襲来する黒翼⑦
イリスさんのバーで軽く食事をしたあと、改めて直通の扉を通ってアリスの雑貨屋に辿り着く。すると例によって、ねこの着ぐるみが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~」
「え? あれ?」
「ああ、さっきの武器屋の店主と同一人物ですし……あと、そいつ幻王です」
「ッ!?!? 虚ろなる幻影の王!?」
なんというか、少し新鮮な気分ではある。アリス=幻王というのは、俺の周囲の人たちには周知の事実だが、知らない人にしてみれば、そりゃ驚くよな。
けど先に言っておかないと、あとから知るともっと驚くだろうし、先んじて言っておいた方がいいというのは、リリアさんの件からさすがに学んでいる。
「な、なぜ、虚ろなる幻影の王がここに……」
「ふっ、私は世界を欺く道化、虚ろなる幻影、あらゆるところに私は有るのですよ」
「……やっぱ、カッコいい……」
「うん?」
「ファンです! サインください!!」
これはまさかの展開である。アメルさんはなんとアリス……もとい幻王のファンだったらしい。いや、まぁ、よくよく考えてみれば、素性不明で世界を裏から支配するとか考えると、アメルさんが好きそうな存在ではある。
しかし、う~ん……。
「アメルさん、ソイツはやめておいた方がいいと思いますけど……」
「ちょっとっ!? カイトさん!?」
なんとなく忠告だけはしつつ、色紙にサインを書いているアリスを横目に、雑貨屋を眺めると……見覚えのない棚を発見した。
結構な頻度で雑貨屋には来てるはずだけど……なんだあの棚。えっと、なになに……『神秘! 闇と光混ざりし混沌の秘宝たち!!』……コイツ、アメルさん用に棚用意しやがったな……いろいろ売りつけてやろうという魂胆が見て取れる。
そんなことを考えていると、サインをもらい終えたアメルさんが近づいてきた。
「……盟友、なにを見て――こ、これはっ!?」
そして、予想通り棚を見て即効食い付いた。
「探していたカラーコンタクトに、他にもいろんな商品が、ど、どれもカッコいい……欲しぃ。これとか、どういう品なんだろ、うわぁぁ、ワクワクする――はっ!? んんっ!? さすが盟友の慧眼には恐れ入るよ。これほど力に溢れた品々の並ぶ祭壇を見出すとは……」
テンションが上がり過ぎて、素が出る頻度が上がっている気がする。まぁ、その辺りは突っ込まないのが優しさだろう。
「カラーコンタクトは同じ効果でしょうから分かりますが、それ以外にもいろいろありますね……アリス、この黒い包帯は?」
「それもちょっとしたアイテムですよ。コレはこっちの魔法具とセットで、この魔法具に装着した状態で使用者登録……音声の登録をします」
謎の黒い包帯について聞くとアリスがカウンターからこちらに来て、どうやら実演をしてくれるみたいで包帯を手に巻き始めた……もちろん着ぐるみの腕に巻いてるので、なんか間抜けな姿ではあるが。
「さっきのリングと同じようにキーとなる言葉で作動します……『解放』」
「おっ、包帯がかってにほどけて……浮いてる?」
「ふあぁぁぁ」
「もともと巻いていた腕の周囲に広がって滞空する感じですね。そして……『封印』」
説明しつつ、アリスが新たに告げると、今度は解けていた包帯が自動で腕に巻き直される。あ~なるほど、包帯による封印を言葉ひとつで解放したりできる感じか……うん、アメルさん、絶対買うな。
「凄い! 凄い!!」
「カラーバリエーションも取り揃えていますので、オススメですよ。あとこっちの玩具も結構面白いですよ」
「なんだこれ、ボール?」
テンションMAXではしゃぐアメルさんを見て苦笑しつつ、アリスが新たに取り出した品を見る。ピンポン玉ぐらいのサイズのいろいろな色の玉だが、ソレだけというわけではないだろう。
「これはですね。こうして握って魔力を込めてから投げると……」
「うぉっ!?」
「雷神の一撃!?」
アリスが投げた玉が光ったかと思うと、部屋に広がるように稲妻が迸った。こちらにも向かってきてビックリしたが、特に痛みとかはない。
「派手ですけど、これ見た目だけです。一種の幻影魔法みたいなもんですかね。いわゆるパーティグッズって感じで、炎とか水とか、いろいろな演出を楽しめる感じですね」
「……普通に結構楽しそう」
見た目が派手で目を引くし、使い方も魔力を込めて投げるだけで簡単に遊べそうだ。普通に投げて遊んだりするのもちょっと楽しそうである。
「あと風もないのにはためくマントとか、いろいろありますよ」
「あれも、これも、全部欲しいなぁ……あぁ、でも、いっぱい買っても全部いきなり使えるわけじゃないし、普段身に付けられるものを中心に買うのがいいかなぁ……盟友! 盟友は、どれがいいと思う?」
「う、う~ん、カラーコンタクトは元々買う予定だったので除外するとして、包帯はいまのアメルさんの包帯と付け替えられるのでいいんじゃないですかね? さっき買った槍と合わせると、力を解放する~みたいな感じにできるんじゃ……」
「うんうん! そうだね、やっぱり包帯は買いだよね! カッコいいなぁ、何色がいいかな?」
「……あの、アメルさん?」
「うん? どうしたの、盟友?」
「いや、口調……」
「あっ……ちょ、ちょっと、まって、いまの無し!! こほんっ……こちらの包帯の方が、封印の質は高くなりそうだ。ボクの腕に封印された力は強大だし、やはり少しでも封印の強度は上げておくべきだね」
完全に素に戻っていたので、指摘すると……アメルさんは咳払いをしていつもの口調に戻った。ただ、耳まで真っ赤になっており、視線もそらしているのでかなり恥ずかしがっているように見えた。
シリアス先輩「やっぱ、お前……アリスって、いまだに発病中なんじゃないのか?」
???「……気のせいでは?」
シリアス先輩「……」
???「なんすか、ドクター呼びますよ?」
シリアス先輩「やめろ! というか、さも当たり前のように脅迫として使うな!!」




