加工品の委託
ある日の昼下がり、のんびりと読書をしていた俺の元に、アリスから大量の荷物が届いた。家の倉庫として使っている部屋に置いてもらったのだが、ズラリと並ぶ木箱はなかなかの圧迫感がある。
「……すげぇ量だな」
「そりゃ、元のサイズがサイズっすからねぇ。とにかく依頼通り預かったものは全部加工しましたよ」
「ああ、助かった。加工代とかの相場がよく分からないから、請求書はアニマにまわしてくれ、話は通してあるから」
「了解ですよ。まぁ、材料は全部カイトさんが用意しましたし、余った素材は私が貰う契約だったので、加工代はそれほどじゃないですよ」
そのまま少し話をしたあとでアリスは姿を消し、俺は大量の木箱を眺める。中身を確認したいところだが、最終的にアニマに販売を任せる形になるので、確認はアニマと一緒の方がいいだろう。
そう考えた俺は、一度アニマを呼ぶために倉庫から出て、アニマを連れて再び倉庫に戻ってきた。
「……どう、アニマ?」
「さすがアリス殿ですね。どれも超一級品と言っていい仕上がりですし、技術だけでなくこの短期間ですべて加工し終える速度も圧巻の一言です」
「じゃあ、販売にも問題なさそうだね」
「ええ、というよりは……品が品ですので、多少仕上がりに難があっても飛ぶように売れると思います。それだけに、売り方は注意しなければなりませんが……」
「……まさかこんな量になるとはなぁ」
「……多かったですからね……『鱗』」
実はこの大量の木箱は、俺がアリスに頼んでマグナウェルさんの鱗をアクセサリーに加工してもらったものだ。
というのも、マグナウェルさんは基本的に会うたびにお駄賃だと鱗をくれる。孫に小遣い上げてるような感覚なのか、どこか楽しげなのでいつもつい受け取ってしまう。
しかし、マグナウェルさんの鱗は一枚でも超巨大であり、それを会うたびに貰っていたら、並のマジックボックスなんて即いっぱいになる。
実際、いまでこそクロが作ってくれた明らかに常識を超えたサイズのマジックボックスを持っているので問題のだが、最初に使っていたゼクスさん作のマジックボックスでは収まりきらなかったかもしれないという量がある。
……いや、かもじゃなくて、収まりきらなかったな。六王祭の記念品で高層ビルみたいなサイズの牙とか渡されたし……アレに関しても、どうするかはそのうち考えよう。
まぁ、ともかくマグナウェルさんの鱗に関して、最初はアニマに頼んで売ってもらっていたのだが……それこそ、一枚で城でも余裕で買える金額になる超高額品を継続的に売り続けるのは難しい。
なので、もう少しサイズを抑えて金額を落として売ることができないかと考え、アリスにアクセサリーの形に加工してもらった。
マグナウェルさんは商売を行うものの多くに信仰されていて人気も高いので、お守りとかとして売れるんじゃないかと考えたわけだ。
もちろんマグナウェルさんにも許可は貰っている。俺にあげたものだから好きに使えばいいと笑いながら……追加でまた一枚鱗をくれた。
「アニマ、この量の販売……大丈夫?」
「はい、お任せください。ただ、出資が主の自分たちですべて販売を行うのも難しいので、特定の商会に委託する形にはなりそうですので、商会選びが重要ですね。新しく商会を立ち上げるという方法もありますが、手間もかかりますし新しく販売ルートなどを構築するのも難しいので、委託が良いでしょうね」
「ふむふむ、その辺は俺にはよく分からないから任せちゃう形になりそうだけど……もし誰かに紹介してもらったりするなら、多少は力になれるかも?」
「いえ、ご主人様の手を煩わせることもありません。いくつか候補として思い浮かぶ商会があるので、そちらに打診してみます」
場合によっては、例えば俺がクロとかに頼んで仲介してもらったりといったことが必要かと思ったが、流石アニマも経済界でホープと呼ばれるだけあって、任せられそうな商会に心当たりがあるみたいだった。
そうなると、もう完全に任せちゃった方がいいか……俺が持てあましている品の処分なので、なにか協力したいところではあるが、素人が変に手を出しても困るだけか……。
「ご主人様は、価格の希望などありますか?」
「いや、正直俺にとっては、持て余してるしなの処分だから安くてもいいんだけど……あんまり安すぎるとマグナウェルさんに失礼だし……」
「そうですね。ある程度の価格は必要でしょうね。流通も一気にさせ過ぎると、変な勘ぐりを招く可能性もあるので、調整しつつですね……その辺りは、自分にお任せください」
「ありがとう、頼りにしてるよ」
「はい!」
ビシッと敬礼をするアニマだが、俺に頼られたことが嬉しいのか少し頬が緩んでいた。その姿を微笑ましく思いつつ、アニマに声をかける。
「ただ、あまり無理はしないようにね。休憩とかもちゃんととってる?」
「はい。適時にしっかり」
「……今日は」
「……あっ、いや、その、今日はまだ……ちょ、ちょっと、午前中にこなしておきたい案件が多かったので……」
「はぁ……」
俺の指摘に明らかに痛いところを付かれたという表情を浮かべるアニマ……やっぱり、相変わらずあんまり休んでないな。
キャラウェイからたびたび報告も上がってたが、どうも気を抜くと働き詰めになるみたいなので、注意しておかないと……。
「アニマ、午後に急ぎの仕事はあるの?」
「い、いえ、午後にはそれほど急を要するものは……」
「そっか、じゃあ、一緒にお茶でも飲もうか」
「あっ……はい! ご一緒します!!」
苦笑しながら告げると、アニマはパァッと嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。元は熊のはずなのだが、やっぱりなんか喜んでるところとか犬っぽい雰囲気がある気がした。
マキナ「我が子たち、元気かな? 母だよ! シリアス先輩はなんか『追い打ち喰らって全治二話』って言うことらしいよ。いったい何があったんだろう? 昨日、私が子守歌代わりに愛しい我が子の話をたっぷり聞かせたら、よっぽど疲れていたのか『気絶したように眠った』から、私は帰ったんだけど……たぶんその後に、追い打ちを喰らったんだろうね。シリアス先輩も大変だなぁ」




