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ナイトマーケット④



 イルネスさんの買い物はすぐに終わり、その後もふたりでナイトマーケットをあちこち見て回った。

 悪魔っぽい店主がいる店では串焼きならぬ『串刺し焼き』というのが売られていた。なぜ串刺し焼きなのか……悪魔公であるニアさんへの忖度? それとも、悪魔全般で普通に串刺しが流行ってるとか? うーむ、分からない。


 それ以外にもバンパイアっぽい店主とかもいた。たしかにバンパイアと言えば夜行性というか、日の光が苦手みたいなイメージがあるが……ノアさんはそんな感じじゃないんだよなぁ。


「イルネスさん、バンパイアって日光が苦手だったりするんですか?」

「日光ですかぁ? たしかに~バンパイアは夜行性なのでぇ、強い日差しは~眩しくて苦手みたいですよぉ」

「ふむ……ハーフバンパイアは?」


 俺の想像するような弱点みたいな感じではなく、単純に暗い場所で過ごすことが多いので明るいのが少し苦手という感じっぽい。


「ハーフバンパイアは~特殊ですねぇ。もう片方の性質を受け継ぐ場合もあるのでぇ、夜行性ではない場合も多いですねぇ」

「なるほど、ルナさんの母親のノアさんとかも普通に昼間に行動してますしね」


 その後も少しイルネスさんに聞いてみたのだが、結構ハーフやクォーターは特殊で、いろいろな性質をごちゃ混ぜに受け継ぐこともあれば、偏ったりすることもあるみたいだ。

 フィーア先生も、ハーフやクォーターの診察は難しいって言ってたし、なかなか専門的で難しい部分も多いのだろう。


 そんなことを考えつつ移動していると、ふとイルネスさんが、ひとつの店に視線を向けた。いまいるエリアは食材のエリアを過ぎて、わりと雑多にいろいろなものが置いてあるエリアだ。

 そんな中でイルネスさんが見ていたのは、大き目の……淡い光を放っている草だった。


「イルネスさん?」

「懐かしいものを見ましたのでぇ……」

「その草ですか?」

「はいぃ。月光草と言いまして~夜に淡く光る性質があるんですよぉ」


 イルネスさんはそう告げると、店で月光草をひとつ購入して、それを手に持ちながらゆっくりと歩きだす。昔を懐かしんでいるようなその表情に、どう声をかけていいか分からず隣を歩いていると、ポツリと呟くような声が聞こえてきた。


「……私が生まれ育った場所にぃ、たくさん生えていた草ですぅ」

「イルネスさんが、生まれ育った……故郷にある草ってことですか?」

「どうでしょうねぇ? 果たして~故郷と言う表現が正しいのかぁ、少し考えてしまいますねぇ。私は~単一種の魔族なのでぇ、生まれた時からこの姿ですしぃ、村や町で育ったというわけでもないですからねぇ」


 イルネスさんの言葉を聞きながら、そういえば俺はイルネスさんの過去をほとんど知らないことに気が付いた。以前フレアさんから、イルネスさんが昔の魔界で人助けをしながら旅をしていたというのは聞いたが、それ以前に関しては知らないし、それ以後に関してもシンフォニア王国でメイドとなってからしかしらない。

 よくよく考えてみれば、イルネスさんって割と謎の多い方かもしれない。


「単一種の魔族はぁ、生まれながらに~それなりの力を有している場合が多いのでぇ、生活に関しては~問題ありませんでした。特に私は~生まれてから数千年は~自己鍛錬ばかりしていましたしねぇ」

「なぜ、自己鍛錬を?」

「分かりませんねぇ。なんとなくというのが~適切ですかねぇ? なにかを成したかったわけでもありませんしぃ、なにか目的があったわけでもありませんでしたぁ。ただ漠然と~これから必要なんじゃないかとぉ、そう考えていたから~ですかねぇ?」

「たしかに、結構自分のことって分からないものですよね。特に行動の動機とか、なんだかんだでなんとなくってのが多い気もします」

「くひひ、私も~同感ですぅ」


 そう言って笑みを浮かべるイルネスさんは、どこか楽し気に見えた。


「昔の私は~空っぽと表現するのが適切でしたぁ。やりたいことも~やるべきことも~なにひとつぅ、持ってなかった気がしますぅ」

「……昔はってことは、いまは違うんですよね?」

「そうですねぇ、いまの私は~すっかりワガママになってしまったのでぇ、やりたいこともたくさんですよぉ。くひひ、どうにも~困ったものですねぇ」

「そんなことないですよ。やりたいことがあるってのは、むしろいいことだと思いますよ。イルネスさんは、もっとそういう面を表に出していいと思います」


 正直俺の感覚としてはイルネスさんはワガママの対極ぐらいの位置にいると思うので、むしろもっとワガママを言っていいと思う。

 というか、その方が俺としても日頃からお世話になりまくってるイルネスさんにお礼できる機会も多くなりそうだし、願ったり叶ったりだ。


「……くひひ、それなら~ひとつぅ、ワガママを言ってもいいでしょうかぁ?」

「え? あ、はい。もちろん、俺に協力できることでしたらなんでも」

「貴族の生活を見ることが多かったからですかねぇ、少し憧れがありましてぇ……形だけでも構いませんのでぇ、少し~エスコートしていただけませんかぁ?」


 そう言って微笑みながらこちらに手を差し出してくるイルネスさん。なんというか、いつも以上に柔らかな雰囲気を感じるその微笑みは、思わず見惚れてしまうほど美しかった。


「……俺でよければ、よろこんで」


 そしてやっぱり、イルネスさんはワガママとは程遠いなぁと、そんな風に感じながらも差し出されたイルネスさんの手を取り、その手を優しく引くようにしながら歩き出した。





シリアス先輩「……甘さキッツ……要するに、手を繋いで歩きたいってことだろ……くそっ、いちゃいちゃしやがって!!」

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[一言] ごふっ(糖血
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