結婚式参加の準備①
よく晴れた日の午後、俺の目の前には見るからに高級店という佇まいの店があった。
まぁ、とはいってもこの店に来るのは二度目……以前リリアさんと一緒に六王祭に向かう前に服を買いにきた貴族御用達の服屋だ。
前回は結局アリスに作ってもらったので購入したのは、リリアさんとジークさんへのプレゼントの服だけだったが、今回は自分用の服を買いにきた。
光永君の結婚式で着る礼服の購入が目的なのだ。というのも、今回の結婚式の主役は光永君とカトレアさんであり、当たり前ではあるが俺じゃない。
リリアさんに教えてもらったのだが、基本的に貴族の結婚式では、主役のふたりより豪華な服を着るのはマナー違反であり、あらかじめどの位のランクの服を着るというのが参加者に伝達されるので、その情報を得てから服を用意するらしい。
アリスが作ってくれた服は非常にいい服なのだが、希少な素材を使いまくってるので高い……というわけで、六王祭の時に作ってもらった服などは使えない。
ならば、この世界に来たばかりの頃、バーベキュー参加前にリリアさんが買ってくれた礼服はどうだろうかと思ってリリアさんに聞いてみたのだが、あの服のデザインは2年前に主流のデザインで、今の流行からやや外れているとのことで、新しく買うことをお勧めされた。
これが一般の結婚式ならともかく、貴族も多く参加する式なので……俺に対する注目度も変に高くなりそうなので、最新の流行を取り入れたものを用意しておくべきとのことだった。
またアリスに作ってもらってもよかったのだが、そういえば以前この店で結局自分の服を買っていなかったことを思い出して足を運んだ。
リリアさんも一緒に来れたらよかったのだが、残念ながら仕事の都合が合わなかった。しかし、その代わり今回は……。
「……す、すごいおっきいですね? だ、大丈夫ですかこれ、入っただけでお金取られたりしません?」
「陽菜ちゃん、流石にそんなことはないわよ。けど、たしかにハイブランドの店でもなかなか見ないぐらいに豪華な店……さすがは貴族御用達店ってところですね」
同じく光永君の結婚式に参加予定の葵ちゃんと陽菜ちゃんを連れてきた。ふたりも式に来ていく服……ドレスは購入しようと思っていたみたいだったので、丁度いいタイミングだった。
「それじゃあ、入ろうか。リリアさんが言うには、結婚式に参加することを伝えて、光永君とカトレアさんが着る服について書かれた紙を見せれば、丁度いい服を見繕ってくれるみたいだね」
「お任せできるのは助かりますね。正直こちらの世界の流行には疎いですね」
「……葵先輩、まるで向こうの世界だと流行に敏感みたいなこと言ってますね?」
「陽菜ちゃん? なにか言いたいことでも?」
「な、なんでもないです!?」
ふたり共華の女子高生なので、流行とか詳しそうな気がするが……少なくとも、俺よりは遥かに詳しいと思う。
「葵ちゃんとか、結構ハイブランドとかに詳しそうなイメージがあるけど……」
「う~ん、いくつかは持ってましたけど……学生ですからね。あんまりブランドものばかり着てても嫌味ったらしいじゃないですか……」
「確かに葵先輩ってあんまりブランドものとか着てなかったですね。いや、私もあんまブランドとか興味なかったんで、誕生日に貰ったバックぐらいでしたね」
「私も、貰いものだけど財布とか時計ぐらいだったわね」
……なお、忘れがちになってしまうが葵ちゃんは日本屈指の大企業である楠グループの令嬢で、陽菜ちゃんも祖父が代議士、両親が医者、昌ではない、もうひとりの兄……長男が弁護士という、エリート家族の一員であり、どちらも一般基準で言うとかなりのハイソサエティである。
「なんかそういう話を聞くと、やっぱりふたりの家ってお金持ちだったんだなぁって感じるよ」
「まぁ、私たちが凄いわけじゃないですけどね」
「ええ、それにこっちでは快人さんのほうが財力は圧倒的ですし……」
「それも俺が凄いじゃないんだけどなぁ……」
「あはは、みんな一緒ですね~」
後輩ふたりと楽し気に会話をしつつ、中に入ると店員が綺麗な礼をして迎えてくれた。
「ご来店ありがとうございます。おや? お客様は二度目のご来店ですね」
「あっ、覚えててくださったんですね」
「もちろんでございます。再び当店をご利用くださり、光栄です。本日はどのような品をお探しでしょうか?」
そういえばふと思ったけど、この店って以前パンドラさんが店員と入れ替わったりしていたので、アリスの……もとい、幻王陣営の店なんだよね?
だから、だろうか? 店員は二年前に一度来ただけの俺を一目見てすぐに二度目の来店だと分かったみたいだった。
……今回はパンドラさん出てこないよね? 前は挨拶も兼ねてたし、流石に今回はないよね……うん。今回は葵ちゃんと陽菜ちゃんもいるから、一言アリスにパンドラさんを越させないように伝えておこう。
シリアス先輩「二部に入ってから、意外と出番が多いな後輩組、一部が酷すぎただけか?」
???「まぁ、それでもセイギさんには敵いませんがね」
シリアス先輩「……マジで、ハイドラ以降の台詞まで、あと何話かかるんだか……」




