襲来する黒翼④
アメルさんの言葉を通訳しつつ、リリアさんとの会話も詳しくは後日担当の者と交渉するということでまとまった。
そのあとは、アメルさんと共に俺の家の方に戻る。このままお茶をしつつ雑談でもいいのだが、ふと思い出したことがあった。
「アメルさん、お茶会で言ってた光るコンタクトレンズを売ってる店なんですが、王都にあるので時間があるならいまから行きますか?」
「おお、それはありがたいね。輝きの導は様々な煌めきを用意したいと思っていたんだ。盟友が構わないのであれば、是非ボクを導いて欲しい」
「分かりました。それじゃあ、外に……」
外に出て向かいましょうと言いかけたが、ふとその必要が無いことを思い出した。
というのもアリスの雑貨屋は、俺の家の地下のバーにある扉から直通で移動できる。
「ああ、外に行かなくても直通で行く方法がありました」
「転移かい?」
「近いんですが……地下にあるバーに、店に直通する扉があるんで……」
「……地下にバー?」
「あっ、えっと……」
馴染み過ぎてすっかり忘れていたが、よく考えるまでもなく地下にバーのある家というのも変な話である。アメルさんの反応も当然の……当然の……あれ?
「地下に、専用の……バー!?」
困惑しているとかではなく、感動しているような表情だった。
「か、カッコいい……いいなぁ、自宅にある専用のバー、ボクも欲しい……んんっ!? さすがはボクの盟友。素晴らしい趣味だ」
「あ、ありがとうございます」
自宅にバーがあるというのは、アメルさんにとっては憧れる要素だったらしい。たしかに言われてみれば、バーというのはカッコいい。
ただそれは、利用者がバーが似合う場合の話のような気がする。例えば、オズマさんとかならバーで酒を飲んでいるのが凄く絵になるだろう。
俺もバーが似合う大人の男になりたいものだが、まだまだ先は長そうである。
そんなことを考えつつ、乗り気なアメルさんを連れて家の地下に向かう。
「……この先がバーになってます」
「盟友、こちらの扉はなんだい?」
「あ、ああ、そこは……えっと……武器屋です」
「家の、地下に、武器屋!? か、隠されし秘密の……す、凄いよ……なんてカッコいい……め、盟友! 叶うのなら数多の刃の煌めきをこの目に焼き付けたいのだが……」
そろそろ目からビームでも出るんじゃないかと思うほど目が輝いている。葵ちゃん以上にそういうロマンが分かるというか、秘密の武器屋というだけでテンションがとんでも無いことになってる感じがする。
武器屋に寄りたいというアメルさんの願いを無下にする理由もなかったので、一度アリスの武器屋の方に向かうことにした。
武器屋の中に入ると、例によってライオンの着ぐるみが出迎えてくれる。
「……ふ、不思議な雰囲気の店主……やはり、この店は深き地に隠されし伝説の秘境!」
……いや、階段少し降りただけで別に地下深くでもなんでもないんだけど……まぁ、いいか。
「はわわ、どの武器も超一級品、すごいよ! この剣とかカッコいいなぁ……」
「……アメルさん?」
「はっ!? んんっ……す、素晴らしい煌めき、店主……ただ者ではないな」
ショーウィンドウのトランペットを眺める音楽少年みたいな顔になってる。まぁ、たしかによくよく考えてみれば、武器屋とか好きそうだしなぁ。
そんなことを考えていると、ライオンの着ぐるみを着ているアリスが、なんか妙に重々しい雰囲気を出しながら手を組んで呟く。
「……どうやら、なかなか見所のあるお嬢さんみたいですね。もしかすると、貴女ならコレが使いこなせるかもしれませんね」
「こ、これは……」
なんか変に芝居がかった口調で告げながらアリスはカウンターの奥から、かなり禍々しいデザインの槍を取り出した。
「銘を『魔槍・ウロボロス』……」
「魔槍っ、ウロボロス……」
あっ、これ買う、アメルさん絶対買う。魔剣とか魔槍とか、絶対大好物だし……いまも歓喜に打ち震えているような表情を浮かべているので、間違いなく買う。
そう確信した俺は、チラリとアリスを睨む……『ぼったくったりしたらダダじゃおかない』という意思を込めた視線だったが、直後感応魔法に感情が伝わってきた……『ちゃんと適正価格で売ります』。
え? いや、なんだこれ? どういう感情? また変に器用なことを……まぁ、とりあえず高値で売り付けたりしないんなら、いいか……アメルさん滅茶苦茶喜んでるし、性能が一級品なのは間違いないわけだし。
シリアス先輩「……そういえばコイツ、中二的な会話通じる奴だったな」




