同郷との邂逅⑤
とりあえず妙なひと悶着はあったが、席に座りなおして茜さんと雑談をする。
「自分、アレやろ? クロム様の恋人なんやろ?」
「え? 御存じなんですか?」
「クロム様には商会作る際に世話になってな、そこそこ付き合いがあるんよ。六王祭で会った時に、楽しそうに快人のこと話とったわ」
「なるほど……アニマの件といい、妙なところに縁があるもんですね」
「せやなぁ」
茜さんは明るい性格で、一度話し始めてみればどんどん会話は盛り上がる。なんというか、話しやすい方というか関西弁も影響しているのかもしれないが、会話のテンポが軽快な感じがする。
「そういえば、茜さんは今日はヒョウ柄の服じゃないんですね?」
「さすがに、あんなウケ狙いの服着てこられへん……って、うん? なんで、ウチの普段の服装を知っとるん?」
「ああ、実は前に一度茜さんとはすれ違ってるんですよ。その時に、関西弁とヒョウ柄の服が印象に残って、覚えていたので……というか、あの服ウケ狙いなんですか?」
「ほ~前にシンフォニアに来たときかな? 髪と合わせてウケ狙いっちゃウケ狙いやな……パーマとかは趣味やないから当ててへんけど、なんかザ・大阪のおばはんみたいな感じでおもろない?」
「う~ん、通じる相手にはウケるかもしれないですけど……でも茜さんの見た目で、ヒョウ柄の服を着ていてもあんまり大阪のおばさんとかそんな感じはしないと思いますけど……」
実際、以前にすれ違った時にヒョウ柄の服は珍しいなぁとかって感じで印象には残っていたが、別に大阪のおばさんっぽいとかそんな風には感じなかった。
それはたぶんというか、間違いなく茜さんの外見が若々しいからだと思う。というか、事実としてライフさんの祝福で若返っており、いまは10代みたいなので、やはり設定に無理がある気がする。
「そうなんよな。若返る前やったらそこそこええ感じやったんけど、若返ったせいでおばはん言うよりは、流行に乗り切れてへんギャルみたいになってもうたな」
「あ~たしかに、そっちの方がイメージには合ってるかもしれませんね」
「しかも、紫髪もこの世界じゃ別に珍しゅうないし……う~ん、難しいなぁ。まぁ、あの格好に慣れてしもうたから、ずっと着てるってのもあるけどな」
そう言って明るく笑う茜さんの表情からは、人の良さが伝わってくるというか、少し話しただけでもいい人だというのがよく分かった。
そんなことを考えていると、ふと茜さんがなにかを思い出したような表情で口を開く。
「そういえば、話は変わるけど、アニマさんが持って来た取引って……快人が主導なん?」
「主導というか、俺には取引とかその辺のやり取りは分からず、アニマに任せてる感じですかね」
「そっか……けど、あんなもんホンマに手放してええの? 竜王様の鱗使ってるアクセサリーやろ?」
「ええ、たくさんもらって余ってて……正直持て余してたんですが、捨てるってわけにもいかないですし、なんとかいい感じに処分をって考えて、アクセサリーにして売ることにしました」
「あはは、あ~そやね。捨てたりしたら竜王様に失礼やし、そらええ考えやな!」
茜さんはそう言って、笑顔を浮かべたが……なんだろう? なんか妙に笑顔に圧があるというか、なにか先ほどまでとは違って貼り付けたような感じの笑顔だった。
「……ところで快人、ちょお確認してええかな?」
「え? な、なんでしょう?」
貼り付けたような笑顔のままで、茜さんは告げる。なんかなぁ、ちょっと怖いというか……説教する前のリリアさんに似た気配を感じるというか……。
「……ある程度は許してくれるよな?」
「うん?」
「いや、無礼講とまでは言わへんけど、明らかに侮辱したり貶したりとかじゃなければ、多少の砕けた口調は大目に見てくれるよな? な?」
「え、ええ、もちろん」
「そっか、それはよかった……ほな、ちょっとだけ、ごめんな」
妙に圧力を感じる茜さんの言葉に俺が頷くと、茜さんは笑顔を浮かべたままで一言俺に断りを入れてから、スゥッと息を吸い込み……。
「――余るかぁぁぁぁぁぁ!!」
「ッ!?」
「お中元の品がその辺転がってたみたいな言い方すんなや! 竜王様の鱗が一枚なんぼする思うてんねん!? 怖いわ!!」
な、なんて……なんて真っ当なツッコミなんだ。言われてみればその通り過ぎて、文句の言いようもない。
「ちゅうか、頼むから高価な品の話する時は、相応の感じでしてくれや……竜王様の鱗を捨てるとか、聞くだけでも恐ろしすぎるわ! 心臓に悪いねん!!」
「……正論過ぎて反論できない」
「せやろ? ……いや、まぁ、すまん。もうずっと突っ込みたかったんよ……この屋敷に来てから、叫びたい気持ちでいっぱいやってん」
「いえ、俺の方こそ変に驚かせてしまって申し訳ないです」
そりゃそうだよな。マグナウェルさんの鱗一枚で城が建つぐらいのって話だし、普通に考えたら高価すぎるシロモノだ。
……うん、本当にあまりにもホイホイくれるので、すっかり感覚が鈍ってた。
「……けど、竜王様の鱗をよう加工できたな? 普通は高価すぎて、どの加工屋に持ってっても受けてくれへんやろ? ごっつ硬いって噂やから加工も難しいやろうし……」
「ああ、それは、アリ……えっと、幻王にお願いしました」
「……お前……ホンマにっ……」
俺の言葉を聞いた茜さんは、なにやら遠い目をして天を仰いでいた。
マキナ「……我が子同士の会話、いい……尊い」
シリアス先輩「……というか、お前的にはツッコミは有りなの? 不敬とか言わないの?」
マキナ「我が子同士が仲良くしてて、私得だね! 永久保存したいぐらいの素敵映像だよ!!」
シリアス先輩「……もしツッコミ入れたのが我が子じゃなかったら?」
マキナ「今回みたいな感じならスキンシップの範疇じゃないかな? 愛しい我が子も気にしないだろうしね」
シリアス先輩「おぉ、思った以上にマトモな……じゃあ、ツッコミ入れたのが我が子じゃなくて、そのツッコミで快人が傷ついた場合は?」
マキナ「消えちゃうやつの話する必要ある?」
シリアス先輩「ひっ……な、ないです……」




