襲来する黒翼⑥
アメルさんにとって大満足の武器屋での買い物を終えて、傍目に見てもウキウキしている様子のアメルさんと一緒に、今度はバーの方に向かう。
とはいっても、イリスさんは昼間はアイシスさんの城に居るので、バーが営業しているのは夜だけだ。なので、今回は雑貨屋に向かうために通過するだけである。
「うん? ミヤマカイトと、そちらは初見だな」
「あれ? イリスさん? この時間はアイシスさんのところに居るんじゃ……」
バーに入ると、なんかすごく普通な感じでイリスさんが出迎えてくれた。
「その通りだ。事実として、本体の我はアイシス様の城にいる」
「……ってことは、もしかして分体ですか?」
「ああ、アリスに教わってな。我はアヤツ程この魔法は得意ではないので、1~2体が限界ではある。まぁ、そんなわけで、昼は分体で営業を行う故、来店も問題ないぞ」
「なるほど……あっ、紹介します。こちらはアメルさんといって、有翼族の長の方です。アメルさん、こちらはイリスさん……死王配下の筆頭で、このバーの店主を兼任している方です」
イリスさんの説明に頷いたあとで、アメルさんとイリスさんのふたりをそれぞれ紹介する。
「死を司る王の? はて、ボクの記憶では死を司る王には、現世にて付き従う星々は顕現していないと思っていたが……時のズレか、それとも、ボクが虚ろなる影を捉え切れていないだけなのか?」
「我がアイシス様の配下となったのはごく最近だ。知らぬのも無理はない」
「そうか、改めて言の葉を交わそう。ボクはアメル、黒き疾風と呼ばれる天翔ける翼。盟友の導により深き地の宮に足を踏み入れた。祭壇に注ぐ品はあるが、罪の一滴を得ることはできるだろうか?」
「死王配下筆頭、イリス・イルミナスだ。よろしく頼む……ああ、別に構わん。こうして我がいる以上営業中だ。飲み物以外に軽食も用意できるが?」
「……イリスさんって、アメルさんの言ってることがちゃんと分かるんですね」
先ほどのアメルさんの発言の後半は「お金を払えば、お酒を注文できる?」という質問だった。イリスさんはソレを正確に理解しており、特に動じることもなく返答していた。
もしかしてイリスさんも、過去に病を……いや、そういえば、結構いろいろカッコいい詠唱してた気がする。
「変わった喋り方ではあるが、ある程度の推測はできるというだけだ。それよりどうする? ミヤマカイトも、飲んでいくか?」
「あっ、そうですね。じゃあ、アメルさん少しなにかいただいていきましょうか?」
「賛成するよ。丁度少し業の不足を感じていたところだ」
ちょっとお腹が空いてるらしい……。
「じゃあ、ノンアルコールでなにか飲み物と軽食をお願いします。アメルさんはお酒の方がいいですか?」
「いや、ボクも盟友と同じものを頼む」
「承った。それでは、席に座って少し待っていろ」
そう言って俺とアメルさんに席を勧めたあと、シャカシャカ振る道具……前に教えてもらったが、シェイカーという道具を用意する。ノンアルコールのカクテルでも作るのだろうか?
三種類ほどなにかを入れて、シェイカーを振ったあと、俺とアメルさんの前に用意したグラスに完成したカクテルを注ぐ。
「……シンデレラというカクテルだ。酒が飲めぬ者でも、バーに行くことができるというのを、魔法をかけられ舞踏会に参加するシンデレラになぞらえて名付けられたカクテルだ」
「綺麗な黄色ですね」
「オレンジ・パイナップル・レモンのジュースを混ぜたもので、爽やかな柑橘系の味が楽しめる」
軽く説明を加えながら、用意してくれたドリンク。グラスを手に持ってアメルさんの方を向くと、なんか滅茶苦茶キラキラした表情を浮かべていた。
「お洒落なバーでお洒落なドリンク……大人のカッコよさ……いい」
「アメルさん?」
「ッ!?!? な、なにかな?」
「ああ、いえ、せっかくですし乾杯しませんか?」
「そ、そうだね。では、ボクたちの果てなき友情に……」
不意を突かれて少しワタワタ慌てていたアメルさんだが、すぐに気を取り直して微笑みと共にグラスを差し出してきたので、軽くグラスを合わせて乾杯する。
すると、丁度タイミングよくイリスさんがサンドイッチの乗った皿を出してくれた。一口サイズに作られたサンドイッチは、見た目や盛り付けもスマートでイリスさんのセンスの良さが伝わってきた。
そのまま俺とアメルさんは、しばし美味しい料理とドリンクを楽しみながら、他愛のない雑談に花を咲かせた。
シリアス先輩「実際問題、魔導兵装とかもそうだけど……アリスよりイリスの方が中二度は高い気がする」




