同郷との邂逅③
表情を硬くしながら足を進め、家の入口に辿り着く。大き目の扉にネピュラが手をかざすと、扉は自動的に開き、中にはふたりの来訪を待っていたアニマが立っていた。
いままで茜と取引を行った際に来ていたスーツではなく、アニマにとっては着慣れた、ふたりにとっては初めて見る軍服風の服で微笑みを浮かべながらふたりを出迎える。
「ようこそ、アカネ殿、フラウ殿、今回はご足労いただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、招待いただきありがとうございます」
さすがに茜もひとつの商会を背負うだけあって、内心では委縮していても表面上はそれを出さず、にこやかに挨拶を行う。
フラウの方は、あくまで茜の秘書兼護衛ということもあり口は開かず、アニマの言葉に一礼するだけにとどめた。
「ネピュラ、案内ご苦労だった」
「いえいえ……アニマさん、少しよろしいですか?」
「うん?」
アニマの言葉に笑顔を浮かべたあとで、ネピュラはアニマの耳元にスッと近づき、ふたりには聞こえない声で告げる。
「確認ですが、主様がふたりを招いたのは委託とは関係なく、同郷の方と親睦を深めるためですよね?」
「ああ、その通りだが……」
「では、やはり……おふたりは、主様に対してなにか誤解をしているように思えます」
「誤解?」
「はい。妙に畏縮しているというか……印象としては、遥かに格上の相手に謁見する前とでもいうべきでしょうか? なにか失礼があったら処されるのではと、そんな感じの独特な緊張が見て取れました」
ネピュラは言うまでもなく鋭い洞察力を持っており、それこそ茜とフラウを一目見た時から、普通の緊張とは違う畏怖のような感情があるのを察していた。
だからこそ、ふたりの案内を引き継ぐタイミングでそれをアニマに進言する。このままの状態で、ふたりが快人と会ったとすると、畏縮から初めは上手く会話が進まない……快人の望まない展開になるのが予想できた。
「このままでは、主様にとっていい展開にはならないでしょうし、先に誤解を解いておくことをお勧めします」
「そうか……」
「主様を変に大きく認識し過ぎている様子なので、先んじて主様について説明しておくのがいいかと」
「ああ……おそらくは、自分の説明不足が原因だな。助かった、ネピュラに案内を頼んでよかった」
「いえいえ、それでは妾はこれで」
伝え終えたネピュラは笑顔を浮かべ、茜とフラウにも一礼してから庭に戻っていった。それを見送ってから、アニマは茜とフラウに軽く頭を下げる。
「申し訳ありません。自分の説明不足でおふたりには、誤解をさせてしまったようです」
「え? 誤解、ですか?」
「ええ、取引とは関係なし私用とはいえ、普通に考えればご主人様を自分と結び付けて恐縮してしまうのも必然でした」
「う、ううん?」
アニマの言葉を聞いて、茜もフラウも不思議そうに首を傾げる。どうも、思っていた展開と違うことになってきており、アニマの口にした誤解……なにか互いに認識にすれ違いがあることを察したからだ。
「自分のご主人様は、ミヤマカイトと言いまして……アカネ殿と同じ異世界人なんです」
「なっ!? あっ、もしかして……クロム様の恋人っていう」
「ええ、その通りです。そして今回の件に関しても、本当に取引とは一切関係なく、たまたま交渉を行う商会のトップが同じ異世界人であるということを知ったご主人様が、同郷の相手と親睦を深めたいと会うことを希望された結果です」
「……な、なるほど……つ、つまり、うちの商会との今後の付き合いとか、見極めとか、そういう感じではなく……」
アニマの言葉を聞いて、少し頭で内容を整理し終えた茜は、思わず膝をつきそうになるほど脱力した。少なくとも、粗相があれば首が飛ぶだとかそんな事態にはならないということだけは理解できた。
もちろん、いまだ疑問の全てが解消されたわけではない。その同じ異世界人が、なぜこんな巨大な屋敷に住んでいるのとかとか、アニマを従えている理由とかも気にはなったが……最大の懸念は解消されたと言っていい。
「そ、そうでしたか……そりゃ、むしろこっちも変に誤解して身構えで申し訳なかったです」
「いえ、変に不安にさせてしまって申し訳ありません」
「気にしないでください。おかげでいろいろ納得できました。幻王様の鑑定書を用意できたのも、クロム様の伝手と考えれば納得……」
「ああ、いえ、アリ――幻王ノーフェイス殿に関しては、ご主人様の恋人のひとりで、ご主人様に忠誠を誓っているので……」
「……あ~ちょっとすみません。いま、脳が理解を拒否してるんで、数分待ってください……」
最大の懸念は解消された。しかし、やはりなにかがおかしい、己の常識の範疇を越えた存在であるというのは間違いなさそうで、茜は疲れ切った表情で天を仰いだ。
シリアス先輩「誤解ですよ~フィクサーとかじゃないですよ~からの、幻王を従えているという衝撃の一撃……さすが、快人はボディ(胃)ブローの名手である」
 




