襲来する黒翼⑩
一通り買ったもので遊んだ後、されこれからどうしようという話になった。これで解散というにはまだ時間は早いし、アメルさんもまだ遊びたいという感じがした。
そこでふと、アメルさんが気に入りそうなあるものを思い出した俺は、アメルさんに提案する。
「アメルさん、提案なんですが……一度俺の家に戻ってお昼を食べたあと、特殊な魔法具のゲームで遊びませんか?」
「それは構わないが、特殊な玩具? もしかして、なにかしらの呪いが込められた……」
「いえ、そうではなくて……アメルさんって、六王祭には参加しましたか?」
「魔宴への招待は得たが、ボクもまた自由の翼を鎖で縛られし者、残念ながら全てを見通すことはできなかった」
「なるほど……まぁ、そこの5日目、幻王主催の祭りで出された最新の魔法具です」
アメルさんは、六王祭に招待を受けてはいたが忙しくて全日参加ではなく、一部の日だけ参加したみたいだった。
5日目に参加していたかどうかまでは分からないが、参加していたとしてもトーレさんのように遊んでないパターンもあるので、軽く説明をする。
最初は不思議そうだったアメルさんだが、説明を続けていくとどんどん目が輝いてきた。
「つ、つまり……その魔法具は、仮初の世界に潜り込むことができる宝具で、そこには異世界……盟友の生まれ育った世界の光景が再現されていると!」
「ええ、そんな感じです。まぁ、一部ではあるんですが、こちらの世界の方にとっては結構珍しい光景だと思いますよ」
「見たい! 異世界!!」
予想通りかなりの食い付きである。異世界とか好きそうというか、興味がある人は多いだろうが、アメルさんは特にそういう類のものに興味があると思う。
あと、なんとなくではあるがバイクとかも好きそうな気がする。
「……あっ、でも、ちょっと待ってください。実はその魔法具を使うためには、着ぐるみに入る必要があるんですが……翼が」
うっかりしていた。あのVR魔法具は着ぐるみに入る形で接続するので、着ぐるみを着れないとそもそも遊ぶことができない。
アメルさんは有翼族であり、背中に巨大な翼がある……とても着ぐるみの中に入れるとは思わないので、アリスに頼んで調整してもらう必要がありそうだが、いまからで間に合うだろうか?
そう思っていると、アメルさんはなにかに納得したように手を叩き微笑んだ。
「なるほど、だけど盟友、心配はいらない! 翼はボクの魂の一部、消し去ることはできずとも在り方に変化を加えることはできる」
「え? サイズ調整できるんですか?」
「このぐらいまで小さくできるが、問題はないかな?」
「あっ、それぐらいなら全然余裕そうですね」
どうやらアメルさんは、翼を消すことはできないが小さくすることはできるみたいで、俺の前の前で正面から見たら見えないほどに翼を小さくして見せてくれた。
まったく問題なさそうだったので、改めて転移魔法具を使ってアメルさんと一緒に俺の家へ戻った。
高層ビルの立ち並ぶ摩天楼。少しSFチックな首都高をイメージして作られたVR空間に入ると、アメルさんは分かりやすいほどにテンションを上げ、はしゃいでいた。
「す、すごい! 城より大きい建物がこんなに……ふぁぁぁ、異世界ってすごいなぁ」
「ここは、そうですね……摩天楼という場所です!」
「ま。摩天楼!? な、なんか、響きがカッコいい……」
嘘は行ってない。というか、本当にこのレースゲーム用のステージ名は『摩天楼』である。ほかにもトロピカルアイランドとか、スノーキャッスルとかいろいろあるのだが、一番俺の居た世界っぽい景色はこの摩天楼ステージだろう。
「さらにアメルさん。これがレースに使うマシンの一台です」
「鉄の獣!? き、聞いたことがある……異世界には鉄で作った神秘の道具があるって……これが、キカイってやつなんだね!!」
「まぁ、概ねその認識で大丈夫です」
神秘云々は置いておいて、だいたいの認識としては間違ってないと思う。そしてBC96に目が釘付けになっているアメルさんに、メニューの開き方などを教え、自身のマシンを選んでもらうことにした。
「ふぁぁぁぁ、ど、どれもカッコいいよ……うぅ、迷うなぁ、どれにしようかなあ?」
「初めはその若葉マーク……えっと、名前の横に緑と黄のエンブレムが付いてるのが癖が無くていいですよ。慣れたらまた別のマシンに乗ればいいですしね」
「そっか、じゃあ……う~ん……ヴァルガノフ、これだ!」
アメルさんが選んだのは黒色の大型バイクで、かなり攻撃的なデザインのマシンだ。見た目通りかなりパワーがあるマシンだが、大きく重たいため姿勢などの安定感は抜群で、意外と動かしやすい初心者向けのマシンである。
「まぁ、時間はたっぷりありますし、思いっきり遊びましょう」
「うん!」
「……ところでアメルさん、口調……」
「んんっ!?!? さ、さぁ、共に鉄の平原へ駆り出そうじゃないか!!」
どうも、テンションが上がり過ぎると口調が維持できないみたいだが、そこも可愛らしいというか、ある意味ではアメルさんの魅力のように感じられた。
そして俺たちは一日VRゲームで遊び倒し……なんというか、この一日でずいぶんとアメルさんと仲良くなれたような、そんな気がしたのは間違いではないだろう。
シリアス先輩「……仲良くなれてよかったな、よし、じゃあ私はコレで……」
???「次回を砂糖回と呼んでの退避……悪くない判断ですが、そういう時に限ってシリアスが来るのをお忘れですか?」
シリアス先輩「ぐっ!? なっ……き、貴様ぁ……そんな甘言で私を止められると思うなよ!! ……ワ、ワンチャン……あるのかな……」
???「いや、チョロ……」




