親友兼恋人 中編
広場でアリスとバトミントンなどで遊んだ後は、夕食時になったので約束通り一緒にご飯を食べに行くことにした。
なんというか、個人的な感覚ではあるが食事にも人によって似合う似合わないというのがある気がする。
例えばリリアさんなんかは、本人の好みは庶民的だが、見た目は貴族の令嬢という感じなので、上品な料理とかがよく似合う。
葵ちゃんや陽菜ちゃんなんかは、高校生という年齢も相まってかパフェとかが似合う。というか、陽菜ちゃんはパフェが大好物だし、たまに食べてるのを見るせいかもしれない。
クロはやっぱりなんか食べ歩きしてる姿が似合う気がするし、アイシスさんは食事というよりは紅茶を飲んでいるのが似合う気がする。
まぁ、そんな風に本人の好き嫌いは別として、その人によって似合う食事というのはあると思うのだが……。
「……もぐもぐ、あっ、カイトさん、これ焼けてますよ」
「うん、ありがとう」
俺はこの世界の住人で、アリス以上に焼肉食べてる姿が似合うやつを見たことが無い。いや、アリスも金髪碧眼で、見た目だけを考えればお洒落な洋食とかの方が似合いそうな気がするんだが……。
キャラのイメージが濃すぎるせいか……焼肉食べてる姿がこれでもかというほどよく似合う。仮に俺が不意に焼肉を食べたくなったとしたら、最初に誘う相手は間違いなくアリスだろうと思うほどだ。
「しっかし、お前よく食べるよな」
「人の金で食べるご飯、最高に美味しいです」
「本当にいい性格してるよ」
「おっと、お褒めいただいて光栄ですね。なんならもっと褒めてもいいですよ」
「焼肉食べてる姿も可愛いな」
「ぶほっ!? げほっ……ちょっ……いきなり、なにを……」
調子に乗っていたアリスだったが、俺の一言に思いっきりむせる。相変わらずこの手の話に関しては耐性がないやつである。
「なんというか、最近調子に乗ったアリスに強く出れることが多くなった気がする」
「止めてくれませんか、弱点突いてくるの……というか、おかしくないっすか? 私だって、カイトさんの恋人としてデートとかを重ねて、そろそろいろいろ慣れて成長してきてるはずじゃないですか……なのになんで、日を追うごとにどんどん勝てなくなってきてるんすか!?」
「それはアレじゃないか? 単純に、お前が慣れて成長するのと同じように、俺も慣れてどう攻めたらいいかがより分かってきたとか、そんな感じだろ」
まぁ、たしかにアリスの言う通り結構な回数デートもしている。しかし、生憎とアリスが慣れて成長したという風には感じられないどころか、どのタイミングでこちらが攻勢に出たら弱いかが手に取るように分かるようになってきた。
少なくともこの手の会話に関して、アリスに後れを取ることはないだろうと確信できるぐらいには、アリスのことが分かって来ている気がする。
「なんすか、その余裕な表情……高みからこちらを見下ろしてるような、絶対勝てる気がしない顔は……」
「いや、そんな顔をした覚えはないんだけど……う~ん」
形勢が悪そうなというか、少し慌ててる感じのアリスの顔を見ながら……少し試してみるかという、イタズラ心が湧いてきた。
なので俺はそっと不意打ちのように対面の席に座るアリスの顔に手を伸ばして、頬を優しく撫でたあとで、そっと親指でアリスの唇をなぞってみた。
別にアリスの口に焼肉のたれとかが付いてたわけではなく、なんとなくアリスの恥ずかしがりそうな行動をしてみたのだが……。
「うにゃっ!? い、いきなりなにを……どどど、どうするつもりっすか!?」
一瞬で茹でたタコみたいに真っ赤に染まる顔、焦りまくって視線が大忙し状態の表情……。
「……いや、特に理由があったわけじゃないんだけど、どんな反応するかなぁって……全然慣れてる感じも、成長してる感じも無いんだけど……」
「いや、カイトさん、私の恋愛クソ雑魚っぷりを舐めないでくださいよ!! いままでの経験値なんて、小数点のあとにゼロ何個つければいいんだレベルにしか溜まってないですからね!!」
「……いや、だから、そういうのってそんな自信満々に言うことなのか……」
なんというか、顔を真っ赤にして叫ぶアリスは非常に可愛らしかったが、本当にこの感じだとこの手のことに慣れる日は来ないんじゃないかと、そんな気がした。
「そういえば、アリス」
「な、なんすか?」
「話は変わるけど、前に夢で祭りを――「ストォォォォォップ!!!」――うぉっ!?」
「いいですか、カイトさん、迂闊にその時の話を振るんじゃねぇっすよ。爆発しますからね、マジで爆発しますからね」
「な、なにが?」
「私がですよ! 恥ずかしさのあまり、マジで物理的に爆発して再生しますからね。しばらく焼肉が食べられなくなるようなグロ映像を見たくなければ、その話題は即座に止めてください」
「……とんでもない脅迫してくるな、お前」
「ちゃ、ちゃんと……覚えてはいるので……も、もうちょっと時間をください」
最後に小さく消え入るような声で告げたあと、アリスは恥ずかしさを誤魔化すようにものすごい勢いで焼肉を食べ始めた。
……異常なペースなんだけど……店の肉食い尽くすつもりか、コイツ?
シリアス先輩「うわぁぁぁぁぁぁ!? や、やっぱり中編が……くそがっ、ふざけっ、ふざけやがって……」
 




