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お茶会で深まる絆⑥



 リリウッドさんはクロの家を出て独立してからのことを話し始める……かと思うと、少し考えるような表情を浮かべたあとで、なにやら微笑んだ。

 まるで。なにかいいことを思い付いたと、そんな感じの顔に見えた。


『……普通に話をしてもいいのですが、せっかくですし少し趣向を凝らしましょう。ちょっと、テーブルが大きいので移動しますね』

「う、うん?」


 俺が首を傾げていると、リリウッドさんが立ち上がり、俺の近くに座りなおした。すぐ隣というほどではないが、少し手を伸ばせば届くぐらいの距離だ。

 そして、リリウッドさんはスッと俺に手を差し出してきた。


『カイトさん、私の手を取ってください』

「手を? えっと、こうですか――なっ!?」


 リリウッドさんに言われるがまま、差し出された手を取ると、次の瞬間一瞬で景色が切り替わった。

 そこはなにもない草原といった感じの場所で、整えられているわけではないありのままの自然とでもいう光景が広がっていた。


『おそらくリーリエが同じことをしたと思いますが、カイトさんの感応魔法に共鳴する形で、魔力に宿った感情だけでなく景色も同時に見せています……言ってみれば、私の過去を見せているような形でしょうかね? まぁ、厳密に過去の様子というわけではなく、記憶からの再現ですがね』

「リリウッドさん……そんなこともできるんですね」

『カイトさんの感応魔法に似たことはできますよ。カイトさんほど飛びぬけた魔力適応は難しいですが、このぐらいでしたら簡単です』


 さすが、リリウッドさんも魔界の頂点の一角というべきか、いろいろなことができるみたいだ。そういえば、前にチラリと感応魔法に似たことはできると言っていた覚えもある。

 つまり、いま見ているこの景色はリリウッドさんの記憶から再現した過去の魔界というわけなのだろう。正直草原だけでは、分からない……と思っていると、視線の先に見覚えのある姿が……というか、アレ、リリウッドさんでは?


「……アレって、リリウッドさんですか?」

『ええ、過去の私ですね』


 視線の先に居たのは、巨大な樹の杖を手に持ち、草原に咲く小さな花などを確認しているリリウッドさんだった。

 過去……クロの元から独立したばかりというと、2万年近く前の話のはずだが、リリウッドさんの姿はいまとほとんど変わらない。

 ほんの少し、葉っぱの髪が短めかもしれないが、本当にその程度の違いしかない。


『クロムエイナの元を出たあとで、最初に行ったのは……おそらく他のほとんどの六王もそうでしょうが、配下を集めることでした』

「精霊を探しているって感じでしょうか?」

『正しくは《新しい精霊を作ろうとしている》というべきですね』

「え? 精霊を、作る?」

『ええ、私は魔力のある花や木を探して己の魔力を注ぎました。精霊というのは大きな魔力を持つ植物に宿るのですが、いかんせん精霊が宿るほどの大きな魔力を宿す植物というのは稀です。故に、当時は精霊の数自体が非常に少なかったのですよ』


 そう言って説明しながら、リリウッドさんが過去の自分を軽く指差す。それに導かれるように視線を向けると、リリウッドさんは一輪の花に魔力を注いでいた。


『もちろん私の魔力を注いだからといって、必ずしも精霊が宿るわけではありませんが、自然発生するよりはずっと確率は高くなります』

「あっ、だから、リリウッドさんは配下のことを眷属って呼ぶんですね」

『その通りです。とはいっても、もちろん私が魔力を注がず自然に発生した精霊や、精霊以外の種族も居るのですが……統一して眷属と呼んでますね。まぁ、昔からの癖という部分が強いのですが……』

「……けど、結構地道ですね。こうやって魔力を注いで、精霊が生まれるのを待ちつつ、次の場所へって感じですか?」

『ええ、実際最初に眷属が出来るまでしばらくの時間がかかりました』


 注いだ瞬間精霊が生まれるというわけでもない以上、やはりどうしても時間はかかる。ただそういう時間のかかる手段を取ってでも、出来るだけ同族の配下が欲しいという気持ちも理解できる。

 特にクロの元から独立して間もない時期だったのだし、なにより信頼を寄せられる部下が欲しかったんじゃないかな?


「……そういえば、話は変わりますけど、昔のリリウッドさんて今の姿とほとんど変わりませんね」

『そうですね。元々精霊が実体を持てるようになるのは、それだけ十分な力を付けてからですから、姿は最初からほぼ変わってないですね。ただ、一部本体の成長に影響を受けたのか《胸が少し大きく》なりましたね』

「……」


 ほう、なるほど……こうしてみる限りでは、過去のリリウッドさんも現在のリリウッドさんも大変立派なものをお持ちに見えるが、たしかに言われて比べてみると……いや待て、ふざけるなよ宮間快人。

 同一人物だからと、過去の姿といまの姿の胸を見比べて比較するとか、人として最低の行為だぞ……冷静に、冷静になるんだ。


 温泉の時から分かってたじゃないか、リリウッドさんは自分は木であるという意識が強いので、そういうことに無頓着なだけ……こういう無防備な発言をすることもある。

 だからこそ、俺の方がグッと堪えて理性的な行動をとらなければらないんだ……胸に視線を向けるな、我慢しろ……。


『……やはり……意識してくれるのですね』


 リリウッドさんの何気ない一言に、一時変に意識してしまって、努めて冷静であろうとしていた俺は、その際にリリウッドさんが小さく呟いた言葉を聞き逃していた。





シリアス先輩「一話丸々かけて、要約すると『昔より胸が大きくなった』という話に辿り着くとは、恐れ入った……」

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― 新着の感想 ―
[一言] えちちちちちちち
[良い点] カイトの勘凄まじいな……アリスが心読んで、逐一検証していけば、この世界の謎はすべて解明できるんじゃないかってレベル。
[気になる点] 本来なら人と精霊・妖精は子を成せなかったとしても、世界のルールたるシロさんがちゃちゃっとやってくれそう。
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