公爵級とメイド級⑨
イリスさんのバーで美味しいドライカレーをいただいたあとは、再び公爵級の認定に同行することになった。とはいっても、幻王陣営に関しては既に認定が終わっているということなので、残すは竜王陣営だけだ。
竜王陣営に関しては以前フレアさんが最強であるという話を聞いたので、認定されるのはファフニルさんとフレアさんだろう。
アリスの転移で移動すると、前方に切り立った岩山が見え、その頂上にフレアさんが竜の姿で直立して翼と一体化した腕を組んでいた。
立ち姿がやたらとカッコいい。本人は小型種であることを気にしていたが、5m近い体躯という時点で人間の俺から見ればかなり巨大で見ていて強キャラ感が凄い……いや、強キャラ感というか、実際竜王配下でも最強で世界的にも上から数えたほうが早い紛うことなき強者なんだけど……。
(……戦友にシャルティア様?)
「こんにちは、フレアさん」
(ああ、ハーモニックシンフォニーでは邪魔をしたな。戦友も元気そうでなによりだ)
「今回用があるのは、俺じゃなくてアリスの方です」
フレアさんは以前のドラゴンカーニバルの際に、俺には魔力波長でも言葉が通じると分かっているので、竜の姿のままで話しかけてきたので、言葉を返して用があるのは俺ではなくアリスであることを伝える。
しかし、そこでふと思った。たしか魔力波長はそもそも言葉ではないので、魔物以外では言葉として認識できないといった話を聞いた覚えがある……アリスはどうなのだろうか?
(シャルティア様が?)
「ええ、私ですよ。まぁ、別に大した用事じゃないんですよ。爵位級に関して調整してる関係で、各陣営から二名ずつぐらいの割合で公爵級に上げてるんです。なので、竜王陣営からはファフニルさんとニーズベルトさんを公爵級に認定します。今回はその通達ですね」
(なんと、公爵級に……いまだ未熟な身ではありますが、鍛錬の成果をこうした形で得るのは大変喜ばしく思います。むろん、ここで足を止める気もありませんが)
「喜んでもらえてなによりですよ」
「……アリスって、フレアさんの魔力波長を普通に理解できるんだな」
「基本的に魔界や人界に存在するあらゆる生物の言語や魔力波長は覚えてますから、竜種以外の魔物の言葉もわかりますよ」
サラッと言ってるけど、やっぱりコイツとんでもないな。
相変わらずのアリスの凄さに感心していると、アリスが不意に別の方向に視線を動かした。
「おっと、これは丁度良くファフニルさんが来ましたね」
(そのようですね。おそらく、丁度近くにいたのでしょう。それて、シャルティア様か戦友の魔力を感じて挨拶に来たといったところでしょうね。ファフニルは真面目ですから)
ふたりの会話を聞き、俺も視線を動かすと巨大な黒竜……ファフニルさんがこちらに飛んできていた。
ファフニルさんは俺たちの前にゆっくり着地すると、軽く頭を下げながら口を開く。
「ミヤマ殿、シャルティア様、お話の途中に失礼します。たまたま近くにいたもので、一言ご挨拶をと思いまして」
「こんにちは、ファフニルさん」
「どうも、丁度いいタイミングですよ。ファフニルさんにも用があったので……」
ちなみにファフニルさんは、フレアさんとは違い竜の姿のままでも普通に会話が可能である。というか、フレアさんがワイバーンの特殊個体であり、声帯が発達していない特殊な例で、高位竜種は大体人の言葉を話せるみたいだ。
アリスがフレアさんの時と同様に爵位級の調整と、ファフニルさんを公爵級に認定することを伝えると、ファフニルさんは最初驚いて硬直したあとで深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。素晴らしい栄誉ある肩書に恥じぬよう、今後も精進します」
真面目でファフニルさんらしい言葉ではあったが、気のせいではなく声が弾んでいる感じなので、内心かなり嬉しいのを抑えている感じだった。
そんなファフニルさんに対し、フレアさんが軽く拍手をするように手を叩いた。
(我も祝福しよう。筆頭に相応しくあろうと日々己を律して鍛錬を続けた貴公の努力の賜物だな)
「感謝する。今後もマグナウェル様の配下として恥ずかしくないよう、精進していきたいものだな」
(よい心掛けだ。どうだ、せっかくふたりとも公爵級になったのだ。ここは、更なる高みを目指して模擬――)
「断る!!」
(――戦……な、なぜ……)
「し、仕事が残っているのでな、ここ、これで失礼する。ミヤマ殿、シャルティア様、失礼いたします」
言うが早いか、ファフニルさんは翼を広げて、まるで逃げるように飛び去って行ってしまった。
ポツンと残されたフレアさんは、なんとも哀愁の漂う雰囲気で呟いた。
(……エインガナといい、ファフニルといい、グランディレアスといい、なぜ普通の鍛錬はともかく、極端に模擬戦を嫌がるのだ? 鍛錬にはとてもいいと思うのだが……)
……う~ん、前のエインガナさんの反応もそうだったし、今回のファフニルさんの反応も、フレアさんとの模擬戦をとにかく嫌がってる感じがする。
たぶんというか、確実になにか原因があるのだろう……おそらく、主にフレアさん側に……。
~模擬戦事情~
普通の鍛錬に誘えば、仕事等が無い限り付き合ってくれることの多い三匹だが、模擬戦だけは基本的に断固拒否である。
ニーズベルトとしては模擬戦もしたいのだが、三匹にとってニーズベルトとの模擬戦は完全にトラウマになっており、そうでなくとも始めたら最後時間の許す限りエンドレス模擬戦に突入するので即逃げられる。
なので、基本的にニーズベルトは模擬戦がしたくなると、戦王配下のコロシアムに出向いている。もちろん、戦王配下たちは急を要する仕事がない限り二つ返事で了承する。




