新プロジェクトの噂
ライズさんへの挨拶を終えたあとは、予定通りオーキッドとお茶をすることになった。綺麗に整えられた王城の中庭で、複数のメイドや執事がいるという、なんとも貴族らしい茶会ではある。
まぁ、それでも俺に気を使って人数は最小限にしてくれているみたいだが……。
「なるほど……素晴らしいですね。立場上、よい紅茶を口にする機会は多いですが、ちょっとこのレベルのものはいままで飲んだことがありませんよ」
「ネピュラは凄いからね。ほかにもカカオとか、最近では陶器も作り始めてるよ」
「なんとも多彩な……しかし、それにしても、世界樹の精霊とは、本当にカイトの周りには常識外れのことばかり起こりますね」
「あ、あはは……本当に、なんでこんなにいろいろ起こるのか……」
相変わらずオーキッドは、物腰穏やかで紅茶を飲む姿ひとつとっても絵になるイケメンで、物語などに出てくる王子様というイメージそのままだ。まぁ、実際に王子なわけだが……。
そのまましばらく他愛のない雑談を続けていると、ふとオーキッドがなにかを思い出したような表情で告げた。
「そういえば、噂程度ですが……セーディッチ魔法具商会がかなり大規模なプロジェクトに着手したみたいですよ」
「え? 大規模な? なんか、凄い魔法具でも作るってこと?」
「私もそれほど詳しく知るわけではありませんが、元は異世界の技術のひとつで……たしか、映像といいましたかね? 風景や人の動きを記録する技術があると……」
「ああ、うん。たしかにそういう技術はあるよ」
オーキッドが言う映像は、たしかに異世界の技術と言っていいだろう。確かに思い返してみれば、この世界の魔法具に映像を記録するようなものは無かった。
「その映像を記録する技術に関してですが、いちおう前から研究は進んでいたみたいですが、術式があまりにも複雑で高度なため、魔法具にすることは不可能と言われていたんですよ」
「たしかに、そういう魔法具を見た覚えな無いな……魔法で言うと、クロが前に千年前の夜空を再現する魔法を使っているのを見たことがあるけど……」
「冥王様であれば、たしかに扱えるかもしれませんね。しかし、一般的には空想上の魔法、あるいは異世界の未知の技術という扱いでした」
「話の流れから察するに、セーディッチ魔法具商会が、その映像記録の魔法具の作成に着手したってことなのかな?」
俺が想像する以上に、映像の記録というのは難しいみたいだ。機械製品に慣れた身としては、撮影や録画なんかは、ある程度身近なもののように感じでいたが……やはり、魔法に得手不得手というか、機械より優れている部分もあれば、機械の方が優れている部分もあるという感じかな。
「ええ、最近極めて画期的な術式の構成式が発見されたらしくて、映像記録の魔法具の作成に目処が立ったと聞いています」
「なるほど……それは、結構大きい出来事だね。実際に、完成したら技術革命って言っていいかもしれない」
「まさにその通りで、様々な貴族や商会が情報を集めようと躍起になっていますよ。少し噛むだけで、莫大な利益が期待できるとあっては、なんとか縁をと考える者も多いでしょうね。ただ、その辺りは流石セーディッチ魔法具商会、私でもほんの少ししか情報を得ることはできませんでした」
オーキッドは、王太子であり時期国王のアマリエさんを補佐すべく、様々なことを学んでいるが、特にその中でも魔法具関連に強いみたいで、その知識も情報網も相当のものらしい。
実際に、いまも最新の情報を得ているわけだしその手腕はかなりのものだと思う。それでも、少ししか情報を得れてないのは、それだけセーディッチ魔法具商会の情報管理が鉄壁なのだろう。
しかし、すごい偶然だな。つい最近、シロさんのところで映画を見たと思っていたら、映像魔法具の開発がスタートしたなんて、なんか変な縁を……縁を……。
クロは元々、過去の映像を空に投影したりそれっぽい魔法は使えていた。映像関連に関して知識があるであろうアリスとも仲が良い。
様々な情報を握るアリスにとって、映像記録というのは凄く便利なもののはずだし、そういうものがあることを知っているわりには、いままで作ってないことが不自然と言えば不自然……。
ここでひとつ思い出すのは、俺たちの居た世界の技術などは、一部シロさんとエデンさんの契約によって制限されているということだ。
その方法まではわからないが、それこそ全能といっていい神のやることだし、例えば『この世界ではその術式を思い付けない』とか、そんな制限をかけることも出来そうな気がする。
そして重要なのは、最近シロさんのエデンさんの間で、異世界の品物に関していろいろ緩和したというのを聞いた覚えがある。
てっきりそれは、香織さんの件のようにエデンさんが我が子たちの求める品をこちらに持ってくるためのものだと思っていたが……もし仮に技術なども緩和していたとしたら?
そうだと仮定した上で、なんのために映像関連の技術を緩和したか……気のせいかな? シロさんが、神域に映画館作るために緩和したような気が……そうなると、これはある意味俺が原因なのでは?
「……カイト? どうかしましたか?」
「あ、いや、なんでもない。あは、あはは……」
……うん、止めよう。これ以上考えない方がいい気がする。なんか新しい技術が発見されたんだ~ってそう思っておこう、俺の心の平穏のために……。
シリアス先輩「……つまり、そういうことなの?」
マキナ「Exactly」




