親友兼恋人 後編
ふたりで焼肉に行ったとは思えないような金額の支払いを終え、アリスと並んで街を歩く。すぐに転移魔法で帰ってもいいのだが、食後の軽い運動も兼ねて夜風に当たりながらの散歩といったところだ。
「それにしても、あの店は結構おいしかったな」
「適当に近くにあったから選びましたけど、肉の質もよかったっすね」
「個人的には、鶏肉が美味かったな」
「あ~塩コショウで食べるやつが絶品でしたね」
「そうそう、たれは濃い目の味だったから、時々塩コショウの味を挟むといい感じだった」
特にどこに行くというわけでもなく、恋人同士手を繋いで他愛のない雑談をしながら歩く。のんびりとした心休まるひと時とでもいうべきか、なんとなく穏やかな気持ちになれる気がした。
「それにしてもあれっすね。なんだかんだで、公爵級認定終わってからあっという間でしたね」
「まぁ、夕方手前ぐらいの時間からだったし、広場で遊んで焼肉行ったらもうすっかり日が落ちてたな。まぁ、お前が食いまくったから、焼肉はかなり長い時間いたけどな」
「違うんすよ、カイトさん。私は止めようとしたんですが、カイトさんの財布が『まだ大丈夫だよ』って囁いたので、ある意味カイトさん公認というわけなんすよ」
「そんなお前に都合のいいことを、囁いてたまるか……」
たしかに金銭的にはまったく問題はない。美味しい焼肉屋ではあったが、別に超高級店とかそういうわけでもないので、本当に店にある食べ物を全て食べつくしていたとしても、支払いは余裕である。
まぁ……結局食った量が量なので、超高級店で食事したぐらいの金額にはなったが……その辺りは、アリスを食事に誘った時点で諦めている。
しかし、なんかドヤってる顔はムカつくので、少し仕返しをしてやることに決めて、楽し気にこちらを見ていたアリスに顔を近づけ、不意打ち気味にキスをした。
「んんっ!?!?」
予想外の不意打ちだったのか、俺の顔が近づくとアリスは慌てたような表情を浮かべていた……まぁ、それでも避けたりとかはなく、キスする瞬間はちゃんと目を閉じて待ち構える感じになっていたが。
そのまましばしの間唇を重ね……少し時間を置いてから唇を話して、アリスに微笑む。
「……焼肉のたれの味がしたな」
「さっき食べましたからね!! というか、いい、いきなりなにするんすか!?」
「いや、なんとなく……」
「なんとなく!? だから、カイトさんは私に対してドS過ぎじゃないっすか! こっちは不意打ちされて、無いはずの寿命が縮んだ思いっすよ! 顔も火が出そうなほど熱いですし……」
「あはは、悪い悪い」
「なんで楽しそうに笑ってるんすかぁぁぁぁ!」
あまりにも予想通りの可愛らしい反応に思わず笑みをこぼすと、顔を真っ赤にしたアリスがポカポカと抗議をするように俺の胸を叩いてきた。
まぁ、本当に軽くなのでじゃれて来ているようなものだし、不意打ちとか言っていたが……アリスなら顔を近づける俺の動きなどあまりにも遅く、見てから避けることなど余裕過ぎるだろうし、不意打ちと言っていいのか迷うところである。
「……じゃあ、宣言してからならよかったのか?」
「うぐっ、そそ、それは……いや、まぁ、そりゃ、私だってカイトさんの恋人なわけですし、拒否とかはしませんが……いろいろ心の準備とか、そういうのが……単純に恥ずかしいですし……」
「いまからもう一回キスしてもいい?」
「はえっ!? う、うぅぅ……カ、カイトさん! 酷いですよ!? 完全に悪い顔してるじゃねぇっすか……私を弄ぶのがそんなに楽しいんすか!!」
「駄目か?」
「い、いや、だから、ですね……駄目とかは言いませんが、もうちょっと時間を――てっ!? ちょっ!? なんで肩掴んでるんすか? これ完全にアレじゃないですか、あわわわ……」
とりあえず嫌というわけでもなく、拒否もしないということみたいなので、アリスの肩を掴んで正面から向かい合うような体勢になる。
そして、そっと身を屈めて近付けると、アリスはアタフタとした様子だったが……やはり、最終的には目を閉じてキスを待つ姿勢になった。
いじらしさと愛おしさを感じつつ、キスをするのと同時に肩を掴んでいた手を背中に回してアリスの体を抱きしめた。
アリスは一瞬ビクッと体を動かしたが、すぐにおずおずと俺の背に手を回して抱きしめ返してくれた。
「……突発的とはいえ、せっかくのデートだし、もうしばらく散歩してから帰るか」
「そうっすね……思いっきり夜風に当たりたい気分ですよ! あ~もぅ、顔熱い……本当にもう、なんなんすかコレ……この、一生敵わない感じの……」
「まぁ、正直俺もこういうのに関しては、アリスに負ける未来が見えないな……」
「そりゃそうですよ。なにせ、私自身勝てる未来が見えてないんすから……」
そう言ってため息を吐くアリスだったが、嫌そうな感じではない。むしろどこか……心なしか、少し嬉しそうにすら見えた。
相も変わらず恋愛関連に関しては、初心で新鮮な反応を見せてくれるアリスの愛おしさを再確認しつつ、俺たちは仲良く手を繋いでしばしの散歩を楽しんだ。
シリアス先輩「かはっ……」
マキナ「シリアス先輩が……倒れてる? うん? なんか看板持ってるね……えっと『偉大なるシリアスの化身、ここに眠る』……ん~精神的な疲れかな? このまま寝かせといたほうがいいかな」
シリアス先輩「……」
マキナ「いや、それならむしろ愛しい我が子の話を子守歌代わりに聞かせることで、更なる癒しの効果が!!」
シリアス先輩「待ておい、追い打ち止めろ……」




