閑話・紡がれる縁
移動商会としてあちこちに転移魔法で移動して商売を行う三雲商会。しかし、移動商会が主ではあるとはいえ、もちろん本部も存在する。
主に書類整理をする事務所と在庫管理を行う倉庫がある本部。そこにある必要最低限のものだけを揃えた執務室で、会長である三雲茜は真剣な表情で手紙を読んでいた。
「……会長、難し――変な顔をしてどうされたのですか?」
「そのまま難しい顔で言い切れや! なんで、変って言い換えてんねん」
「つい……それで、どこからの手紙なんですか?」
メイドのフラウにツッコミを入れたあと、茜は軽くため息を吐きながら説明を始める。
「ほら、前にシンフォニアに仕入れに言った時におうた、アニマさんっておったやろ?」
「ああ、あの伯爵級と思わしき投資家の方ですね」
「そや、そのアニマさんから……まぁ、要約すると、ええ話があるんやけど聞く気はあるか? みたいな感じの手紙が届いたんよ。つまりは取引の提案の前段階として、こっちの都合を確認してる感じやね」
「ふむ、受けるんですか?」
「それに悩んでたんよ。おうたんは一回だけやし、親しくしてる相手ってわけやないけど……あの人ごっつやり手やから、取引内容に期待はできると思うけど……アレだけの人やったら、他にもいくらでも商会との付き合いもあるやろうに、なんでうちに話が来たかって、その辺の裏を考えてたんや」
手紙に取引の話とは書かれておらず、茜の都合が合うのなら会って話をしないかという風に綴られていた。茜は長年の経験でソレがなんらかの取引だと察してはいるが、まだ相手の意図を測りかねている状態だった。
「うちに頼むってことは、いろんな地域で売る必要がある品ってことでしょうか?」
「その可能性は高いな。うちの最大の強みは機動力やし……しかし、そうやとすると、取引内容によっては場所とかに縛りが出てくる可能性もあるし、そうなるとやりにくい部分もあるやろ?」
「まぁ、うちが売りたい商品と取引の品の販売場所が違ってくる可能性はありますね。ただ、やはりその辺りは話を聞いてみないと分かりませんし、聞くだけ聞いてみればいいのでは?」
「そやな……けど、あの人ホンマにやり手やからなぁ。無警戒で行くと、あっという間に契約結ばされてしまうかもしれんから、いろいろ考えてはおくべきやな」
茜は以前の遭遇でアニマの手腕を非常に高く評価しており、対等な条件で交渉したら舌戦では五分五分だろうと認識していた。
その上で相手側から持ち掛けてくる話というのは、当然ではあるが相手に情報の優位がある。そうなると、上手く出し抜かれてしまう可能性も否定できないので、現在悩んでいたのだ。
「そういえば、会長。あの方のことを調べてみると言っていましたが、分かったんですか?」
「うん? ああ、いろいろな伝手に聞いてみたらすぐ分かったわ。経済界じゃかなり有名な投資家で、二年ほど前に彗星の如く現れて、僅かな期間で頭角を現したホープらしいで……本当かどうかは分からんけど、クロム様の弟子とかって噂もあったわ」
「へぇ、それはまた凄い方ですね」
「ああ、しかもな……上がおるらしいわ」
「上とは?」
茜の言葉の意味が分からず聞き返すと、茜は真剣な表情で言葉を続ける。
「なんでも、アニマさんには『ご主人様』って呼んで慕っとる相手がおるらしい。おそらく、そっちがトップやないかと思うてる」
「……つまり、伯爵級と思わしきアニマさんや、あの時の同行者の獣人も、そのご主人様とやらに仕えていると? 伯爵級レベルの実力者をふたりも従えるなんて、何者ですか? 相当有名なんじゃ……」
「それが、まったく分からん……ホンマに、情報の欠片すら出てこん。まるで『意図的に情報が消されてる』ような気がするぐらいでな……いろいろ当たってみたけど、名前すら分からんかった」
「……それはまた、恐ろしい話ですね」
「ああ、おっかないわ。少なくとも相当強い権力、そして表にも裏にも精通した強いパイプ……それこそ、一国の国王ぐらいの力が無いと、ここまでの情報操作はできへんやろな」
ふたりの頭には、世界を裏で支配するフィクサーのような存在が思い浮かんでいたが……大いなる誤解である。いや、情報を操作しているのは、幻王であるアリスなのである意味ではフィクサーで間違いないかもしれない。
ただ、例によって例の如く、該当のご主人様である快人はそんなことはサッパリ知らない。
「いちおう、話は聞いてみるつもりやけど……相当の覚悟をせなあかんかもな」
「その、ご主人様とやらが出てくる可能性は?」
「ないとは言い切れんが、あのアニマさんが忠誠を誓うような相手やぞ? 桁違いのやり手やろうし……出てこられたら、ほぼ詰みかもしれんな。不利な条件での取引も、覚悟せなあかんやろ……」
「でも、チャンスでもあると……」
「ああ、そんな大物とコネ作れる機会を逃す手はないわ、虎穴に入らずんば虎児を得ずやな……さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……」
まだ見ぬアニマの主を思い浮かべ、恐ろしさと期待が入り混じったような表情を浮かべたあと、茜はペンを手に持ち手紙の返事を書き始めた。
……繰り返しになるが、大いなる誤解である。
マキナ「う、う~ん、どうなんだろ? 誤解と言えば誤解な気もするけど……愛しい我が子のコネが凄いのは事実だし、アリスが付いてる以上実際に取引交渉をしたとしても愛しい我が子……というかアリスが圧勝するだろうし、必ずしも間違っていないような……まぁ、つまり、愛しい我が子は至高ってことだね!!」




