである。
協会から少し離れた場所、飛竜便の着地地点として臨時に用意されていた場所に降りて、歩いて教会前まで移動。そこで俺は転移魔法具に場所の登録をしてからリリアさんに声をかける。
「それじゃあ、リリアさん。俺は同行者の方を迎えに行ってくるので……」
「……同行者?」
「え? ……あれ?」
俺が告げた言葉を聞いて、リリアさんはキョトンとした表情を浮かべた。あれ? おかしいな? 怒られないようにちゃんと事前に言っておいたはずなのに……。
そう、光永くんからの返事がきてすぐに報告を……報告……を……。
「――あっ」
あぁぁぁぁ!? お、思い出した! そ、そうだ。たしかにあの時、俺はリリアさんに報告しに行ったが、リリアさんは不在で報告できないままだった。
そして部屋に戻る途中でイルネスさんと会ってナイトマーケットに行って……完全に、報告を終えた気になってた!?
「……カイトさん? 説明してください。同行者とは……なんですか?」
「ひぃっ!?」
口元に笑みを浮かべて話すリリアさんだが、目はまったく笑っていないし、背後に鬼神が見える気がする。
なんか「またテメェ、なにかやりやがったな」という雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。
「ご、ごめんなさい!!」
下手な言い訳は悪手であると悟った俺は即座に頭を下げて謝罪。速やかにことの経緯をリリアさんに説明した。
俺の説明を聞き終えたリリアさんは沈黙しており、俺は刑の執行を待つ囚人のような気持で身を小さくしていた。
しばし、押しつぶされそうな重い沈黙が流れたあと、リリアさんがため息を吐く。
「……はぁ、まぁ、次は気を付けてくださいね」
「え? あ、はい」
「おや、お嬢様? いつものように半泣きかつオーガもかくやという表情で、ミヤマ様に説教しなくてもいいのですか?」
「いや、いつもそんな表情はしていないでしょ……」
微妙なところである。確かにそんな顔はしていないが、背後に鬼は見えるので……超怖いのだが……けど、ルナさんじゃないけど、俺も絶対怒られると思っていたが……。
「たしかに、報告を忘れてはいたみたいですが、ちゃんと事前に報告はしようとしてくれたみたいですし……そもそも、カティやセイギさんに許可をちゃんと取っているのであれば、私がアレコレという話でもないでしょう。カイトさんにも悪気があったわけではないのですし、怒ったりはしませんよ」
「リ、リリアさん……」
「ともかく、カイトさんは同行者を迎えに行くのですね? 転移魔法での移動ならすぐ戻れるでしょうし、私たちは先にカティとセイギさんに挨拶に行っていますので、あとから合流してください。係りの者に言えば案内してくれると思いますよ」
「はい。了解です」
怒られなかったことにホッと胸を撫でおろし、リリアさんの言葉に頷いたあとで俺は同行者を迎えに行くために転移魔法によって移動した。
快人が転移魔法で姿を消したあとで、リリアたちは教会内へ向かう。その道中でルナマリアがリリアに話しかけた。
「……そういえば、同行者がどなたか聞き忘れましたね?」
「そういえばそうですね。とはいえ、六王様や最高神様ではないでしょう。カティたちと接点がありませんし、披露パーティではなくわざわざ式に参加を希望するとも思えません。おそらくですが、最近カイトさんが知り合ったという移住者の方なのでは?」
「あ~なるほど、たしかにソレなら同郷の結婚式に参加を希望したとしてもおかしくないですね……なるほど、お嬢様が余裕そうだったのは、ビックネームが来ないと確信していたからなんですね?」
「先ほども言いましたが、カティたちの式に参列する理由がないですからね」
そう言ってリリアは穏やかに微笑む。しかし、それを見たルナマリアは少し考えるような表情を浮かべて呟いた。
「……なんでしょう、筋は通ってますし、その通りといえる理屈のはずなのですが……私の経験上、お嬢様がそうやって余裕ぶってるときは、だいたいミヤマ様の予想外の一手で胃を痛めつけられるのですが……」
「不吉なことを言わないでください。大丈夫ですよ」
「だと、いいのですが……」
シリアス先輩「……ぶっといフラグ建ったな……これ違うな、確実に移住者組じゃねぇな……絶対ビックネームだ」
 




