襲来する黒翼⑧
予想通りというかなんというか、アメルさんはアリスの店で結構な量の買い物をした。カラーコンタクトや包帯の他にも、特殊なシールも気に入って沢山購入していた。
日本で言うところのタトゥーシールのような感じの商品で、カッコいい模様とかのシールなのだが、少し特殊で貼り付けるとすぐに透明になって見えなくなる。
そして、魔力を注ぐと反応して模様が浮かび上がるという仕掛けになっている。
ちなみにシールはすべて魔力で出来ているみたいで、貼り付けてから16時間ほどで自動的に分解され空気中の魔力に戻っていくとのことで、ゴミも出ない環境にも優しい品である。
とまぁ、そんな感じで中二心をくすぐるアイテムが多く、アメルさんも大はしゃぎだった。俺も投げて遊ぶ幻影魔法の玉とか、前から買おうと思っていた魔導ゴマの製品版などいくつか購入した。
もしかすると今日はアリスの雑貨屋での過去最高売り上げを記録しているかもしれない。
「盟友よ! 新たな秘宝の輝きは棚に飾って愛でるだけでは駄目だ。その真の輝きを引き出すには、相応しき場で躍動させるべきだと思う!」
「う、う~ん。まぁ、たしかに俺もせっかく買ったんだし遊びたいという気持ちもありますが、街中でやると迷惑ですし、どこか開けた場所があれば……」
アメルさんは購入した品々をさっそく使ってみたいらしく、買ったもので遊ぼうと提案してきたのだが、幻影玉とかは結構派手だし街中でやるのは不味い。
俺の家の庭とかも広いことは広いが、こういったもので遊ぶならもっと公園のような開けた場所がいい気がする。
そう思いながら言葉を返すと、アメルさんはその言葉を待っていたと言いたげな表情で胸に手を当てながら口を開く。
「任せてくれ、盟友よ! さぁ、ボクと共に約束の地へ向かおう!!」
「向かう? どこか場所に心当たりがあるんですか? じゃあ、一旦外に出ましょうか」
とりあえずアメルさんの言葉に従い、俺の家には戻らずに雑貨屋の入り口から外に出る。そして、これからどうするんだろうと首を傾げていると、スッと後ろから俺の両わきの下に手が差し込まれる。
もちろん誰の手かといえば、考えるまでも無くアメルさんであり差し込まれた手は俺の体の前で組まれ……なんというか、そう、後ろから抱き着かれているような形になった。
ただ、それが色っぽい展開かと言われればそうではない。というか、なんか嫌な予感しかしない。
「安心してくれ、盟友! ボクは黒き疾風、目的の場所までなんてほんの瞬きの間に到着するさ」
「……あ~向かうって、そういう」
果たして俺の予感は現実のものとなり、後ろで大きく羽が動く音が聞こえると抱えられたまま体が浮き上がる。
なんというか、少し懐かしい。この世界に来たばかりの頃にクロに運ばれて空を飛んだ時と、奇しくも同じような形である。
「……ちなみにアメルさん、目的の場所ってどこですか?」
「アルクレシア帝国の山脈だよ!」
「なるほど……一度、アルクレシア帝国に転移してからというのは……」
「では、共に行こう! いま一時、ボクが盟友の翼となる!!」
残念ながらテンションが上がって聞こえていないようだ。このまま普通にゆっくりと空を飛んで移動とかならまだよかったのだが……アルクレシア帝国かぁ、遠いよなぁ……ってことはアレだよね? スピード出すよね?
あの黒い閃光みたいなスピードで飛ぶ感じだよね。いや、さっきから俺の周囲にいくつかの魔法陣が浮かんでたから、風圧とかが大丈夫なように対策術式は施してくれてるんだろうけど……精神的な恐怖には無意味なんだよなぁ。
「いざ、約束の地へ!!」
「――ッ!?」
そして、直後に背後で花火でも上がったのではないかというような音が響いたかと思うと、景色がぶっ飛んだ。
……早っ!? 分かってはいたけど、えげつないほど早いし……早すぎて景色もロクに見えないので、抱えられてるだけというこの体勢が怖すぎる。
たしか、シロさんの遊園地で乗ったジェットコースターがマッハ10とかだったよな? それと比べても明らかに早すぎるので、もっととんでもないスピードなんだろう。
ただ、最初こそビビったが……これだけ早すぎると、逆に冷静というか、俺の動体視力では景色はまったく見えないし、対策術式で風圧とかも来ないので、そこまで恐怖はない。むしろ、アリスの運搬方法よりはるかにマシである。
景色を楽しむことが出来たりするわけではないが、来る時のことを考えると数分で着くだろうし、問題はない。
ただ、ひとつ……景色も見えない、対策術式で風圧もない、音とかもほぼ無い……と、割と他に入ってくる情報が無い状態になってしまうと、いまある情報を鮮明に感じ取ってしまうのは致し方ないと思う。
具体的には、背中に感じる温もりというか、柔らかい感触というか……そっちか気になってきてしまう。意識しないようにと考えるとなおさらである。
なんというか、かなりいたたまれない気持ちになっているので……できれば、早急に到着してほしいものである。
シリアス先輩「そういえば、このアメルの件が終わったらどうなるんだ? 時間飛んで結婚式?」
???「いえ、結婚式はまだ先ですし、日常回的な感じですかね。あと甘いもの食べたいみたいです」
シリアス先輩「だから勝手に食ってろよ!! こっちを巻き添えにしようとするんじゃねぇぇ!!」




